自分の気持ちは
「どう、ですか……」
夏休みに入る前にも優斗にこんな質問をされたなあと思い出したが、結局その時は深くは考えてなかった。というより考えないようにしていた。
俺が詩織をどう思っているか――今では家族の次くらいには大切で特別な存在になりつつある……というかなっている、と思う。
こんなにも親密に関わることがある人が今までに一人としていなかったから、正直自分の気持ちが分からない……なんていう誤魔化しをこれ以上するのはしんどいかもしれない。
今までに感じてきたこの想いはきっと…………
「……今はまだ、言えないです」
「…………そうかい、なら言えるようになったら伝えてもらえるかな」
どう考えても義さんにはばれてしまったが、以外にも見逃してもらえるようだ。
「私の気持ちが変わらないうちに頑張るんだよ?」
「もちろんです」
そう言われてしまっては気合を入れて頑張るしかないだろう。
はあ、俺も優斗と同じような事になってしまった気がするな……
「それはそうと、学校はどうだい? 詩織に聞いてもそこそことしか教えてくれないから聞いておきたいんだ」
「んーそうですね、あんまりクラスメイトとかには好かれてないと思います」
「……どうしてだい? 生活力は置いておいても、他にスペックはトップクラスだと思うんだけど」
「確かにそういう点では特に男子は目が吸い寄せられてるときはあるんですけど、入学して早々にクラスメイトと少し揉めまして……」
あれ以来こちらに話しかけようとする人が結構減って、クラスメイトとは少し溝ができてしまったと思う。
だが、詩織が間違ったことはしてないと思うし、俺のことを案じてくれていたのも間違いではないので失敗したとは思っていない。
「その様子だと詩織がズバッと何か言ってしまったんだろう? すまないね、せっかくの高校生活なのに」
「別に気にしてませんよ、それに詩織とも仲良くなってくれる友達が二人できましたから」
そういう点では本当にあの二人には感謝している。もしあの時優斗が話しかけてくれなければ、きっと高校生活は二人だけで過ごすことになっていたかもしれない。
……それも少し楽しそうだと思ったのは内緒だが。
「それは良かった、学校で他の生徒に嫌われるとしんどいからね……」
と義さんが遠い目をしているのだが、高校時代に何かあったのだろうか。
この前に高校生の時には美緒さんと付き合ってたような話をしていたので、きっとその関連だろう。
「詩織がお嬢様なのでかなり遠慮してたんですが、最近はかなり仲良くしてるみたいでこの前は二人で部屋で遊んでたみたいです」
「……それは女の子かい?」
「当り前じゃないですか……」
それがもし優斗だったなら俺だってこんな平常に話せているわけがないだろう……
「松山優斗っていうやつと柊陽彩さんっていう人が仲良くしてくれてるんですよ、柊さんの方が詩織とも特に仲良くしてくれてる訳です」
「もしかしてその二人は幼馴染かい?」
「そうですけど……」
「なら安心だね、あそこの親御さんとは仲良くさせてもらってるからね、よく息子が――とか娘が――とか聞くんだ」
「そうだったんですね」
流石お坊ちゃまとお嬢様である……
「どうやら思っていたよりも大丈夫そうだね」
「ええ、今のところは楽しく過ごせてますよ」
最初の頃に思い描いた高校生活とはかなり違うものにはなってしまったが、きっとそれよりも充実した日々を送っていると思う。
それもこれもお隣さんになってくれた詩織に感謝だな。
「っと、そこそこ長い間お風呂に浸かってたし、のぼせないうちに上がろうか」
「そうですね、結構熱くなっちゃいました」
思ったよりも長風呂をしてしまったのでかなり体が火照っている。
もしかしたら女性陣はもう上がっているかもしれないのでさっさとお風呂から出ることにしよう。
脱衣所でささっと身体を拭いて、用意されていた浴衣を着る。
ドライヤーで髪を乾かしてから脱衣所を出ると、案の定女性陣はもうそこで待っていた。
「すみません遅れました」
「随分長風呂だったね?」
「少し義さんと話し込んじゃいまして……」
「あれ? でもパパってそんなに長い間お風呂に入るの得意じゃないんじゃ……」
そういえば確かに結構顔が赤くなってた気がするような……
先に行っててくれと言われたので俺一人で出たが、これはまずい気がする。
急いで脱衣所に戻れば、扇風機の風を浴びながら少しぐったりとした義さんがそこにいた。




