愛憎という名の憤怒に雨は沈む
※残虐表現等ありますので苦手な方はご注意ください。
先に帰ったアリサが心配になったので、帰りに電話をして晩飯などの用意を母にお願いした。
そしてささっと食事と風呂を済ましてログインする。
ログインしてまず真っ先にアリスの家に向かった。
すると俺が来たことに気付いたのか、家の中からナンサさんが出てきた。
「おや、どうしたんだい?」
「えっと、アリスいませんか?」
「アリスならあたしらの食糧を買いに行くって出て行ったよ。それにしては遅いねぇ…」
どうやらアリスはログイン後すぐに三人の食料を買いに出たらしい。
しかし、もう出てから一時間近く経っているという。
「仕方ねぇ、メッセージでどこにいるかを聞く…っ!? なんだっ!?」
アリスにメッセージを送ろうとした瞬間、大きな揺れと怪獣が出したのかと思わせるような鳴き声が西の森の方面から聞こえた。
「これは…まさか!」
「ナンサさんはこの怪獣みたいな鳴き声を知ってるのか!?」
「アリス…何故…」
ナンサさんは放心状態なのか、声の主が何なのか問いても答えてくれない。
しかし、アリスという名を呼んだことから何かしらの関係があるのだろう。
そしてアリスに関連した事として、迷宮イベントの時に見せたレヴィの姿がチラついた。
俺は急いでアリスの家から離れて森へと向かった。
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リヴァイアサン。
旧約聖書にその名が記されている大海魔である。
その身体は恐ろしく巨大であり、泳いだだけで海を割るとされていた。
また、口から火を吐き、その際に鼻から黒煙を噴出すると言われている。
更に身体は堅い鱗で覆われており、あらゆる武器を跳ね返すとされていた。
その伝説はプロエレスフィでも同様だった。
しかし、プロエレスフィでは現実と異なり魔法も存在する。
では何故リヴァイアサンは恐れられたのだろうか。
その巨大さ故に恐れられた?
口から火を吐くから?
あらゆる武器を跳ね返すから?
生息地が海で魔法が使い辛いから?
確かにそれらは恐ろしいが、別の理由があったらしい。
かつてリヴァイアサンと対峙したことがある英雄はこう語ったとのことだ。
『リヴァイアサンですか? えぇ、恐ろしい幻獣ですよ。魔法ですか? もちろん効きましたよ。ですが物理攻撃はダメです。まったくダメージが通らない。あんなのがいるとは思いませんでしたよ。二度と戦いたくありません。いくらダメージを与えてもキリがないですからね』
『いえ、無敵ということではありませんよ。ちゃんとダメージは与えられました。ですが、攻撃しても攻撃してもすぐに回復されてしまうのですよ。あれがまだ子供ならなんとかなると思いますが、親なら無理ですね。あれは私が初めて出会った倒せない化け物でしたね』
「GYUUUUUU!」
レヴィが七つの大罪たちを威嚇している。
最近取得したスキルの効果なのか、あいつらは足を動けずにいた。
「うっ…うああああああ!」
立ち止まっている内の一人が、レヴィに恐怖したのか魔法を撃とうとした。
レヴィはその魔法を避けようとせずに尾を盾にして防ぐ。
そして防御に使った尾でそのPKを後ろの木まで叩き飛ばす。
「うがっ!? なっなんで痛みがこんなにっ!?」
痛み?
あの驚き様だと痛覚軽減はかなり高そうだと思うけど、何かしたかな。
そういえば対価ってなんだったんだろう?
ステータスには異常ないし、身体にも変なところはない。
ということはスキルかな?
