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Nostalgia world online  作者: naginagi
第三章
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迷宮イベント⑥

「『グラビティゾーン』…」


 私はタウロス君に気付かれないように小さく呟いて魔法を唱える。

 少し距離があったため気付かれはしなかったのか、タウロス君はその場に立ち尽くしたまま私に声を掛ける。


「逃げないんですか? 他の方たちは私の姿を見た途端逃げ出していましたが」

「むしろタウロス君から目を離した方が危ないと思ったから動いてないだけだよ」


 口ではそう強がるが、今すぐにでも全速力で走って逃げたい衝動に襲われるがなんとか抑える。

 下手に背中を無防備に晒した途端、あの両刃斧で真っ二つにされる場合もある。

 だったらまだ相手の動きを見ててそれに対応した方がマシだろう。


 タウロス君も私もお互い動かないこの場で、何分―いや何秒経っただろう。

 私はともかく、彼が動かないのが気になった。

 情報ではプレイヤーを見つけると襲い掛かってくるという話だ。

 だが今はプレイヤーの一人である私を目の前に立ち止まっている。

 だけど今はそんなどうでもいい事を考えている余裕なんてない。

 私がタウロス君から逃げ切るために出来る事は…。


 重苦しい空間で私は少しずつ呼吸が乱れ始める。

 だけど彼から意識は絶対に反らさない。

 反らした瞬間きっと彼は襲い掛かってくるだろう。

 だからこそ私は覚悟を決めて脇差を構えた。


「どうやら考えが纏まったそうですね。では…参ります!」

「っ! 『チェンジグラビティ!』」


 タウロス君が地面を蹴って近づいてきたので、私も半身で彼を見ながら後方へ走る。

 そして彼が十メートルの範囲に近づいてきたので、私は今まで自分に掛けていた重力を彼と入れ替える。

 これで少しでも動きが鈍くなってくれればと思ったが、彼の動きは特に変わった様子は見られなかった。


「いつの間に…というのも野暮ですね。良い手ですが残念ながら私には効きません。もちろん魔法無効化ということではなく、重力を掛けられても動ける程度(. . . . . )のSTRがあるだけですよ」


 あんな巨大化する斧持てておいて動ける程度とか冗談きついって!

 なら次の手だ!

 私はアイテムボックスから植物の種を後ろに投げる。

 そして彼が種に接触する前にスキルを使う。


「【急激成長!】」

「なっ!?」


 私がスキルを発動させると、通路を塞ぐように植物の(つる)が広がる。

 更にその蔓はタウロス君が触れると千切れずにゴムのように伸びた。

 彼は勢いを殺せぬまま伸びきった蔓に巻き込まれ、来た道に吹き飛ばされていった。


「これで少しは時間が稼げるはず」


 今の内に距離を稼がないと!

 そう思って急いで走るが、数秒後に後ろから何か破壊音が聞こえてぱっと後ろを向く。

 そして何かが来る予感がしたため、咄嗟に通路の端っこに転がると同時に何かが私とすれ違った。


「おっとっと、少し飛びすぎましたね」

「嘘…でしょ…」


 何かと思って顔を上げた私の正面には、曲がり角の壁に衝突したのか埃を叩いているタウロス君の姿があった。


「いやはや驚きましたよ。まさかあのような手で私を吹き飛ばすとは」

「一体どうやって…」

「簡単な話ですよ。吹き飛ばされた勢いでそのまま壁を蹴って(. . . . . )飛んできただけですよ」

「あの勢いで壁なんて蹴ったら足にダメージが…っ!」


 実際、私も木を蹴って勢いをつける事はやっている。

 だけどあれはあまりに勢いが強すぎると自身にダメージが来るといった欠点もある。

 物理でいうところの作用・反作用の影響が起こっているのだろうと考えていた。

 そしてそういった欠点はSTRを上げる事で少なからず低減できる。

 しかし、タウロス君並みのSTRがあればほとんど影響はないだろう。


「さて、もう打つ手はないですか?」

「あ…あ…」


 勝てない。

 逃げられない…。勝てない…。

 こんなの…勝てるわけがない…。


 圧倒的なSTRにATKに、その攻撃力で全く動きが鈍くなくむしろ素早い。

 正に純粋な近接戦闘のスタイル。

 故に小細工をする必要はなくただ正面から打倒するだけ。

 彼が私と出会って動かなかったのは小細工する必要がなかっただけで、私がどう動くのかを見たかっただけなんだと今気づいた。

 彼は怖気づいている私を見下ろし、私に問いかける。


「さぁアリスさん、貴女はこの状況からどうしますか?」


 どうするも何も…。

 もう…打つ手は…。

 私は下を向き俯いた姿勢になる。

 私が項垂れていると彼は小さくため息をついて呟く。


「…残念です。貴女もすぐ諦めてしまうのですね。倒すべき敵が目の前にいるというのに」


 敵…?

 倒す…敵…。

 敵…敵…敵…て…き…。

 てきは…たおさなきゃ…。

 じゃないとふたりが…。

 ふたり…が…。


「――い…」

「何か言いましたか?」

「絶対…許さない…」

「っ!?」


 私は脇差で地面に置いていた左手の甲を刺す。

 そして刺した場所からは血が流れ次第に左手を赤く染める。


「一体何を!?」

「……えっ…?」


 私は刺した痛みで意識を取り戻してぱっと顔を上げると、いつの間にか自分で自分の左手の甲を刺していることに気付いて慌てて脇差を引き抜いた。


「何で私自分の手を…」


 なんかいつの間にか意識が飛んでいたようだ。

 でも自分の手を刺した痛みのおかげで落ち込みかけていた気持ちが吹き飛んだ。

 こんなことでへこんでたらダメだ。

 勝てなくても最後まで抗う!


 私は立ち上がって再度脇差を構える。

 タウロス君は何故か唖然としているが、我に返り両刃斧を構えた。


 あと私に残っている手は…。

 そしてお互い地面を蹴って踏み込もうとした瞬間、タウロス君が何かに反応したように別の方角を見る。


「このタイミングでですか…」


 彼は私と別の方角を何度か見直し、ため息を付きながら私の前から去って行った。

 何が起こったかわからない私は、数秒して今の内に拠点に戻らないといけないと考え、急いで拠点へ向かった。

 てか後で左手治療しないと…。



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 私はイベント参加者の方があるラインを越えた反応がしたので、アリスさんと対峙している最中でしたが急遽戻る羽目になりました。

 私と出会うとほとんどの方が逃げてしまっていたので、アリスさんのように逃げずに対峙してくれる方がいて嬉しくてつい時間を掛けてしまったのは失敗でしたね。

 ですが先程のアリスさんの様子は一体…。


「少し追い詰めすぎてしまいましたかね…」


 あの方だけではありませんが、異邦人の方々にも様々な事情を持った方がいると聞いていましたし、私の発言が逆鱗か何かに触れてしまったのでしょうかね。

 一瞬でしたが、逆鱗に触れたとしてもあんなものを普通の少女が出せるものなのでしょうか?

 邂逅の時はそこらにいる心優しい少女かと思っていましたが…。

 確かに闘技イベントの時に少し恐怖は覚えましたが、先程一瞬見せた殺気はそうそう出せるものではないですよ?

 彼女に一体何があったのでしょうかね…。


 っと、今は現場に急ぐことが優先ですね。

 さてと次はどんな方が見つかりますかね。

次の更新は11/2の08:00予定です。

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