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思いを伝えて



「――言いたいことがあるんだけど聞いてくれるか?」


 座っている詩織の正面に立って、目を見てそう言う。

 心臓がドクンドクン言っているのが聞こえる。詩織にまで聞こえてしまっているのではないだろうか。

 平静を装っているつもりだけど、もしかしたら緊張しているのが全部顔に出てしまっているかもしれない。



 詩織は俺のことを恋愛対象として全く見ていないかもしれない。だなんて、自分の気持ちを自覚してから何度も、何度も頭の中で考えてきた。

 もし失敗したら、この関係が粉々になってしまうから、言えないでいた。


 特にこれといって人よりも秀でたものはないし、顔立ちだってどちらかと言えば普通な方だ。勉強や運動だって詩織に比べれば全く出来ないも同然だ。

 周りからみて、俺と詩織が全く釣り合っていないというのは出会った時から分かっていたし、だからこそ始めは詩織のことをなるべく意識しないように努力していた。まあ初日から一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったりと、あまり意味が無かった気もするが……。


 でも、いつの間にか詩織とはお互いに打ち解けていた。相性が良かったのだろうか、気づけば横にいるのが当たり前になっていて、非日常だと思っていた毎日が、それが普通になっていた。


 詩織は色んなわがままを言っているが、俺が本当に嫌がるような事を言ってくることは一度も無かった。確かに一緒にお風呂に入るなんていうのは強引すぎた気もするが、あれもあったからこそ最初に距離が縮まったと思う。


 気づけば好きになっていたのだと思う。自覚したのは最近かもしれないが、きっと林間学校から帰ったら頃くらいから好きになっていたのだろう。

 過去の話を聞いて守ってあげたいと思った、ちゃんと詩織のことを見ている人間だっているんだぞって、教えてあげたいと思った――。



 だから……。



「……俺は、上崎誠は、一条詩織のことが好きです」



 ……言った、言ってしまった。自分では上手く言えていたか分からない、でも簡潔に、そして今俺が思っている気持ちのありのままを伝えられた、と思う。



「私も誠のこと好きよ」

「俺が言っている好きはlikeじゃなくて、loveの方だからな」


 きっと詩織の事だからlikeの方でそう言ったのだろうと確信して、俺は恋愛対象として好きだと伝える。

 俺も言葉足らずだった気もして少し後悔するが、今更どうしようも出来ない。


「えっ……」


 こんなに狼狽えている詩織は見たことが無かった。今まで基本何があっても表情すらあまり変えなかった詩織があわあわとしている様子を見て、ついフフッと笑ってしまう。


「悪い、そんなに詩織が慌てるなんて思ってもなかったから新鮮でつい……えーっと、それで、返事は聞かせて貰える、かな?」

「……分からないの。今まで人を好きになったことが無かったから誠の好きと、私の好きが一緒なのかなって……。でも、誠と一緒に居ると凄く嬉しくなるし、楽しいって思えるの。こんなに好きって思えるのは誠だけで、これが誠と同じ気持ちか分からないけど、えーっと、だから……」


 こんなにも詩織が俺のことを思ってくれていることに隠し切れない程の喜びを感じつつ、だからこそさっき言いそびれていた大切なことを言う。


「俺と付き合ってくれませんか」

「……何も出来ない私でいいの?」

「少しずつ出来るようにずっと手伝う」

「わがままもたくさん言うかもしれないわ」

「無理のない範囲で全部叶える」


 何を今更遠慮するんだと言ってやりたいくらいだ。


「こんな私でもいいの?」

「そんな詩織を好きになったんだ」

「私も誠のことが好き、大好き。だから、私とずっと一緒にいて欲しい」

「……つまりそれは、OKって事でいいんだよな」

「……ん」


 その言葉を聞いて緊張が一気に抜けてその場に座り込んでしまう。

 良かった……本当に良かった……。正直可能性としては五分五分だと思っていたので凄く嬉しいし、世界中で一番幸せだと言い切れる。


「大丈夫?」

「ああ、緊張が抜けてつい」

「私も嬉しい、でもそうなったら世話係は解雇ね」

「え?」

「だって、彼氏になるんでしょ?」

「そう、だな。世話係は辞めて、彼氏としてこれからは手伝わせてほしい」

「お願いするわ」


 その時の詩織の表情は、今までにないくらい嬉しそうで、きっといつまでも忘れられそうにないくらい綺麗だった。







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