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海に来た



「海だーっ!」


 一条家と一緒に車に乗せてもらい海に向かっている途中、少し離れた場所に海が見えたところで、日向さんが嬉しそうな声を上げた。

 俺も日向さんほどではないが、久しぶりの海にテンションが上がる。

 流石に恥ずかしいので表には出さないが……


「それにしても、俺も来て本当に良かったんですか? 家族だけで行った方が良かったんじゃ――」

「水臭いこと言わないの、それとも来たくなかった?」

「そんなわけないじゃないですか」


 昨日詩織に気にしないとは言われたが、いざ車に乗って家族の中に入ると、なんとも居たたまれない気持ちになってしまう。

 車の運転を豊さんなどの執事の人がやっているのではなく、義さん自らが運転をしているので俺以外が家族だというのはあるが。


「ならいいじゃない、それに私だって誠君と会うの楽しみにしてたんだから」

「そうなんですか?」

「だってこの前日向が遊びに行ったときに、詩織と誠君が前よりも仲良くなってたって教えてくれたんだもの、気にならないわけないでしょう? それに実際今会ったらそのようだしね?」


 そう言って助手席に座っている美緒さんがこちらに顔を向けながら言ってくるのだが、ミラーに写っている義さんの眉間に少しずつしわが寄っているのでこの話題はやめて欲しい。

 前より仲良くなってることは否定しないけど……


「あなたもそんな顔しないの、あなただって誠君が来ることに反対しなかったでしょう」

「それはそうだが……」

「今日は楽しむために休みを取ってるんだから、笑顔よ笑顔」

「そうだね――誠君すまなかった」


 義さんも俺が来ることに反対しなかったというのは少し驚いたが、それは噓でもなさそうで、前に比べると俺に対して当たりが優しくなっているような気がする。

 俺の横で日向さんがうんうんと頷いているので、多分この人が何かしら言ってくれたのだろう。





 そんなこんなで、海に到着したわけだが人がいないビーチはとても綺麗で眺めも素晴らしい。

 さっそく水着に着替えるために更衣室に入るのだが、もちろん男女で分かれているので、俺と義さんが二人になる。


 なんとも気まずい空気の中、ささっと服を脱いで海パンを履く。


「おや、意外と鍛えてるんだね」


 先に着替え終わっていた義さんが、俺のお腹のあたりを見ながらそうつぶやく。


「まあ詩織の横にいるのにひょろひょろだというのは結構気が引けるのでそれなりには……そういう義さんの方が腹筋かなり割れてますよね」


 ここまでやるつもりもなかったのだが、お風呂から出た後に家に帰って無心で毎日やっていたらギリギリ割れてるくらいにはなった。


「ずっとパソコンの前に座って仕事をしてては体が鈍っちゃうからね、週に三日はジムで鍛えてるんだよ」

「そうなんですね」

「誠君も今度一緒にやってみるかい?」

「いいんですか?」


 まさか誘ってもらえるなんて思ってもいなかったが、せっかくやらせてもらえるのならやってみたいという気持ちはある。


「家族だと僕しか男がいないから、いつも一人でやってたんだよ。前に日向がダイエットだって言って一緒にやろうとしてくれたんだが、キツ過ぎると言って一回でやめてしまったがね……」


 日向さんって結構運動できるんじゃ――そんな日向さんがキツイっていうことは……


「……や、やっぱり――」

「どうかしたかい?」

「なんでもないです……」


 やっぱりやりたくないですと言いかけて、義さんのすこし嬉しそうにしている表情を見てしまい、言えなくなってしまう。


 後々、ここで断っておけば良かったと後悔するのはまた別のお話だ。




 少し話していたせいで遅くなってしまったが、更衣室を出てもまだ女性陣は出てきてなかった。

 待っている間に先にパラソルなんかを立てておいて、日焼け止めも塗っておく。


「もうすぐお昼だし、遊ぶ前にお昼ご飯を食べることになると思うけど、準備を手伝ってもらっていいかい?」

「もちろんです、何にするんですか?」


 なんて準備をしようとしたところで、詩織達が更衣室から出てくる。


「待たせちゃったかしら?」

「そんなことないよ、誠君とまだ準備してる途中だったからね」

「ならよかったわ」


 なんて言いながら三人がこちらに近づいてくるのだが、非常に目に悪い。

 三人ともスタイルがとてもいいし、さらにそれを惜しみなく出している格好なので目のやり場に困る。


 詩織は昨日選んだばかりの水色のワンピースタイプの水着で、日向さんと美緒さんは二人ともビキニタイプの水着だ。

 義さんの方を見ると、いつもと変わらない表情なのでこれが大人の余裕ってやつかと思い知らされる。


「あら、あなた緊張してるの?」

「い、いや、そんなことは……」

「ふふ、恥ずかしがらなくてもいいのに」


 ……どうやらポーカーフェイスだったようだ、俺が見ても何も分からなかったのに、瞬時にそれを見破るなんて流石夫婦だなと、そう思った瞬間だった。





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