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君はどう思っているんだい



 思っていた旅館よりかなり小さいとは言ったが、それは比較対象がこの前の林間学校の時の旅館であったからであって、一組しか泊まらないのであればかなり大きめの場合(部類)だ。


 そんな中を迷わずにお風呂があるであろう方向に一直線で歩いて行っているのだから、きっと休みを取る時はよくここに来ていたのだろう。

 さっき言っていたように、他の人の目もないから確かに休むにはぴったりの場所だ。



「じゃあまた後でね」

「ああ」


 お風呂を男女一緒に入る訳もなく、男と女と書いてある暖簾の前で別れてそれぞれ脱衣所に入る。

 さっさと服を脱いでドアを開ければ、そこにはさっきまでいた海を一望できる露天風呂が広がっていた。

 まだ日が沈んではいないので、夕日が海に反射して凄い絶景だ。


「絶景だろう?」

「凄いですね」

「ここからの景色が好きで、よくここには泊まりにくるんだ」


 確かにここからの景色は何度も見たくなるような絶景で、ここによく泊まりに来るというのも納得できる。

 とりあえずシャワーで汗を流して、ボディーソープとシャンプーで身体を洗ったら、早速お湯に浸かる。



「ふぅ……」


 お湯の温度はちょうどいい湯加減で、そこに浸かれば今日外で遊んだ疲れもそのまま流れていきそうなくらいの気分だ。


「今日はどうだったかい?」

「凄く刺激的で楽しかったです、まあかなり疲れましたが……」

「はは、それに関しては家の子たちが振り回しちゃって申し訳ないね」

「……明日は筋肉痛になりそうですよ」


 普段そんなに運動しないのにあれだけ動いたから、明日はきっと全身が痛いことだろう。

 そう考えると明日は憂鬱だが、それ以上に今日は楽しめたから良かったと考えるべきか――


「それと、今日泊まること言ってなかったのも悪かったね。サプライズにしておきたいって詩織に言われたら断れなくて……」


 確かに可愛い娘にそう言われては、義さんは断れないだろう。

 それに他の人達はサプライズとかは好きそうだから、それに乗っかるだろうし……


「確かに驚きましたけど、嫌とは思ってないですよ。こんなに良いところに連れてきてもらえたんですし、それに今日は疲れた後の体で家事をしなくて済みますから」

「それなら良かったよ」


 はははと笑いながら返してくれる。


「それはそうと、誠君に聞きたいことがあったんだ」

「なんです?」

「君は詩織のことをどう思っているんだい?」

「ゴホッゴホッ」


 さっきまでの話と打って変わって、急に真面目な顔でそんなことを聞いてくるのだから、びっくりして唾が気管の方に入ってむせてしまう。


「大丈夫かい?」

「え、ええ、まあ」


 少し前にも優斗にそんなことを言われたばかりだったことを、義さんにまで言われるとは思わなかった。


「詩織からは聞いているか分からないけどね、あの子は家族以外と仲良くする事はほとんど……いや、まったくと言っていいほどなかったんだ。だからこそ、初め君が連れてこられたときは凄く警戒したよ、騙されてるんじゃないか、脅されてるんじゃないかってね」

「……」

「あの子は普通の人間より遥かに人の考えている裏が分かるみたいでね、財閥のご令嬢で、更にはあんなに可愛いから周りからは色んな人間が寄って来たんだ」


 もちろん可愛いというのは贔屓目無しにってことだよ、と少し空気を緩めてから話を続ける。


「でも運が悪く、詩織に寄ってくる人間はこぞって下心があった。そういうのが分かっちゃうから詩織は段々と心を閉ざしちゃったんだ。中学生の時は少しいじめられてたらしいしね」


 きっとその当時のことを思い出して怒っているのだろう、段々と語気が強くなっている。


「そんなことがあったから一人暮らしはさせたくなかったし、してほしくなかった。まあ僕が娘に甘すぎるから結局押し切られちゃったんだけどね……」

「そこはちゃんと止めてくださいよ……」

「まあ結果的には良かったと思ってるけどね」

「え?」

「だってそのおかげで誠君と出会って、小さい頃のような明るい表情を取り戻してくれたからね」


 正直意外だった。義さんは俺のことをあまり良くないと思っているのかと思っていたし、娘に男は近づけさせてくないものだと思っていたから。




「ここまで言ってから聞くのは少し悪いとは思っているがもう一度聞くよ、君は詩織のことをどう思っているんだい?」






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