迷宮イベント⑭
「うっ…」
気が付くと通路のような場所に転移させられており、目の前には大きな扉がそびえ立っていた。
周りを見渡してみるが、どうやら皆同じ場所に転移しているようだった。
ということは…。
「あの扉の先にボスがいるっていうことか…」
ショーゴが呟いたが、そういうことだろう。
てか人の台詞取らないでよ。
まぁそれはともかく、ボス戦ということなので気合を入れねば…。
そして全員の準備が完了したため扉に近づくと、その大きな扉は鈍い音を立てながらゆっくりと開いていった。
全員が扉の中に入るとバタンと音を立てて扉が閉まった。
退路は無くなったということは、ここから出るためにはボスを倒さなくてはいけないということだ。
次第に部屋の中に灯りがともり、私たちがいる部屋はドーム状ということがわかった。
そしてそのドーム状の中心部にそのボスはいた。
全長四、五メートルはあるその身体は黒い皮膚で覆われており、一見すると人のような体型だがその頭は牛と同様に二本の角が付いており、首から下は人間のように見えたが、その足は牛の蹄のように二つに分かれていた。
そして手にはタウロス君に比べ少し小さいが、少なくてもニメートルはある大きな両刃斧を持っていた。
イベントダンジョン内で戦ったのとは少し違うが、あれは間違いなくミノタウロスだ。
皆が構える中、さっとボスに対して【鑑定士】を使う。
しかし、私が見れたのは名前まででスキルの数などは鑑定しきれなかった。
レヴィを鑑定した時ですらスキルの数がわかったのに対して、あのミノタウロスには効かないということは、イベントボスの何かしらの補正が入っているのだろう。
そしてボスであるブラックミノタウロスは私に鑑定されたことに気付き行動を起こした。
「ヴォオオオオオオオオオオオオ!」
突如ボスであるミノタウロスが吼えたのだ。
その恐ろしさを感じる雄叫びは戦慣れした銀翼のメンバーの動きを怯ませるほどだった。
とはいえ、一部の人は怯まずにブラックミノタウロスを見つめていた。
「貴様ら! あの程度の咆哮で怯むな!」
流石の団長さんだ。
あのボスの咆哮に動じず、怯んだメンバーに喝をいれている。
とはいえ、あの咆哮は厄介そうだね。
今ので皆も気を付けないといけないということは理解しただろうしね。
では…いざっ!
私たち前衛はブラックミノタウロスに向かって駆けて行った。
「ブォォォン!」
ブラックミノタウロスはその巨体に似合わず、右手に持つ両刃斧を素早く振り降ろす。
タウロス君と比べると威力は低めだが、それでも威力は十分高い。
その威力と勢いに盾で防いでいる盾持ちの内、何人かはうまく防ぎきれず吹き飛ばされてしまう時もある。
私は振り下ろした隙を突いて無防備な背中や足を狙う。
しかし、モタモタしていると空いている左手で薙ぎ払われてしまうため、一撃離脱を繰り返している。
そのためかあまりHPゲージが減っていない状況だ。
では遠距離から魔法はどうだということになるが、前回のトレントと違って今回は完全に近接型のボスだ。
そのため、下手に遠距離職がヘイトを集めてしまうとそちらに向かってしまう恐れがあるため、少し火力は抑え気味にしてある現状だ。
本来であれば近接職の火力を活かしてヘイト稼ぎをするのだが、ボスであるブラックミノタウロスはDEFが高いせいか物理攻撃のダメージが入りずらい。
盾持ちもヘイトを稼ぐためスキルアーツを使うが、今のところヘイト管理は結構ギリギリな状況だ。
これで咆哮が来たら結構やばい。
私も遠距離職にヘイトが行きそうな場合に魔法を撃っているが、どうやら比較的火属性に弱いように見えた。
なのでちょこちょこ武器に火属性を付加して斬りつけている。
そしてゲージが二割ほど切ろうとすると、ブラックミノタウロスが突然咆哮をしようと思いっきり息を吸い始めた。
私は咄嗟に【紺碧魔法】で水を出し着物の裾を濡らし、それを耳に押し当てて耳を塞いだ。
それと同時にブラックミノタウロスが吼えた。
「ヴォオオオオオオオオオ!」
私は湿った布を耳に当てたおかげで比較的マシだったが、それでも少し怯んでしまうほどの咆哮。
至近距離で聞いた近接職はその咆哮で武器を落としてしまう者も出たほどだった。
「うぉぉぉぉぉ!」
皆が怯んでしまう中、団長さんだけは怯まずにボスへと向かっていく。
まるで化け物に挑む英雄のような姿に私は一瞬見惚れた。
私ははっと我に戻り再度武器に【火魔法】を付加し、団長さんに気が向いている内に背中に脇差を突き刺す。
