付いてくるらしい
海に行ってから数日経ったころ俺のスマホに一件のメールが届いていた。
俺のスマホに追加されている連絡先なんて、詩織と優斗、そして家族ぐらいなもんだが、詩織はそもそも隣にいるので違うとすれば、優斗が何か送ってきたのだろうか。そう考えながらスマホを開いてみると、通知の正体は優斗でも詩織でもなく、親からだった。
「……あ、完全に忘れてたわ」
「どうかしたの?」
当然真横にいる詩織にも俺の少し焦った声が聞こえる訳で、何があったのか尋ねてくる。
「いや、俺お盆には実家に一度帰るって事になってたんだけど……明日からなんだよね、お盆」
「帰っちゃうの?」
「まあ流石に春から一度も顔見せてないし、帰ることにしてたんだけどそれ忘れててなんも準備してないってわけ」
思っていた以上に夏休みを満喫していたせいで、帰省することを忘れるなんて思っていなかったので、かなり焦っている。
今から準備しても電車のチケットを取っていないので、帰省ラッシュに入るであろうこの時期に席を取れるかはかなり微妙なラインだ。
そのことを親に伝えると、少し驚いた様な反応をしていたが結局明日は親も仕事が休みなので、車で迎えに来てもらう事になった。
「どうするの?」
「ああ、明日車で迎えに来てもらう事になったよ。って訳で早速準備に取り掛からないとな」
「私もやる」
「いいのか?」
「うん、任せて」
自分の部屋に戻って準備するかと言われれば、服は部屋にあるので取ってこないといけないが、日用品はほとんど詩織の部屋の方に置いてあるので、自分の部屋から服を取ってきたら後はこっちで作業することにしよう。
「……何してるんだ?」
「服を準備してる」
「いや、それは見たら分かるんだけどな……なんで俺のじゃなくて詩織の服を用意してるんだよ」
「私も付いていくから?」
「なんで疑問形なんですかね、ていうかどうして付いてくるんだよ」
特に詩織と俺の親との間に面識はないはずだし、付いてきたところで特にすることなんてないと思う。
その間の詩織の身の周りの事はどうするんだという話はあったが、それは詩織もその期間だけは義さん達の元に帰るということをさっき連絡してもらったはずなのだが……
「ママが、行って来てもいいって」
「美緒さん??????」
一体何がどうしたら人の帰省に付いて行っていいと許可を出す親がいるのだろうか。
というか許可を出すのは俺側なのでは?
「誠のママにも話は通してるって言ってたから大丈夫よ」
「いや、なにも大丈夫な要素なかったよね」
「どうして?」
そもそもなんで俺の母親に話が通ってるんだよ。
と、ここでスマホの通知が鳴るので、まさかとは思いつつも開かない訳にもいかないので恐る恐る電源を付ければ、母親から『お父さんには着くまで内緒にしとくからね』と意味深な文が送られてきていた。
間違いなく詩織が付いてくることを分かっていて言っているであろうその文を見て俺は頭を抱えるしかなかった。
結局親にまで話が通っているのなら俺にはこれ以上どうしようもできないので、昨日は詩織と一緒に準備をし終えてから今日を迎えてしまった。
詩織と出会ってから、どうしようもない時には諦めるしかないということを学んだ気がする。
家からここまでは車で二時間はかかるので、迎えに来てくれる母親は休みなのに早起きをさせてしまって申し訳ないと思う。
どうせバレているなら取り繕っても仕方がないので、俺の部屋の方に詩織と一緒に二人で朝ご飯を食べてから待っていると、インターホンが鳴る。
「はいはーい」
合鍵を使ってエントランスは直通で抜けてきたようで、もうドアの前に少しニヤニヤとした母親が待っていた。
「久しぶりね、元気にしてた?」
「まあそこそこには……」
「ちゃんと部屋も片付いてるようだし、ひとまずは安心かしら。あら、もう一人いるの?」
「もう一人って、母さんも知ってるんだろ? 詩織も一緒に来るって話じゃなかったのか?」
「そうだけど、まさか朝から一緒に居るなんて思ってなかったわよ」
……どうやら美緒さんはそこまでは説明してなかったらしい。
というより、きっと母さんは俺が女の子と一緒に来るという話だけ聞いてオッケーを出したのだろう。面白そうな話だとでも思ってその後の話をあまり聞いてなかったに違いない。
「それに名前で呼んでるって事はもしかして付き合ってるの? 誠も隅に置けない子ね!」
「そんなんじゃないから!」
これはめんどくさい事になったな、と俺は昨日から分かり切っていたことを改めて思い返すはめになった。




