実戦で見つかるもの
「そっそんなっ! ユニークモンスターなんて聞いてない!」
何であなたたちに言う必要があるのかしら?
まぁ動揺してるならしてるで動きが単調になるからいいけどね。
てかよく考えたら【死霊魔術】って死体だからアンデッドなのよね?
白花だけで足りたんじゃない?
あの子【聖魔法】付加してるし。
まぁ、あっさり倒してもこういうねちっこそうな男はまた来そうだし、徹底的に潰した方が良さそうね。
「あら、ビビッて動けないのかしら?」
「うっうるさい! ユニークモンスター持っているなんて妬ましい! いけっ!」
根暗男が指示をすると、死体が動き始めた。
と言っても、生きてる頃に比べると動きが少し鈍いのかしら?
まぁ生前とスペックが同じだったらそれはそれでやばいけどね。
さて、こちらも始めましょうか。
「黒花、迎え撃ちなさい」
「イエス、マスター。『アタックサークル』『スピードサークル』」
黒花は配下の人形たちにATKとAGI強化の魔法を掛けて前進させた。
【傀儡術】【命令術】【思念伝達】の効果により、黒花は言葉を発することなく配下の人形たちを操る事が出来る。
そして黒花は配下の人形たちにある命令をしている。
それは『近づいてきた敵を攻撃しろ』という命令だ。
この命令により、人形たちは近づいてきたアンデッドに対して攻撃を仕掛ける。
対して根暗男は細かい命令はいちいち掛けないといけない。
そして黒花が何も言っていないにも関わらず、人形たちが臨機応変に動くことに苛立ちを覚える。
しかし、指揮官というのは冷静さを欠けてはいけない。
視野が狭くなると、それだけ戦場の把握が出来なくなってしまうからだ。
黒花の配下の人形たちも数を一体、二体と少しずつ減らしていくが、男の操るアンデッドは既にその数を半分近く減らしていた。
男は本当ならば倒した敵をそのまま操って数を増やすことができるのだが、今回は相手が悪い。
倒しているのが道具扱いとなっている人形のため、【死霊魔術】では操る事が出来ないのだ。
とはいえ、飛行系のアンデッドモンスターは人形たちの大きさも関係して未だ倒せずにいる。
そこで海花は前で静かに待機している三体の機巧人形の内の一体に命令する。
「蒼花、あの飛んでいるやつらを倒しなさい」
「仰せのままに」
蒼花は少し前進し、飛んでいるアンデッドモンスターの鷹たちがいる方角に対して手を翳す。
「『アイシクルランス』」
蒼花が魔法を唱えると、氷でできた複数の槍がその方角に飛んでいく。
「なっ!?」
根暗男はその氷の槍の威力と速度に驚いた。
男は【氷魔法】で同じものを使っているやつを知っていた。
だが、アンデッドモンスターを二発で仕留められたことはなかった。
いくらアンデッドになったため耐久が減ったとしても、そこまでの事はなかった。
蒼花には現在、『アタックサークル』と『スピードサークル』のバフが掛かっている。
しかし、それ以外にももう一つ表記されないバフが存在している。
蒼花は今、黒花の近くに待機しながら魔法を放っている。
つまり、黒花の特殊スキルである【配下強化】の効果が高い場所にいるということだ。
その効果により、蒼花の魔法の威力は上がり、アンデッドモンスターを二発で仕留めることができたのだ。
そして飛行型は比較的耐久が低いという特徴もあったのも倒せた要因でもある。
「黒花のスキルがここまでとは思わなかったわ…」
正直【配下強化】の効果がここまでとは思わなかったわ。
近いほど効果が上がるってあって、精々1.5倍と思ってたけどあれ二倍ぐらい上がってるんじゃないかしら?
まぁあんな告白させられたんだし、それぐらい上がってもいいわよね。
でもルカのユニークペットの解放条件よりはマシよね。
あれは流石にドン引きだわ。
てかあたしはあんなの絶対やりたくないわ。
でもルカキレてるし、絶対解放するでしょうね。
まぁ哀れには思うけど同情はしないわ。
お姉様に手を出したのだから、それぐらいは受けて当然ですけどね。
って、なんだかんだでもうアンデッドモンスター全滅してるじゃない。
こっちも人形が…えーっと…1/3は壊れちゃったのかしらね。
また作らないと…。
あの人形作るのに色々材料費掛かるのよねぇ…。
ホントこの戦闘スタイルお金が掛かって大変だわ…。
まぁ白花に藍花も出さなかったし、大したことなかったわね。
そういえば【聖魔法】ってある意味光だから【鏡魔法】で反射するのかしら?
今度試してみましょうかね。
「ぼっ…僕のアンデッドが…」
さて、次はどんな手で来るかわからないから一旦人形を下げましょうかね。
あたしは黒花に人形を下げる様に指示すると、黒花は人形を後退させて再度整列させた。
さぁどう出るのかしら?