…あーなるほどね。
レヴィが嫉妬の悪魔だから、嫉妬する原因となるスキルが対価なのね。
そうだそうだ、レヴィのスキル見とかないと。
名前:レヴィ(大海魔 リヴァイアサン)
―ステータス―
【牙】【渦魔法】【紺碧魔法】【紅蓮魔法】【物理無効】【物理遠距離反射】【偽りの仮面】【高度隠蔽】【水術】【環境適応】【MP上昇++】【自動回復+】【状態異常無効】【ATK上昇+】【威圧】
特殊スキル
【体形変化】【痛みなくして得るものなし】
あぁ、ちゃんと封印解除されてるのね。
まぁそれは今はいいや。
たぶんあの痛みの原因はこれだね。
【痛みなくして得るものなし】:七大罪専用スキル。周囲500mの痛覚軽減を50%に強制的に引き下げる。
まぁ私は常に痛覚軽減50%だからいいけど、あいつらはどうせ90%とか最低値にしているのだろう。
だから痛みに慣れていない。
「レヴィ」
「GYUU!」
「逃げようとしたやつを優先的に狙って。その時の殺し方はレヴィの好きにして。ただし、なるべく苦しめて」
「GYUUU!」
さてと。
レヴィには指示をしたから私も動こうかな。
PKたちは動こうとする度にレヴィが【威圧】を掛け、動きを封じる、もしくは鈍らせている。
私はそんな動けないやつらの四肢を切断していく。
まず足、そして立てなくなったら腕と。
次第に切り刻まれる恐怖を味わえばいいんだ。
そしてレヴィも、【威圧】の効果から逃げようとしたのを優先的に狙い、尻尾で叩き潰し、【紅蓮魔法】で焼き、それでも生き残ったのをその鋭利な牙で噛み裂いていく。
「うぎゃああああああ!?」
「やっやめっ…ぐあああああ!?」
「いてぇ…いてぇよぉ…」
「俺の腕が…足がぁぁぁぁっ!?」
レヴィの【威圧】のおかげでそこまで時間を掛けずにグラ以外のPKを戦闘不能にさせることができた。
とはいえ、半分以上はレヴィが倒しちゃったんだけどね。
さてと、残りはグラだけだね。
あえて最後に残したんだよね。
レヴィも私の意図を読み取ったのか、グラには手を出さないでくれていた。
まぁそれで逃げるかもしれなかったのだが、レヴィの姿に驚いたのと【威圧】で動かないでくれたから無視してたのもあるけど。
「さて、残りはあんただけ」
「こっこんのクソガキィィィィィィ!」
グラは怒りのまま斧を持って私に向かってくる。
「GYUUUU!」
「ぐっ!?」
「リンの分っ!」
「がっ!?」
私はレヴィの【威圧】によって動きを止めたグラの右足を【切断】した。
「ショーゴの分っ!」
バランスが崩れたグラの左足を【切断】すると、グラは正面から地面に顔を付けた。
「ぐああああっ!?」
「そしてこれはサイとリアの分っ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
私は倒れたグラの背中に乗り、そのまま左腕と右腕を切断した。
「こっこのクソガキっ! テメェこんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」
四肢を斬り落とされたグラが何か言っている。
とりあえずうるさいから肩を刺す。
「ぐぎゃぁぁぁぁっ!?」
「あなたたちはいつもそうだよね…暴力を振るっておいて…都合が悪くなったら脅す…」
「なっなんのことだっ!」
「そうやっていつもいつも…悪びれることなくいじめる…」
「だからなんのことっぐがぁぁぁぁぁっ!?」
私はそのままグラの肩に刺している脇差をグリグリと捻ったりする。
気付くとグラのHPが五割を切りそうなことになっていた。
いけない、と思って私はグラを上向きにさせる。
グラは何かと思って警戒するが、私は問答無用でポーションのビンをグラの口につっこむ。
「むぐっ!?」
「あっよかった。HP回復した」
「テメェっ! 何のつもりだっ!」
「だって、すぐに殺したらまた同じ事するでしょ…? だから教えてあげないと…」
「なっ何をだよ…!」
「実感を伴わない痛みなんて理解するわけないってことを…。だから私が教えてあげるの…。あなたたちみたいなのに…」
