ラビット・ティーパーティ
「ということで、バイトとして入ってもらうルカだよ」
「よろしく」
私はギルドホールで正式にルカをバイトとして雇う契約を交わした。
バイト日や時給、それに代売りの手数料とかはお互い納得のいく値段にすることができたし、あとはちゃんと売れるかだけが問題だ。
そして今、正式に雇ったルカをサイとリアの二人に紹介している。
「ってことは、リアは販売に回った方がいいですか?」
「そうだね。ルカが来てくれたおかげでフロアの方が回るようになるからね」
「俺は収穫とかが終わったらそっちを手伝う形でいいのか?」
「うん、お願いね」
まぁ料理を作れるのが私だけだから、そこはいいかな。
「ってことで、ルカはフロアで接客お願いね」
「頑張る…」
ちゃんと注意書きとか書いておくから…。
「でもまだ料理の材料が揃いきってないから、お店を開くのは来週ぐらいからかな?」
「その来週ってこっちでの?」
「んと、こっちでの来週にするとまだ食材足りないからあっちでの来週かな? ルカは大丈夫?」
「だいじょぶ」
三週間あればある程度の食材も揃うし、ルカも売る品物を作る時間もできるもんね。
それにルカの接客用の服もね…ふふふっ。
既にリーネさんに手配済みなのだ。
もちろん支払いは私がやるけどね。
開店準備や料理の試作をしている内に、あっさり一週間が過ぎていった。
そしてお店を開くということなので、いっそのこと店の名前も考えようとリンやショーゴたち、それに知り合いたちにも勧められた。
案としては『アリス・イン・ワンダーランド』といったのが挙がったが、不思議の国のアリスを直訳したみたいだったので却下しといた。
とはいえ他に浮かぶものがなかったが、誰かが言った『お茶会』というのは気に入った。
まぁ喫茶店みたいなものだもんね。
あとはそれに何を付けるかということだが、ピンとくるものがイマイチなかった。
そこで、私のイメージと付け合わそうということになった。
そして誰かがボーパルバニーとか言ったが、それは看板にしようと満場一致で勝手に決められてしまった。
でもウサギは可愛いし、いいかなと思ったのでその事を伝えると、アリスが気に入ったのならそれにするといいと言われたのでウサギで決定した。
『ラビット・ティーパーティ』
これが私の喫茶店の名前となった。
単にウサギとお茶会を英語に直しただけなんだけどね。
まぁ喫茶店とは言ってもまだ紅茶やコーヒーはないんだけどね。
「んでこの物騒な看板は…」
「皆監修、私作製」
そして店の前に看板が置かれたのだが…。
「なんで刀を持ったウサギが血まみれの看板なの…」
「アリスをイメージして作った」
えぇ…。
これで人来るの…?
「世論調査も済んでる。アリスの店って一目でわかるから親切って出た」
「私のイメージどうなってるの!?」
そもそも食事をするのに、血まみれの看板なんて見たくないよね…?
でもせっかく作ってもらったし…。
まぁ客足に響くようなら悪いけど取り外すことにしよう…。
「ということで、開店まであと一時間切ってるわけです」
「お品書きとかの確認、だいじょぶ」
「ってことでルカ、この接客用の服に着替えてね」
「わかった」
そう言って私はルカにメイド服をトレードする。
ルカは身に着けていた装備を受け取ったメイド服に変えた。
「っ!?」
ルカは着替えてびっくり、メイド服だったことに気づいて顔を赤く染める。
デザインは一般的な白と黒が基本のメイド服でお願いした。
ちなみにリアとお揃いだ。
「なにこれ…」
「えっ? メイド服だよ?」
「それはわかってる…でも…」
ルカはメイド服姿に恥ずかしがっており、もじもじとしている。
私の服装はメイド服ではなく、いつもの着物にエプロンを付けて調理を行う。
まぁ新しい防具はもう少し時間が掛かるとのことなので、気長に待つことにしている。
「アリスだけずるい…」
「私は接客じゃないからね」
「てかこの服…私にサイズ合ってるんだけど…」
「まぁルカにサイズ合わせて作ってもらったからね。あっ、代金は私が払ったから気にしないでね」
「うっ…」
私が代金を払って作った物ということで、ルカも観念したそうだ。
さてと。
「こんなことやってる間に開店時間近くなってきたから、ルカは扉の前に待機してね」
「むぅ…。わかった…」
私が指示すると、ルカは扉の近くに待機した。
だが、やっぱり恥ずかしいのかそわそわしながら辺りを見渡している。
まぁ初日だし、特に情報公開もしてないからポーション買いに来た人ぐらいしか来ないでしょ。
と思っていた時期が私にもありました。
「おーい、アリスー。来たぞー」
「せっかくだし来たぞ」
「あら~ルカちゃんその服似合ってるわよ~」
「ルカさん可愛いです!」
「ルカちゃんマジ可愛い!」
開店と同時にショーゴたちがお店に入ってきた。
そして早速ルカは顔を赤くして五人の接客を始めた。
「いっ…いらっしゃいませ…。アイテムの購入ならあちらへ…。お食事なら案内致します…」
ルカ…後半声が消えかかってるよ…。
でも恥ずかしがりながらも頑張った!
