友のために
あれから五日経過したが、特に襲われることはなかった。
まぁ二日ぐらいは襲われないとは思ってたけど、まさか五日経過しても何もないのは少し不気味だ。
一応ある程度決まった時間に森に行ってるんだけどなぁ…。
あとルカと海花に森に入る前に連絡してって言われてるけど、二人とも少し心配しすぎじゃないかな?
でもあれ以降住人の人たちに被害は出てないようで、次第に街で住人を見かけるようになってきた。
まぁ今でも外には出れないようだから良くはないんだけどね。
それの影響もあるのか、サイたちもお仕事を小規模だが再開している。
「ご主人様、今日の収穫分入れとくよ」
「ありがと、サイ」
「ご主人様ー! レッドポーション作った分こっちに移動しておきます!」
「あっ一気に運ばなくていいからね」
「アリスや、乾燥した薬草こっちに置いておくよ」
「ナンサおばあちゃんありがと」
と言った具合に、囮活動と並行して生産活動をしている。
しかし、来るなら来るで早くしてほしいんだけどなぁ…。
ジャックの話曰く、七つの大罪やPKはほとんどがステータスを隠す【隠蔽】とステータスを偽る【偽称】というスキルを持っており、普通に鑑定しただけでは名前やギルドとかが分からないらしい。
そこで【看破】スキルというそういったスキルを見破るスキルが必要となってくるとのことだ。
それを情報屋なども使って、片っ端から怪しい行動をしたやつらを調べているらしい。
だが、成果は芳しくないとのことだ。
私も【看破】スキルを取っておこうかなと考えたが、取得条件を満たしていないのかスキルを取ることができなかった。
するとお店の戸が叩かれたのでそちらに向かう。
どうやらお客さんのようだ。
「はーい、ポーションですか?」
「あぁ、レッドポーション購入できる分くれ」
「じゃあ十個なんで2100Gになります」
「わかった」
私はトレードを行い、お金を確認しレッドポーションを十個送る。
しかし、購入客の男の人はじっと私を見つめている。
「どうかしましたか?」
「いや、やはりいい女だと思ってな」
「はっはぁ…」
えっと…ナンパなのかな…?
「まったく…あいつらは…」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
そう言って購入客は去って行った。
一体なんだったのだろう…?
「すみませーん」
っと、またお客さんが来たから対応しないと。
「ここまで静かだと不気味だなぁ…」
もう一週間過ぎて八日目経っている。
ジャックからは特に連絡もないし、どうなっていることやら…。
まぁ時間も時間だし、そろそろ森に行こうかな。
「ご主人様今日もですか?」
「うん。リアたちお留守番よろしくね」
「気を付けてくださいね」
「ありがとリア。行ってきます」
さて、森に行くことをルカと海花に連絡してっと…。
まぁ何もないでしょ。
あとはギルドホールで森関係の依頼を受けて出発っと。
依頼は採取よりも討伐が増えてたね。
やっぱりPK関連であまり外に行けないのが原因だよね。
どうやらそのせいでモンスターが少し増えているようだ。
まぁ採取のついでに狩るからいいけどね。
西門に行くと憲兵さんが私の姿を確認したため、いつも通り門を開けてくれた。
もう完全に顔パス状態だね。
「よっと!」
依頼にあった狼の首を切断し、その死体を収納していく。
これで四匹目っと。
あとは熊だけど、今日は見つからないなぁ…。
まぁ薬草採取してから奥に行けばいいよね。
薬草の採取も終わり、途中で狼を狩りつつ奥を目指していると、ふと目の前を虹色の蝶のようなものが横切った。
「蝶…?」
するとその虹色の蝶は次第に数を増やし、私の周りを囲んでいった。
私はモンスターかと思って脇差を振ると、蝶たちは辺りに散っていった。
「なんだったんだろ…?」
私は何かの不思議現象かと思ってスルーして奥へ向かう。
しかし、いつまで経っても熊どころか狼すら見つからなくなったことに少し疑問を覚えた。
試しに近くの草を採取してみるが、採取してもアイテム名が出てこない。
「もしかして…」
さっきの蝶が敵の攻撃だとしたら、私は今敵の術中ということになる…。
しかし、採取自体もできないとなると…。
…まさか!?