「くっ…! 『ブラックカーテン!』」
「なっ!?」
根暗男は突然【漆黒魔法】の目くらましの魔法を使った。
そのせいで辺りは暗くなり、暗視スキルを持っていないあたしは周りが見えなくなってしまった。
「白花っ!」
「はっ! 『ライト』」
白花が辺りを照らしてくれたおかげで少し周りの状況が見えてきた。
だが…。
「マスター。目標を見失いました」
黒花から根暗男が消えたことを聞くと、あたしはため息を付く。
まさか攻撃じゃなくて逃げのために魔法を使うとは思わなかったわ…。
あんだけ大口叩いてたなら来ると思うじゃない…。
まぁ元々予想はしてたけどね。
「黒花、予定通りに配置はしてる?」
「イエス、マスター。リミッター解放時に退路になりそうなところに配置しておきました」
「さすがね、黒花」
「ありがとうございます」
さて、止めはあの子に任せましょうかね。
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くそっ! あの女あんなの持ってるなんてずるい! 妬ましい!
また死体を集めてあの女を倒してやる!
今度はもっともっと死体集めて…!
そのためには早くこの場から逃げないと…!
後ろを振り返っても特に誰も追いかけてきてない。
やっぱりさっきの目くらましの魔法が効いたんだな。
今の内にっ!
そう考えて前を向いた瞬間、バランスが崩れて倒れてしまった。
「いたたっ…石にでも躓いたのか…? ホント運が悪い…運が良い奴が妬ましい…」
ぼやいて立とうとするが、うまく立てない。
変だなと思って足を見ると、僕は悲鳴を上げた。
「うぁぁぁぁぁ!? 僕の足がぁぁぁぁ!?」
いつの間にか僕の右足が切断されていたのだ。
驚いて周りを見渡すが、特に人影は見えない。
「だっ! 誰かいるのかっ!」
しかし、声は帰って来ず、森は静かなままだった。
なんとか立とうとして杖を足代わりにして立とうとした瞬間、またガクッと身体が倒れ込む。
そして再度足の方を見ると、今度は左足が切断されていたことに気付く。
「くそっ! 誰だ! 誰なんだよ!」
なんで僕がこんな目に合うんだよっ!
くそっ! くそっ!
なんとか這いずりながらも進もうとするが、手を伸ばした時、何かが手に当たった。
そして背筋に力を入れて上を見上げると、そこにいるはずのない女がいた。
「お前…なんでここに…」
お前はルクスリアと戦っていたはず…。
まさかもうやられたっていうの…?
「くっ…くっそぉぉぉぉぉぉ!」
僕は手に持っていた杖で女を殴ろうと横に振った。
しかし、動けない僕では当てることが出来ず、外れてしまう。
そして回避された後、杖を持っていた右腕を切断された。
「うぁぁぁぁぁ!?」
痛覚制限は高いため痛みはそこまででもないが、恐怖はどうしようもない。
ただただインヴィディアは恐怖した。
自分を虫けらのように処分している目の前の女に。
「あっ…あっ…」
そして残った左腕すら切断されてしまい、もう動くことができない。
できることは叫ぶ事だけであった。
「うっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして僕の意識は首を切断されてなくなった。
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「マスター、銀花が対象を始末しました」
「なら呼び戻して。いつまでも一人にさせておくわけにはいかないわ」
「イエス、マスター」
予定通り始末できたようね。
まぁいきなりあの子がいたら驚くでしょうね。
あの子は作るのにかなりレアな材料使ったし、性能的にも高いのよね。
っと、戻ってきたそうね。
「銀花、戻りました」
「お帰りなさい、銀花」
銀花はほとんど無表情で戻ってきた。
色々凝ったせいで少し素っ気ないところもあるけど、頭とか撫でてあげると照れるけど喜ぶのよね。
そういうところも可愛いけど、やっぱり…。
「どうしました?」
「やっぱり銀花可愛いー!」
「やっ! やめてくださいっ!」
お姉様に許可を得てお姉様似にしただけあってとっても美人なのよね。
ルカに銀花をお披露目した時、かなり羨ましそうにしてたのを見るのは良い気持ちだったわ。
さすがにお姉様そっくりにしてしまうと色々ありそうなので、すこーし変えましたけどね。
服もリーネさんにお願いしてお姉様と似たようなのにしてもらいましたから、正直遠目だと間違えられるんじゃないかと少し心配なのよね。
まぁその時はその時でお姉様に土下座をしましょう。
お姉様ならきっと許してくれるはず! …ですよね…?
まぁこれであたしの担当分は終わりましたし、他の援護に行きましょうかね。
それに今回色々試したいことも増えましたしね。
まだまだ実力が足りてないのはわかりましたし…。
正直今回は相性が良かったから圧勝で来た形ですけど、相性が良くもなく悪くもなかったらもっと危なかったでしょうね。
やはりあたし自身も黒花たちに任せるだけではなくて、何か出来るようにしないといけないわね。
海花もまだまだ課題が多いということです。