グラはアリスをただのガキだと思って侮っていたことを後悔した。
そして恐怖した。
この少女の殺意と憤怒の目に。
「グッグラさんっ! 助けてくださいっ!」
「うっ動けねえんだよっ!」
「なんでこんなことになんだよっ!」
グラの部下たちは次々に悲鳴を上げ始めた。
さすがにうるさいので少し静かにさせよう。
「レヴィ、その一番右のやつ…」
「おっ俺っ!?」
私はあえて一呼吸おいてレヴィに指示をする。
「丸呑みして消化して」
「GYUUU!」
レヴィはその長い舌を使って右端の男を捕まえそのまま丸呑みする。
完全に呑まれる寸前まで叫び声を上げるが、次第にその声は聞こえなくなっていった。
グラの部下たちは顔を青ざめながら私に命乞いをし始めた。
「もっもうしないから許してくださいっ!」
「たっ助けてくれっ!」
「なっなんでもするから助けてくれっ!」
私はグラから移動し、先程何でもすると言った男に近づいた。
「なんでもするの?」
「あっあぁっ!」
「じゃあ…」
私は苗木を土で包むように右手に掴んで男の口の中につっこむ。
「そのまま後悔し続けて…? 【急激成長】」
「ゴブッ!?」
一気に成長した苗木が男の身体を引き裂いていき、周りに血が撒き散る。
ちゃんと土に埋めてなかったためそこまで苗木は成長しなかったが、人一人を内部から引き裂く程度には成長していた。
私は飛び散った血に塗れた顔で残りの部下たちを見つめる。
「さて、あなたたちはどうしよっか…?」
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悪夢だ…。
悪夢としか言いようがない…。
なんだあの女は…?
俺の部下を次々に惨殺している…。
木に逆さ吊りにされたまま頭を水の中に突っ込まれ溺死させられたり、【溶魔法】で徐々に身体を焼き溶かされたりされているやつもいた。
そして部下は全員殺され、残るは俺だけとなり、あの悪魔は俺の方へと戻ってきた。
「さて、残りはあなただけだけどどうしよっか…?」
「この…悪魔め!」
「…悪魔でいいよ…? あなたたちみたいなのを消せるなら…」
ゾクッと恐怖した。
この女善悪とかそういう区別じゃない…。
ただ自分の敵を消す事だけに盲進してやがる…。
「そうだなぁ…」
女は俺の処刑方法を考えているのか、うーんと声を出しながら悩んでいる。
そして何か閃いたのか手を叩く。
「あなたの手足がなくても苦しめられる拷問方法を思いついたよ…?」
処刑じゃなくて拷問だと!?
あの女何企んでやがる!?
俺はじたばたと暴れるが、女が俺の上に跨って動けないように身体を【植物魔法】か何かで固定した。
「さってと、行くよ…? いーっち…」
「ぐっがぁぁぁぁっ!?」
女はいきなり俺の左肩を脇差で指してきやがった!
しかも最初に貰える初期武器でだ!
痛覚軽減が下げられてるのか、実際に刺されたような痛みが俺を襲う。
「にーっい…」
「ぎぃぃぃぃぃぃっ!?」
「さーんっ…」
「がぁぁぁぁぁぁっ!?」
「しーっい…」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
女は次々に刺す場所を変えて脇差を突き刺してくる。
痛みで頭がどうにかなりそうだ。
そしてもう何回目かわからなくなり、そろそろ俺のHPも無くなって死に戻りすると思いきや、女は俺の口にポーションのビンを突っ込んできやがった。
「よし、これでまだ大丈夫だね…」
嘘だろ…?
こんなのがまだ続くっていうのかよ…。
そして女は心が折れかけている俺に対して一言言った。
「ふふっ…大丈夫、ポーションはまだまだいっぱいあるからね…?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心は折れた。
死に戻りしてももうPKはやらない。
いや、NWOにすら入らない。
ただストレス解消でやっていただけなんだ。
もうPKなんて絶対にしないからっ!
だから誰かっ! 誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!
