懐かしの実家
車に揺られること約二時間、俺たちはようやく実家に帰ってきていた。
「酷い拷問だった……」
真横で嬉々として俺のことを話す詩織と、それをニヤニヤとしながら聞いていた母親と一緒に二時間も車に乗って移動するのは、例えどんなに精神が鍛えられている人が居たとしても、なかなかにしんどい事だろう。
「なにそんなに疲れた顔してるのよ」
「誰のせいだと思ってるんだ、誰の……」
「私って言いたいわけ? 朝早くから二時間かけて帰省を忘れてた息子を迎えに行ったこの私を?」
「……それはごめんだけど、それとこれとは話が違うだろ」
帰省を忘れてたのは全面的に俺が悪いのは確かだし、忘れてさえいなければこんな事態に陥ってなかったと思えば、夏休みに入る前位の自分に殴ってでも言い聞かせに行ってやりたい気分だ。
「はいはい、誠が照れ屋なのは分かったからさっさと家に入るわよ」
これ以上何を言っても母親には勝てないと分かったので、俺は素直に従って玄関まで向かう。
今年の春以来戻ってきていなかった実家は、たった四か月ぶりだというのにやけに懐かしいとそう思った。もしかしたら、向こうでの生活が濃すぎたからかもしれないな。
「ただいまー」
「――おー、お帰りー」
奥の方から声がしたかと思うと、足音がこちらに近づいてくる。
「四か月ぶりだな、誠はちゃんと元気してたか? それとお母さんも迎えお疲れ様…………そしてどうして二ノ宮さんがここに?」
俺と母さんの顔を見た後詩織を見つけて、父さんの顔が少し、いや、かなり引き攣っていた。
「まあまあ、とりあえず中に入りましょっ、ね? お父さん」
「……」
悲しきかな、父は母に勝てない運命なのか、父さんはそのまま押し切られて、事情を説明される前にリビングに引っ張られて行った。
「ちなみに二ノ宮ってのは?」
「ママの結婚する前の苗字」
「なるほどな、詩織と美緒さんが似てたから勘違いしてたって訳か」
これでいよいよ俺の両親が詩織の両親と同級生のクラスメイトだったということを信じるしかなくなってしまった訳だが……
「なるほどね、この子が義達の娘さんだった訳か、通りで似てると思ったんだよ。……で、どうしてその娘さんが家に?」
「それは、かくかくしかじかで、誠と一緒にいるから付いてきたって訳なのよ」
「っと、事情を聴くのも大事だったけどそれ以前に自己紹介がまだだったね、僕は上崎隆司見ての通り誠の父親だよ、よろしくね」
「ん、よろしく」
確かに自己紹介、大事だよね。でもさ――
「なんかその喋り方キモイからいつも通りに戻ってくれない?」
俺がそれを言う前に先に母さんが辛辣な一撃を父さんに叩き込む。
「え、酷くない? 誠に出来た彼女なんだから結構頑張って話してたつもりなんだけど」
「正直俺も結構しんどいなって思った、あと彼女ではないから」
「誠まで!? ってか彼女じゃないって、そんな馬鹿なことを――彼女でもないのに男の帰省に付いて来るやばいやつなんてそんないる訳…………居たわ」
「あら、勘違いするなって言ってたのはどこの誰でしたっけ? 誠と詩織ちゃんはとりあえず二人でゆっくりしててね、私はちょっとこの人とお話ししてくるから」
そのまま、サッと父さんの腕が母さんに引っ張られて隣の部屋に引きずりこまれていった。
「誠のパパとママも仲良しなのね」
「……まあ確かに仲がいいかどうかと聞かれたら間違いなくそうなんだろうな」
「私と誠は恋人に見える?」
「っっっ!? っごほっごほ」
急にそんなことを詩織から言われるものだから飲んでいたお茶が気管の方に行ってむせてしまう。
「大丈夫?」
「ま、まあ。でもなんで急にそんなことを?」
「誠のパパが彼女だって言ってたから……私が相手だと嫌だった?」
「――嫌って事は全く、無い、けど……」
「……そ、そう」
……正直、今のはほぼほぼ告白みたいなものだったと思う。
詩織がそういうのに疎いから気づかれてないだけで、バレそうになっている場面は今までにもいくつかあった気もする。
でも、こんなにもボロが出てしまうくらい詩織のことを考えてしまっている、そんなにもたった一人の女の子の事を考えてしまうのなら、俺もそろそろ覚悟を決めないといけない時が来たのかもしれないな……