「五人も席座っちゃ邪魔だろうし、今日はアイテムだけでいいや。あとパンテイクアウトで」
「でっではカウンターへどうぞ…」
そう言ってショーゴたちはリアのいるカウンターへ向かった。
あちらにはテイクアウト用の食べ物の一覧が置いてあり、リアがその注文を取ってくれる。
「ご主人様―! 卵サンド5つお願いしますー!」
「はーい」
私は注文された卵サンドを調理する。
その間にも別のお客さんがお店に入ってきてルカが接客している。
今度のお客さんは知り合いではなく、本当にお店に来るお客さんだった。
「いっ! らっしゃい…ませ…」
ルカが緊張して声が跳ね上がったのが聞こえたが、いま私は料理を作ってるから手伝えないんだ。ごめんね。
「はい、卵サンド5つできたよ」
私が渡した卵サンドをリアが受け取ってショーゴたちに渡す。
そして代金を払ってショーゴたちはお店から出て行った。
すると今度はルカからメッセージが届いた。
現実みたいに注文の時に使うデバイスはないので、メッセージをそのデバイス代わりに使うことにした。
これなら履歴も残るので間違いも起きにくいからである。
「さて、ハムサンド2個にアップルジュースね」
私は注文された品物を急いで調理する。
てか次々にお店に人が入ってきて大忙しだ。
席もそんなに多くないのだが、食べたら早めに出るお客さんが多いので、無駄に回転率が高い。
おかげで私も休む暇がない。
午前三時間、休憩一時間、午後四時間の計七時間労働が終わり、喫茶店側のお店の看板をOPENからCLOSEに変えた。
私とルカは椅子に持たれかかって休憩していた。
「やばい…これやばい…」
「人…多すぎ…」
多めに食材を揃えていたはずなのに、全体の八割近く消費していた。
そして料理も比較的値段を少し高めに設定していたのだが、普通に売れまくった。
なんで一日で売り上げが8万近く行くの…。
しかも喫茶店側だけで…。
「これ…週一にして正解だった…」
「確かに…消費がやばい…」
さすがにこれを週三とかやったら食材が尽きるし、私たちの方も倒れる。
「結構消費したな。少し植える数増やした方がよさそうだな」
「ありがと…サイ…」
サイは消費した食材の数を見て、畑の調整を行うようだ。
ほんと頼りになる。
「リアも…もう少ししたら休憩していいからね…」
「えっと…リアは大丈夫ですので、ご主人様たち休憩して平気ですよ…?」
死屍累々の私たちの様子を見て、リアが気を使ってくれている。
とはいえ、小さな子にそこまで気を使わせてはいけない。
私は気合を入れてリアの隣に移動し、アイテム販売を行う。
結果的に、本日の売り上げは二十万を超えていた。
ルカのアイテムも結構売れたようで、数万いっていた。
この調子なら結構早めにお金貯まりそうだね。
でも…なんで広告もしてないのに、あんなにお客さん多かったんだろう…?
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