急がば回れ
「ということなんですけど、何かいいアイデアありませんか…?」
「んー…なかなか難しい相談にゃ。資金を貸してあげるのは簡単にゃ。でもそうするとルカちゃんのためににゃらにゃいし、ルカちゃんもその事で色々と悩んでしまいそうにゃ」
私は今リーネさんに何かいいアイデアがないか相談に来ていた。
一人で考えるよりも、実際にお店を開いているリーネさんに相談した方がいいかと考えたからだ。
とはいえ、そうそういいアイデアが出るわけがなく、二人で喉を鳴らして唸っていた。
「アルバイトとかできればいいんですけどね…」
「それは結構難しいと思うにゃ。日当ならともかく時給となると今度はアリスちゃんが支払えなくなるかもしれないにゃ。正直、私も月額ってなってるから支払えてるのもあるのにゃ」
確かに一日八時間労働として、時給1000Gとした場合8000Gとなる。
これが三倍となっているNWOで三日丸々入ったら24000G。
それが一ヵ月続いたとしたら単純計算で72万Gとなってしまう。
さすがに全部丸々は入らないにしても、一日八時間×20日としても16万Gとなる。
現在レッドポーションを一個210Gで売っており、先ほどの仮代金を払うとしたら760個近く売らないといけない。
それも一月でだ。
一時間当たりの生産量が大体20個なので、38時間使うことになる。
二日あればできるじゃんとか思うけど、生産活動って意外に精神を削られるものだ。
しかも同じ物を延々と作るなんてなると発狂しそうになる。
同じ作業を黙々と続けるというのは、かなり大変な事なのだ。
だからこそ【集中】スキルというのがあるのだろうけど、あれは使った後の反動がやばいので正直あまり使いたくない。
「となるとやっぱり代売りが今のところいいかにゃ…?」
「そうですね…。私もルカを雇ってもいいんですけど、どうしても資金面が…」
「まぁそこが難しいから仕方ないにゃ。生産した物を仕入れてそれを売るっていうことじゃないから、どうしても生産活動が必要になってくるにゃ…」
そこなんだよね…。
あっちが立てばこっちが立たず、という状況なんだよね…。
「これじゃあ料理売り出すのももう少し先かなぁ…」
「…アリスちゃん、ちょっと待つにゃ」
「え?」
私何か変なこと言った?
「今料理を売り出すって言ったかにゃ?」
「はい…言いましたけど…」
「それなら手があるにゃ」
「えっ…?」
なんで料理を売る事だとなんとかなるの?
「アリスちゃんは今ポーションを毎日販売してるにゃ。それはあってるかにゃ?」
「はい、私がいない日はリアに任せてますけど…」
「でも料理となるとアリスちゃんがいる時しかできないにゃ」
「まぁ…そうなりますね…」
「ってことは、ある一定の日だけをルカちゃんのバイト日にすれば資金もそこまで必要にならないにゃ。それと並行してルカちゃんの品物を代売りしてあげればいいにゃ。それならルカちゃんも生産できるし、アリスちゃんも色々活動できるにゃ」
確かに急いでルカにお金を稼がせる事だけを考えてたから、リーネさんが言うように一定の日だけルカを働かせるという事を考えられなかった。
例えば週2にすればそこまで無理でもないし、ルカも自分の事をできる。
お金としてはそこまで稼げないかもしれないけど、その分生産できたものが売れれば資金も貯まっていく。
ポーションを毎日売ってたから、毎日開かないといけないと思ってたのがダメだったね。
「でも一つ問題があるにゃ」
「なんですか?」
「そもそもプレイヤーを雇う事ってできるのかにゃ?」
「……」
言われてみればそうだよ。
そういうのの手伝いをしてもらうためにサイやリアたちみたいな子や、リーネさんが雇っている人たちみたいな人もいる。
ということでここはGMコールで聞いてみることにした。
リーネさんもGMに聞いた方が確実にゃ、という事で早速呼び出してみた。
『はい、こちら運営スタッフです。どういたしましたか?』
『えっと…知り合いをお店で雇いたいんですけど、そういうのって可能ですか?』
『知り合いというのはプレイヤーということでよろしいですか?』
『そっそうです』
『そういったことについては可能と言えば可能です。ですが、その場合は雇う方のお店がある街のギルドで契約書を交わす必要があります』
『それはギルドホールで言えば大丈夫ですか?』
『はい、大丈夫です』
『わかりました。ありがとうございます』
『ではまた何かありましたらお問い合わせ、もしくは緊急性の場合はGMコールをご利用ください』
どうやら大丈夫なようだ。
「なら後はいつ料理屋を開くかかにゃ?」
「そうですね。それも含めてルカと相談しないと…」
こっちが勝手に決めちゃってるけど、ルカだって予定あるもんね。
まずは連絡しないと…。
「まぁ解決してよかったにゃ」
「リーネさん相談に乗ってくれてありがとうございます」
私はリーネさんにお礼を言ってルカに連絡を取った。
ルカに連絡を取ってお店に来るように言った後、簡単なパン料理を作って席に座ってルカを待つ。
しばらくするとルカがお店に着いたのか、ドアをノックした。
「来たよ」
「入っていいよ」
「失礼します」
「そう緊張しないでいいよ。ほら、席に座って」
「うん…」
ルカが席に座ったので、先ほど作った皿に乗せたパン料理を差し出す。
「これは…?」
「今度お店で出す料理の一つ。今回は卵サンドにしてみた」
ルカは卵サンドを手に持ってその小さな口に運ぶ。
「っ~!」
「美味しい?」
ルカはコクコクと頷いた。
どうやら美味くできたようだ。
ルカが卵サンドを食べ終わったのでさっそく本題に移る。
「ルカ、私のお店でバイトしない?」
「バイト…?」
「まぁバイトと言っても、現実の週二日ぐらいだからそこまでお金貯まらないんだけど…」
「それは別に構わない。でもいいの?」
「お店開くに当たって人手が欲しかったからね。あとルカの作った物も代売りしても大丈夫だよ」
「いいの…?」
「まぁたぶん手数料を取らないといけないかもしれないから、そこはごめんだけど…」
「それぐらい当然の対価。でも…」
ルカが少し心配そうにこっちを見る。
おそらく自分のことで迷惑を掛けていると思っているのだろう。
私は席を立ってルカの隣に移動する。
そしてルカの手を両手で握ってあげる。
ルカは不思議そうにするが、私は微笑んで声を掛ける。
「困った時はお互い様でしょ? それに私はルカに助けてもらってばっかりだし、少しぐらい手伝わせて」
「助けたって、何かしたっけ…?」
「ポーション作製のためのビン作ってくれたり、私が大変な時に助けに来てくれたし、他にも色々あるよ?」
「そんなことで?」
そんなことっていうけど、実際かなり助かったんだよね。
「まぁともかく、ルカがいいなら私のところでバイトしてくれる?」
「じゃあ…お願いします…」
「うん。よろしくね、ルカ」
ということでルカにもあの服を…。
後でリーネさんにお願いしとかないと。
ふふっ、楽しみだなー。
ルカの衣装のことを考えて私はクスっと笑ってしまう。
その事にルカが不思議に思ったのか首を傾げたが、何でもないよと言ったため特に追及されることはなかった。




