嵌められてたみたいだ
あの後も何度かビーチバレーをやったのだが、案の定というか俺はほとんど何もできなかった。
ゲームが破綻するようなハンデは貰わなかったが、例えば俺だけ二回ボールに触ってもいいというハンデは、そもそも一回目が触れなかったし、俺が相手コートに打つ時はブロックしないというハンデは、そもそも俺がジャンプしてボールを打つことができなかった。
あまり最近は運動してないこともあってか、三十分もすれば俺の体力は底をついてしまいそこでビーチバレーは終了となってしまった。
「大丈夫?」
「……なんとか」
パラソルの下で横になって呼吸を整えていたら詩織に本気で心配されてしまう始末だ。
こんなに体力が持たないとも思ってなかったので、明日から家の近くをランニングでもしようか真面目に検討している。
他のみんなも息を切らしてはいなかったが、はしゃいで疲れたのは確かなようでしばらくの間全員でのんびりと過ごした。
「さて、結構海も満喫したことだしそろそろ移動しようか」
なんやかんやそこそこの時間が経っていたので、義さんの言う通りパラソルなんかを片付けたり、シャワーを浴びて着替えたりして車に戻ることになった。
家に帰る、ではなく移動するという部分に少し引っかかったが、その理由は直ぐに分かることになる。
「……あの、来た時と道が違いません?」
「そりゃあ目的地がこっちだからね」
「今から別のところに行ったら帰る時にはかなり時間が遅くなりませんか?」
特に早く家に帰りたい訳ではないが、出掛ける前にお風呂が自動で二十一時頃に沸く設定にしてからここに来ているので、このままだと冷めたお湯に入らないといけなくなりそうだ。
「大丈夫だよ、今日は帰らないからね」
「それってどういう……」
ここまで言われたら、なんとなく今からどこに行こうとしているのか予想はつくが、そのことについて俺は何も知らない。
義さんも俺が知らない前提で話しているところを見るに、詩織が伝え忘れたという線もなさそうだ。
「ここまで言ったら分かっちゃうと思うけど、今日はこのまま旅館に行く予定だよ」
「準備とか何もしてないんですけど……」
「それはこちら用意しておいたから大丈夫だよ」
「……家のお風呂の予約は――」
「出発する前に止めておいたわ」
どうやら俺は嵌められたようだ。まあ、嵌められたというのは泊めさせてもらう身なので表現としては少しおかしいかもしれないが。
「でもどうして泊まることにしたんです?」
「せっかく休みを取るならのんびりしたいという美緒さんの提案があったからね」
「でもそれなら、俺は――」
「それに、誠君とも二人でじっくり話したいと思ってたんだ」
俺はいなくてもいいんじゃ、と言おうとする前にそう言われてしまってはどう返せばいいか分からなくなる。
……今朝この車に乗った時から、いや海に行くことが決まった時から、俺に逃げ場はなかったようだ。
「まあ取って食おうって訳じゃないんだ、ただ世間話とか少し聞きたいことがあっただけだからさ」
特に怒っているという訳でもなく、本当にただ話したいとそう思ってくれているようなので、そこまで心配するようなことでもないのだろうか。
てっきり詩織とのことについてまた何か言われるのかと思ってしまったのだが。
旅館は海から少し進んだ山の中にあり、意外にもこじんまりとした場所だった。
てっきり林間学校の時みたいな大きいところに行くものだと思っていたから驚いた。
「ここは泊まれるのが一組だけの場所なんだ、よく有名人とかもプライベートで使っているくらいだから、休むにはピッタリな場所だろう?」
俺の思っていることを読んだのか、義さんがそう説明してくれる。
なるほど、確かに他に人がいないのならのんびりできるというのも納得だ。
中に入ると、ロビーみたいな場所はなく普通の玄関のような場所に女将さんのような人がそこで待っていた。
「よろしく頼むよ」
「かしこまりました」
持っているカバンなんかを預けると、それを持って奥に下がっていったので俺たちだけがその場に残る。
「さて、さっそくだけどさっき海に行って汗もかいたことだし、まずはお風呂に行こうか」
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