双子の姉妹
「……え、本当に誰なんですかこの人」
一人はまるで敵を見つけた時のような表情で、もう一人は姉の反応を見て少し申し訳なさそうにしていた。
確かに知らない男が知り合いと一緒に旅館に来ていたら気になりはするだろうが、それにしてもそこまで露骨に嫌がるだろうか。
「凛ちゃんごめんなさいね、先に伝えておくべきだったわ。この子は上崎誠君っていって、詩織の世話係をやってる子よ」
美緒さんの説明を聞いて更にこちらを見る視線が冷たくなったのだが、今その情報を言うべきだっただろうか……
とは言っても、俺らの関係は確かに世話係と世話をされる側というもので間違いはないし、それ以上でもそれ以下でもないのだろう。
それがなくなれば、俺はこの家族とは何も関係の無いただの一般人に成り下がるわけだしな。
「確かに詩織ちゃんに生活力があまりないので世話係を雇っているのは分かります、ですがどうして男なんですか? それに休暇にまで付いてくるというのはいかがなものかと」
どうやら俺単体を嫌っているのではなく、男というものが苦手なようだ。
仲のいい人に知らない男がくっついてきているから、なおさらかなり警戒されているな。
「姉さん……男子が苦手なのは仕方ないけど全員が全員悪い人でもないんだから、先入観だけで敵対視するのはそろそろやめなよ」
「うっ、だって……」
「何故かいま義様はいらっしゃらないけど、義さんにまでそんな態度をとるの?」
「そんなわけない、あの人はいい人だから」
「でしょ? なら上崎さんだってそうかもしれないって思わない? 少なくとも悪い人が詩織ちゃんの世話係なんてできる訳ないし」
完全に妹に押し負けているな……正論を叩きつけられて何も言えなくなってしまっている。
「……ごめんなさい、知らない男の人が苦手で悪いことを言いました。申し訳ございません」
「あ、ああ」
どう考えても反省して言っているわけではなく言わされているだけだが、別にそもそもとして俺は怒ってすらいないので問題ない。
「それはそうと義様はどうしてここにいらっしゃらないのです?」
「少し長風呂をしてのぼせちゃったから、先に部屋で休んでるのよ」
「そうだったんですね、それは上崎さんと一緒に入っていたからですか?」
またしても俺を責めるかのような発言をすると、妹に睨まれてだってと言い訳している。
男嫌いはよっぽどのもののようだ。
「それはあるかもしれないけれど、それ以上にあの人がちょっと格好つけたかっただけだと思うわよ」
「それはどういう……」
「そうでしょう?」
ここで俺の方に視線を送ってくるのはやめていただきたい。
というかそんなことを言うということは、義さんがお風呂の中で聞いてきたことは美緒さんも知っているようだ……
とりあえず何のことやら、としらを切っておく。
「まあこの人が世話係なのは分かりました、でも詩織ちゃんは嫌じゃないんですか? 男の人と一緒に居るなんて」
「ん? どうして誠と一緒に居るのが嫌だと思うの? そもそも誠を選んだのは私よ、それに料理だって凄く美味しいんだから」
「……」
最後の望みも断たれてしまった訳で、仲間がいないのが少し不憫に思えてきた……
「姉さんもう諦めなよ、いくら言ってももう無駄だって分かってるでしょ?」
「……うん、諦める」
「うちの姉がすみません――、それはそうと料理が凄く美味しいと聞きました、ですが私も負けてないと思うんです」
姉も姉なら妹も妹だ、どう考えても面倒くさいことが起きると今の内から断言できる。
「……そうですか」
「はい、小さい頃に詩織ちゃんに作った料理を美味しいと褒めて頂いたので、私の方が上なんです。ですから最近になって出てきた貴方に負けるわけありません」
「はあ」
「だから勝負してください」
どうしてこうなってしまうのだろうか、そもそもとして旅館に提供できるほどの腕がある親が居る人相手に太刀打ちできるほど、料理に自信があるわけでもない、俺はただ、詩織の好みを研究して作っているだけなのだ。
「誠が負けるわけないわ」
「話をややこしくするのはやめてくれ……別にそんなところで争わなくたっていいだろ? ていうか詩織は料理が食べたいだけだろ」
「……そんなことないわ」
「図星だな」
一瞬目が泳いでいたので間違いないだろう、一体その体のどこにご飯が吸収されているのだろうか。
「そんな訳で勝負は無しだ、無駄な争いはしなくてもいいだろう」
「逃げるんです?」
「ああ、逃げさせてもらうよ」
「じゃあ私の不戦勝ですね?」
「まあそれでいいなら」
なぜそんなに勝ちにこだわるのか分からないが、負けたからと言って何か減るわけでもないので適当に流す。面倒くさい事はしたくないんだ……
「家に帰ったらなんでもリクエスト聞くから、詩織まで不機嫌そうにするなよ……」
「絶対よ?」
「お嬢様の仰せのままに」
「むう」




