戦力差がおかしい
海で何して遊ぶかと言われたら、泳ぐだとか砂のお城を作ってみるだとか人によって色々あるだろうが、今俺たちはビーチバレーをすることになった。
最初は海に入って遊んでいたのだが、泳いで遠くまで行ってしまえば危ないし、かと言って水の掛け合いでもしようかと思えば口に入ったらしょっぱいしで、砂浜付近で少し遊んで満足した結果、唐突に日向さんがビーチバレーを提案してくれた訳だ。
三人だけでするよりも、せっかくなので義さんと美緒さんも巻き込んで五人でやることにする。
「チーム分けはどうするの?」
「五人だからね……どうしようか」
全員でやるならどちらかが人数が多くなってしまうので、どうしてもそちらが有利になってしまう。
「なら男女で分かればいいんじゃない?」
「いいんじゃないですか、とりあえずそれでやりますか」
日向さんがそう提案してくれたので、それぞれコートに分かれる。
妙にニヤッとしていた日向さんと、それは流石にやめた方がいいんじゃないかと小声で言っていた義さんが気になりはしたが、女性陣はもうやる気万端なので、始めるしかないだろう。
二人であるこちらが先にサーブをすることになったので、義さんがジャンプして綺麗にサーブを決めてくれる……のだが、日向さんがそれを完璧にレシーブ、それを詩織が打ちやすいようにボールを上げると、美緒さんが大ジャンプしてスパイクを決めて……
……凄い速度で飛んできたボールは、そのままこちらのコートの端っこに綺麗に突き刺さった。
「え……?」
何が何だか分からないうちに連携を決められて、先に一点取られてしまう。
「じゃあ次はこっちがサーブね」
否応なしにボールを回収した美緒さんは、そのままコートに戻ってサーブを放つ。
素早く放たれたボールはこちらのコートギリギリのところに落ちかけるが、なんとか義さんが追いついて手を伸ばす……が、義さんの手に辛うじて当たったボールはそのまま明後日の方向に飛んでいき、コートの外に落ちた…………
「……」
「これで二点目ね」
「……いや戦力差おかしくない!?!?」
どう考えてもおかしい、俺は特に運動が得意というほどでもないが運動神経が悪いわけでもない。義さんはどちらかというとそこそこ得意な方だろう。
だが、あの三人は次元が違った……個人の練度もそうだが、連携も完璧だ。特に美緒さんなんて、まるでプロのようなスパイクを放ってきている。
これが分かっていて日向さんはこのチーム分けにしたのだろう、それならあのニヤッとした意味も分かる。
「わざとですよね?」
「……何のことかな?」
「白々しいですね、わざとこのチーム分けにしたんでしょう? あんなに動けるのはどう考えても経験者だ、それを家族である日向さんが知らないわけない、そうでしょう? ていうか日向さんも経験者でしょう?」
ジト目で日向さんを見ると、あははと笑いながらそのことを肯定する。
「そんなことだろうとは思いましたよ」
「あ、でも詩織は部活とかには入ってないよ?」
「え?」
「ほら、小さい頃によくママと一緒にやってたからさ」
なるほどそれなら納得だ。覚えが早い詩織なら、小さい頃に上手い人とやっていたらそりゃあ上達するだろう。
「ちなみに美緒さんはU-18の選手だったから強いのは当然だね」
「まあ怪我でやめちゃったけどねー」
どうやら日本代表レベルの人だったらしい、道理で手も足も出ない訳だ。
「怪我は大丈夫なんですか?」
「日常生活においては何も問題はないけど、激しい運動は控えるように言われてるわね」
「……さっきのは激しい運動に入るのでは?」
「ちょっと興が乗っちゃったわ」
てへっと、手で頭をこつんと叩きながら舌を出している美緒さんは、四十代には見えないほど若々しかった。
まあ普段から四十代には見えないけど。
結局、これ以上運動するようなら義さんが止める予定だったそうなので、美緒さんはブーブー言いながらもパラソルの下に戻って行った。
「四人になっちゃったけどチーム分けどうする?」
「なんでもいいですけど、俺だけ弱くないですか?」
どうあがいてもこの三人に勝てるビジョンが見えない。
「なら、とりあえずチーム決めてからハンデを考えようよ」
「それならいいですけど……」
という訳で、ビーチバレーの二回戦が決まってしまった。
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