第十一話 予言
午前九時二十五分。十四号室。利用時間の終わりを告げる呼び出しの電話が鳴る。ジョニーと日向沙織の二人は帰り支度を整えカウンターへと向かう。
二人がカウンターまで向かうと先程廊下で遭遇したスキンヘッドの男と女子中学生くらいの長髪の少女が先に会計を済ませていた。
その女子中学生は愛澤の変装であるがそのことに二人は気が付いていない。愛澤は会計を済ませたスキンヘッドの男に体を寄せる。
「お父さん。会計終わったんだったら早く家に帰ろうよ」
愛澤はジョニーたちの目の前で高崎の娘を演じる。その演技は自然で声質も女子中学生の少女と同じ。誰も愛澤の変装とは気が付かないだろう。
だが愛澤は焦っていた。高崎一と日向沙織を会わせるのはもう少し後にする予定だったが、この場で二人は出会ってしまった。これは愛澤にとって想定外の出来事。
会計を済ませた高崎は日向沙織に近づく。一方の日向沙織はジョニーの後ろに隠れて様子を伺っている。
しかし高崎は笑みを浮かべ日向沙織の右肩を掴む。
「おい。まさかお前は……」
高崎が言いかけると少女に変装した愛澤が高崎の腕を振り払った。
「ちょっと。お父さん。ナンパなんて最低だよ」
愛澤が変装した少女は強引に二人の距離を離す。その直後日向沙織が少女に対して頭を下げる。
「ありがとうございます」
その声を高崎は聞き逃さなかった。その声はあの日の少女の声に似ている。高崎は疑惑を強めカラオケボックスを後にした。
カラオケボックスエフの駐車場に停車した白いヤンボルギーニ・ガヤンドの運転席に座った高崎一はハンドルを握る。助手席に座った女子中学生に尋ねる。
「お前は予言者だな。あいつがカラオケボックスエフにいるっていうお前の予言は正しかった」
「何のことでしょうか」
愛澤は女子中学生の声ではぐらかす。だが高崎の追い討ちは止まらない。
「とぼけるな。見ただろう。先程俺が右肩を触った女。あの女は生き残った方の幼馴染じゃないのか。あの声と見た目は間違いなく彼女だ」
「あれは預言ではなく偶然ですよ。偶然同じカラオケ店に失踪中の幼馴染に似た女性が現れただけ。この世界には自分に似た顔の人が三人いると言われていますし。人違いでしょう。それに彼女に外国人の彼氏がいるとは思えない」
「それもそうだな。あいつの英語の成績は絶望的だった。そんな奴の彼氏が外国人なわけがない」
高崎が納得すると少女は咳払いする。
「分かったなら車を出してください。お父さん」
「だからお父さんは止めろ。それで行き先はどこだ」
「あなたの探偵事務所。そのトイレを借りて変装を解除します」
高崎が不機嫌に自動車を走らせる。
丁度その頃イタリアンレストランディーノで開催された作戦会議が終わりを迎えた。
「以上で作戦会議を終わるっす。他に質問がなければこの作戦で怪盗を拉致するっす」
ピンク色のネクタイの男が会議の参加者たちの顔色を伺いながら聞く。この場にいる八人の顔はどれも作戦の内容に納得しているようだった。