「ここは幻覚で作られた世界…?」
【幻魔法】でそんなことが出来るなんて…。
でもあの蝶が発動のスイッチだとしても、人一人を幻覚世界に閉じ込めるような魔法に何も制約がないわけがない。
何かしらの条件があるはずだ。
そしてこの魔法も破る方法があるはずなんだ。
「まずは位置確認かな…」
私は【急激成長】で苗木を成長させて場所を把握しようとした。
しかし、上から見た周りの風景は一面森でどこも同じような配置だった。
「幻覚の破り方って、大体自分の意識を覚醒させるとかそういうのだけど…」
試しに自分の手を軽く脇差で刺してみたが、痛みはあるがダメージはなかった。
次にアリカに代わろうと呼んでみるが、反応がない。
ということは、この世界は私の身体ごと飛ばしたわけではなく、私の意識だけを飛ばしているのではないかと考えた。
だからアリカを呼ぶことができないし、ダメージもなかった。
「だとするとかなり厄介かも…」
意識だけっていうことは、私の身体は今無防備ということだ。
運よく私の意識がないからアリカが出ているとかだといいんだけど、それだったら既に私の意識が覚醒しているはずだろうし、それはないのだろう。
とすると、私の意識はないけどアリカが干渉できないような遮断状態が今の私の状態なのだろう。
そうなると完全に外部からの刺激による覚醒がないとダメってことなんだよね…?
「あれ…? これって結構やばくない…? もうこれダメ…って、なんだか気持ちが段々沈んでくような感じが…」
どうすることもできない状況に、私は段々と気持ちが沈んでいき、無意識に地面に座ってうずくまろうとしていた。
はっとして首を振って気持ちを上げるが、否定的な思考がどんどん溢れてくる。
「これもこの幻覚世界の効果…? …だめ…否定的な事を考えちゃ…」
ダメ…なんだか…意識も…遠く…なって…。
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「ふぅ、ようやく完全に掛かりましたね」
シルクハットを被った男が眼鏡をクイっと直し、周りにいる男たちに説明する。
隣りにいた大柄の男は、シルクハットの男の手際を評価するように手を叩く。
「初めて目にしたが中々じゃねえかその魔法。なぁルクスリア」
「まぁ代わりに私はこの場から動けないんですけどね、イラさん」
ルクスリアと呼ばれたシルクハットは、大変なんですよと苦笑しながら説明する。
対してイラは、搦め手は性に合わねえと言った具合にニヤっと笑う。
そして彼らの前にはアリスは糸が切れた人形のように地面に膝を付き、目が虚ろなまま膝で立ったままぼーっとしている。
「それで? このまま殺りゃいいのか?」
「ダメージによる刺激を与えてしまうと覚醒してしまうので、捕まえてからの方が確実ですね」
「こんなになってまで警戒されるなんて…妬ましい…」
大柄の男の逆側にいた暗そうな青年は、指の爪を噛みながら妬ましそうにアリスを見つめている。
「そう嫉妬しないでくださいよインヴィディアさん。まぁ私がお手伝いするのはこれぐらいにしておきますので、後はお二人とその部下たちのお好きなようにどうぞ」
「そうか。よし、お前ら。首狩り姫を動けないように押さえつけろ」
大柄の男に指示を受けたその部下たちは、嫌な笑いを浮かべながらアリスに近づいていく。
そしてその距離が一メートルを切ろうとした瞬間、彼らの身体に数本の矢が刺さった。
「「がっ!?」」
男たちは驚いて後ろに後ずさると、アリスの後方から声が響いた。
「その汚らわしい手で誰に触れようとしているのですか!」
「誰だっ!」
するとアリスの側に十名程の男たちと、その男たちの前に立つ青色の髪をした女性が現れた。
そしてアリスの目の前には、弓を持った黒髪の小柄な女性が降り立った。
「下種どもに名乗りたくないですが、冥土の土産に名乗って上げましょう! あたしの名は海花! お姉様のお味方であり、友である者です!」
「同じく、アリスの友のルカ。アリスに手を出したお前ら、絶対に殺す…!」
ルカは普段見せないような殺気を出し、イラたちを睨む。
海花も普段からは想像できない堂々とした様子を見せる。
彼女たちが何故ここにいるのか。
理由は単純である。
彼女たちは今、友のために、そして友を守るためにここにいるのだ。
彼女たちはかつて友が悩んでいた時に支えることができずに悔やんだ。
もうそんな事は絶対に嫌だと後悔した。
だからこそもう二度とそんなことはさせないと決意した。
そして今、その過ちを繰り返さないため、彼女たちは力を振るう。
後に【三鬼姫】と呼ばれる事になる三人組が揃った瞬間であった。
そういえば海花の戦闘書くことになるの初めてなのか…。