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「アリスっ! どこにいるんだっ!」
俺はひたすら鳴き声が聞こえる方角に足を進ませる。
しかし、次第に鳴き声は消え、代わりに小さく叫び声が聞こえてきた。
俺はアリスと違って森での移動に慣れていないからどうしても時間が掛かる。
そして森に入って三十分程経ったのか?
辺りに血が飛び散っている場所に出ることができた。
「アリスっ!」
俺はその惨状の場に一人立っている着物の女性を見つけた。
すると着物の女性もこちらに気付いたのか、走って駆け寄ってきて抱き着いて来た。
「ショーゴ!」
「アリス…これは一体…」
辺りには血だけでなく、プレイヤーの死骸などもそこらに落ちていた。
しかも五体満足ではなく、千切れたものや焼死体、更には水死体なども複数あった。
「ちょっとPKに襲われちゃったんだけど、もう大丈夫だよ。全員倒しちゃったからっ!」
「これをお前一人で…?」
「レヴィもだよ。今は再封印されちゃったけどね」
俺は嬉しそうに言うアリスに違和感を覚えた。
しかもこの様子…どうもいつものアリスとは違うように感じた。
「それにしてもあたしと一緒に来ていたプレイヤーには可哀想なことしちゃったなー…。まぁ、あたしを狙ってきたらしいし、今回は仕方ないよね」
「あたし…?」
「んっ? どうしたのショーゴ? 具合でも悪いの?」
今ので違和感が確信に至った。
俺は抱き着いて来たアリスを剥がして問う。
「お前は…誰だ?」
「誰って…あたしはアリスだよ?」
「違う! 本物のアリスをどこにやった! 答えろっ!」
目の前にいる女に対して俺は敵意を出すが、女は少しため息を付いて答えた。
「そんなに興奮しないでよ。アリスはあたしよ」
「お前いい加減にっ!」
「そう怒らないでよ。アリスはあたしで、あたしもアリスなのよ」
「そんな頓知に付き合うつもりはねぇ!」
目の前の女は頭を掻きながら困ったように尋ねる。
「じゃあ質問したら? あの子しか知らないような事とかを」
「…今日のアリスの講義は何限までだ…」
「四限。それでショーゴとリンは五限まで」
「っ! じゃあこの前俺の誕生日の日にお前の親が夜ご飯何にするか言ったよな!」
「お赤飯でしょ? あの子は意味わかってなかったっぽいけど」
「…じゃあ…アリスが子供の頃入院した原因はなんだ…」
「…リンとショーゴがいじめられてたのを助けようとして取っ組み合いの喧嘩になった際、吹っ飛ばされて木に頭をぶつけて縫うことになったから。まぁそれ以外にも擦り傷とか色々あったけどね」
俺は信じられなかった。
目の前にいる女は紛れもなくアリスだということに。
それだけに気持ちが抑えられない。
「なら本当のアリスはどこにいんだよ!」
「これだけ説明しても納得しないのね…。まったく、久々に会ったっていうのに…」
「久々って何のこ…と…」
目の前の女は、昔アリスが稀に一瞬見せたような表情を見せる。
俺は身体の血が一気に冷めていくのを感じた。
まさか…。
「お前は…アリスの…」
「えぇ、そうよ。あたしはあの子…アリスの裏の人格…っていうのは少し違うわね…」
目の前の女は自分が何者かを説明しようと悩んでいる。
そしていい考えが浮かんだのか説明を続けた。
「あたしはアリスの負の感情からできた元々は薄っぺらい存在。でもこの不確かな世界によってちゃんと形になった存在。そうね…アリ…ウ…ク…ツ……うん、アリカって名乗っとこうかしらね。便宜上はね」
目の前の女、アリカは俺に対してそう答えた。
感想で痛覚軽減について書かれてて正直驚きました。
やっぱり読者さんたちは予知能力者なんやな…(白目)
そして作者が歪んでると思われないだろうか…(不安)




