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ちょっとした過去の話



 もうこれ以上秀島と話す事は無いと、詩織とその場を離れて近くの公園まで歩く。

 詩織は何か言いたかったのか少し不満げだったが、俺としては詩織と秀島を会話なんてさせたくもなかったので、申し訳ないがそれを無視してここまで歩いてきた。


「悪かったな、俺の過去に巻き込んじゃって」

「……私が言いたいのはそうじゃない」

「別にもう過去の事は乗り越えてるし、全く気にしてないから大丈夫なんだ」

「でも……」


 あいつと再会するまではあまり思い出したくもない過去だったが、会って会話して、思っていたよりも気にならなかった自分がいた。

 俺の今は間違いなく充実してると言えるし、今更関係ないやつとの過去の事を考えるよりも、今からの楽しい未来を考えていたほうがよっぽど良い。

 そう考えると、秀島が言っていた悪口なんて俺の心の片隅にさえ入っては来なかった。


「詩織がそう気に病んでくれるのは嬉しいけど、マジでもう気にしてないんだぞ? ……まあでもそこまで言うなら、良かったら俺の過去の話を聞いてくれるか?」

「ん、次は私の番」


 きっと林間学校の時の事を指して私の番だと言ってくれているのだろう。


「ありがとな、じゃあ少し長くなるけど聞いてくれ」


 本当に今は気にしてはいないのだが、いざ人に話すとなると今まで親以外には話してこなかったこともあって意外と緊張する。


「そうだな、確か中学三年生の頃だったかな。その頃は数人程度の友達もいて細々と、でも自分では楽しいと思える生活を送ってたんだ。でも、ある日さっきも会った秀島とその取り巻き達に急に絡まれたんだ。理由は何だったかな、ちょっと金を持ってるからって調子に乗ってるとか言われてた気がするな、特に調子に乗ってた覚えは無かったんだけどそんなことで物を隠されたり、悪口を言われたり、酷いときはお金を取られたりもしてた。まあ、暴力を振るわれることが無かったのは幸いだったけどな」


 自分がクラスで目立ったことをしたこと覚えもなかったし、それまで秀島と会話すらしたことも無かった。

 今思えばきっと彼は自分よりも親の力が下で、簡単に脅すことが出来る俺は丁度いいストレスの吐き場所にでもなっていたのだろう。

 先生も見ないふりをしていたのもあり、そのいじめが無くなる事は無かった。


「そのくらいだったらまだ耐えられてた、でも秀島のやつにそそのかされたのか、それともお金でも渡されたのか知らないけど、それまで友達だと思ってたやつらもそっち側に寝返ったんだ。それまではそいつらと会話してたからいじめられてるのは多少なりとも学校に行っても大丈夫だと思えてた、いじめられ始めてからはあんまり向こうから話しかけてくれることも無かった気もするけど、それでもそいつらに寝返られた時はショックだったよ、そんなことがあって以来中学校は登校拒否して不登校になってた。まあそんなどこにでもありそうな話だよ――」


 と、そこまで言い切った時不意に体をグイッと引っ張られる。

 一体何が、と思った時には俺は詩織に抱きしめられていた。


「……本当にもう乗り越えたし大丈夫なんだ」

「私は裏切らないわ」

「……」

「誠が中学生の時に一緒に居られなかったのはすごく残念だけど、でも今からは一緒に居られる」


 確かにあの時裏切られたことがきっかけで、あまり人と関わりたいとは思わなくなっていた。

 だが今はどうだろうか、人数は以前よりも少ないかもしれない。だけど、それ以上に気の許せる友人は出来たと言えるだろう。

 でも心の奥底で、もしかしたら……なんて思っていたのかもしれない。しかし、こうして俺のことを思って抱きしめて、私は裏切らない。と欲しかった言葉を言ってくれる詩織に思わず泣きそうになる、がこらえる。流石にここで泣いてしまっては格好悪いし、それにこれ以上詩織に心配させたくない。

 少し気持ちを落ち着かせた後に、抱きしめてくれている詩織の手をそっとほどいて顔を上げる。


「ありがとう」

「本当に大丈夫?」

「疑り深いな、詩織のおかげでもう大丈夫だよ」

「ならよかった、でも無理はしちゃダメよ」

「ああ。せっかくの夏祭りだっていうのにこんな感じになっちゃったのは残念だけど、それはみんなで行く時の花火大会に持ち越しって事で」


 こんなことがあった後に、もう一度屋台を周りに戻るという気分にはなれなかったので、不完全燃焼ではあるが今日はこのまま帰ることにする。



 ベンチからスッと立ち上がって大きく深呼吸をすれば、さっきよりも空気が美味しく感じられる。

 日は完全に落ちきっていて、近くの街灯と少し離れたところでやっている屋台しか明かりがない。


「――言いたいことがあるんだけど聞いてくれるか?」






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