完全に忘れていた
結局、双子達は両方とも不満そうにしていたが、何事もなく切り抜けることができた。
ちなみに出された料理はとても豪勢だったし凄く美味しかった。
「どうして勝負しなかったの?」
「だってどう考えても不毛な争いにしかならないだろ、料理なんて人によって好みが違うんだし争うようなものでもないしな」
現在は晩御飯も食べ終えて、夜風を当りに少し散歩していた。
美緒さんは義さんがそろそろ起きるだろうとのことで部屋に戻っていて、日向さんはあの双子の姉妹とお話をしてくると言ってどこかへ行ってしまったので、俺と詩織が残されてしまった訳だ。
家で二人で居る分にはそんなに緊張することもないのだが、旅行先で急に二人きりになっているということを意識してしまうと妙に心臓がドキドキしてしまう。
「泊まることを言ってなかったの嫌だった?」
「そんなことないけど、急にどうかしたか?」
「……だって、さっきから誠が私のことをちょっと避けてるような気がするもの。だから怒ってるんじゃないかって……」
俺が意識してしまっているせいで詩織に勘違いさせてしまったらしい。
少ししょんぼりとしている詩織を見て、申し訳ない事をしてしまったと思う。
「紛らわしいことして悪かった、こんなに楽しませてもらってるんだから嫌なわけないよ」
「ほんと? それに今日は誠の誕生日だったから楽しんでほしかったの……」
「え?」
言われるまで完全に忘れていたが、そういえば今日は八月八日で確かに俺の誕生日だ。
ということはそれを詩織は知ってくれていて、ここに連れてきてくれたということだろうか。
「もしかして忘れてた?」
「ああ、詩織に言われなかったら完全に忘れてたよ」
「なら遅くなっちゃったけど……お誕生日おめでとう」
そういいながら、背中側に隠していた包装された小さめの箱を渡してくれる。
「ありがとう、開けてもいいか?」
「うん、誠に喜んでくれると嬉しい」
正直なところ何が入っていたとしても喜ぶ自信はあるし、誕生日を祝ってくれている時点で凄く嬉しい。
ワクワクとしながら丁寧に包装を開けると、箱の中には凄くおしゃれな腕時計が入っていた。
「つけてみてもいいか?」
「もちろんよ」
そっとそれを箱から取り出して左腕につけてみる。
「……どう?」
「着け心地いいし、最高の誕生日プレゼントだよありがとう」
「よかった……」
俺が笑顔でそう返すと、詩織はホッとした表情で息を吐いた。
今までのように家族に祝われる誕生日も凄く嬉しかったが、こうして詩織に祝われる方が何倍も嬉しかった。
「でも、いつの間に準備してくれてたんだ?」
「夏休みに入る前にパパにここに来れるようにってお願いして、この時計はママと一緒にどれがいいか選んだの」
「そんな前から……ってことはこの前急に海に行きたいって言ったのは、唐突じゃなくて完全に用意されてたって事か」
「うん、誠ならついてきてくれるって思ってたの」
こんなにも俺のために準備してくれていたことに少し驚いたが、とても嬉しい。
「ちなみに詩織の誕生日はいつなんだ?」
頼むから過ぎていないでくれ、と心の中で祈りつつ詩織に尋ねてみる。
「えーっと、一二月二日だったと思うわ」
「なら、その時は俺もお祝いしないとな」
「楽しみにしてるわ」
「ご期待に添えるように頑張るよ」
サプライズで誕生日を祝ってもらえた喜びに浸りながら、二人でのんびり散歩をした後旅館に戻った。
「あら、ちゃんと渡せたのね」
部屋に戻れば、美緒さんが俺の腕についている腕時計に気づいて反応する。
「ありがとうございます、こんなに良くしてくれて」
詩織から美緒さんと選んだと聞いていたので、お礼を言う。
「可愛い娘からの珍しくされたお願いだもの、断るはずがないわ。それに、誠君には詩織がお世話になってるんだしね」
「僕だって誠君にはちょっと感謝してるんだよ? 僕にはできなかったことをしてくれてるんだし」
「ありがとうございま、す?」
どうやら義さんはのぼせてダウンしていたところから復活しているようだが、妙に顔が赤い。
それに少しアルコールのにおいがするような……
「ごめんなさいね、この人アルコール弱いのに結構飲んじゃったから」
「だって飲まなきゃやってられない――」
「はいはい、子供の前でこれ以上恥をかかない為にも部屋を移動するわよ」
ついさっきまで二人で飲んでいたであろうおちょこを持って二人は隣の部屋に移っていった……
えっーっと、この作品が十万文字にまで到達しました。
まさか、ここまで続けられるとは自分でも思っていなかったです。
それもこれも、ここまで読んでくださっている方々のおかげです。ありがとうございます!!
これから頑張りますので、どうかよろしくお願いします。