私が背中を攻撃したことでボスの意識が私に移り、団長さんへの猛攻が一瞬止まった。
「女子に任せたまま貴様らは動かんのか! さっさと動かんかぁ!」
団長さんの言葉で我に返ったのか、近接職の人たちも戦闘に再度加わった。
その様子を見てほっとするが、その隙を突かれて私は左手の裏拳をくらって吹っ飛ばされた。
「がっ!」
「「アリスっ!?」」
壁に激突した私はそのまま地面に倒れ込む。
慌ててクルルが私を回復させるが、今ので四割近く持ってかれた。
「アリスさん! 大丈夫ですか!?」
「だっ…大丈夫…」
裏拳+激突であの威力はやばいね…。
てか状態異常で打撲出てるから、こちらに来ないうちに塗り薬を塗って回復しておかないと…。
私はさっと塗り薬を背中に塗って状態異常を回復させる。
「もう大丈夫だからクルルは元の場所に戻って」
「はっはい!」
クルルが元の場所に戻ったのを確認して、私は再度前線に戻る。
絶対に倍返ししてやる。
どうやらHPが二割ずつ減っていく毎にあの咆哮をするようだ。
三割削れた時には特に何もせずに攻撃を続けていた。
そしてHPが四割削れた時には咆哮を行った。
しかし、以前戦ったレイクトレントと同様に火事場モード的なのに入るかもしれない。
そうなるとどのタイミングで咆哮をしてくるかが読めなくなりそうだ。
だが攻撃力は今のところ変わっておらず、特殊行動が増えるタイプのボスなのだろう。
まぁまだ火事場モードになっていないからわからないんだけどね。
とはいえやることは変わらない。
ひたすら攻撃を喰らわないように一撃離脱を繰り返す。
魔法については私の場合どうしても範囲系が多いため、こういった複数で単体を攻撃する場合はうまく使えない。
なので【付加】を使っての属性攻撃しかできない。
ホント物理特化型はそういうところが厄介だよね。
それにしても…。
「ヴォオオオオオオ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
なんで団長さん普通にボスと斬り結んでるんですかねぇ…。
普通ボスに対してそうそうそんなこと出来ると思わないんだよねぇ…。
「流石【鉄壁】と呼ばれるだけあるわな…」
「ショーゴ、団長さんの二つ名知ってるの?」
戦闘中のため詳しくは聞けなかったが、どうやら圧倒的な防御力とそのPSからその二つ名が付いたらしい。
ちなみにショーゴはアルトさんが同じ剣使いで目立っているため、未だに二つ名は付いていないようだ。
しかし団長さんや他の盾持ちが慣れてきたのか、ヘイト管理がある程度できてきたためリンなどの魔法職が少し威力を上げて撃てるようになったのでHPゲージの減少は早くなってきた。
さて、あとは火事場モードがどうなるかだね。
「ブォォォォォォォン!」
「うっ!」
ボス戦七回目の咆哮だ。
HPは残り一割になり、ブラックミノタウロスから蒸気が出ているのでおそらく火事場モードなのだろう。
攻撃というより防御が上昇したのかな?
今までよりダメージが少ないように感じる。
てかこんだけ強かったら他の人倒せるとは思えないんだけど…。
「あと少しだ! 一気に仕留めるぞ!」
団長さんが大技を掛ける様に指示したため、私も一瞬でも動きを止めるために自身にグラビティフィールドを掛ける。
そして大技のチャージ時間までの数秒、前衛がヘイトを稼ぎ時間を稼ぐ。
ブラックミノタウロスも本能で何かを悟ったのか、後衛へ向かおうとするが前衛の人たちに抑えられて移動できずにいる。
「撃てるわ! 避けて!」
「総員! 回避!」
団長さんの掛け声とともに前衛は左右に回避行動を取る。
ブラックミノタウロスも避けようと移動しようとするが、そんなことはさせない。
「『チェンジグラビティ!』」
「ヴォオオッ!?」
私の重力魔法で動きが止まり、ぱっと私の方を向くが時既に遅く、リンたち遠距離職の最大魔法がブラックミノタウロスに襲い掛かる。
「ヴォオオオオオオオオオ!?」
魔法の衝突の瞬間、激しい閃光と共にブラックミノタウロスは光に包まれる。
そしてしばらくすると煙が晴れ、ブラックミノタウロスの姿が現れた。
「ヴォ…オ…」
彼の者のHPゲージは0となっており、その巨体をゆっくりと前に倒し、床に倒れたと同時にその姿を消滅させた。
ボスの姿が消滅して数秒後、皆が歓喜の声を上げた。
そう、私たちはイベントボスを倒したのだ。
戦闘描写って結構大変です…。




