夏休みといえば
夏休みになったところで、俺たちの生活が大きく変わることはなかった。
強いて言うなら、学校に行くことがなくなったので、家でダラダラとする時間は増えたが。
昨日二人で一緒に残っていた宿題も済ませてしまったので、本格的にすることがない。
花火大会に行く予定と、お盆休みに実家に帰る予定はあるのだが、まだ八月は始まったばかりだ。
「海に行きたいわ」
「めちゃくちゃ唐突だな、行くのはいいけど今の時期はかなり人が多いと思うぞ」
「それは問題ないわ、プライベートビーチに行けばいいもの」
「人生でプライベートビーチっていう単語を生で聞くことになるとは思ってなかったよ……」
やりたいと思ったら何でも可能になるなんてご都合展開もいいところだな……、流石お金持ちである。
ちなみに詩織はもう電話している、きっとパパにでも海に行きたいとでも言っているのだろう。相変わらず決めるのが早い。
「明日行けることになったわ」
「……明日!? いくらなんでも早くないか?」
「早いことに越したことはないでしょ?」
「それはそうだけど……」
それにしたって、連絡して次の日にプライベートビーチに行けるなんて思わないだろう。
「あっ」
「どうかしたか?」
「持っていく水着が無いわ」
「……あ」
よくよく考えれば、お風呂に入る時にいつも水着を使っているが、その水着を海でも着るというのは少し憚られる。
ちゃんと洗ったとしても、海水に浸かった水着をお風呂でも使うのは、あまりよくないだろう。
今日はまだまだ時間があるので、今のうちにショッピングモールにでも買いに行くことにしよう。
「……俺も居ないとダメなのか?」
「もちろんよ、選んでもらいたいもの」
水着を買いに来た俺は、今ピンチな状況に直面していた。
俺の水着は、サイズさえ合えば正直なんでもよかったので直ぐに決まったのだが、その後が問題だった。
もちろん詩織の水着も探すわけで、水着コーナーで何とか一人で選んで欲しかったのだが、まあ無理な話だったようだ。
女性水着のコーナーで一人になる訳にもいかないので、詩織と一緒に周るしかないのだが、非常に目のやり場に困る。
別に見てはいけないものではないが、かと言ってジロジロ見る訳にもいかないので、なるべく気にしないようにしながらついていく。
「これとこれならどっちがいいと思う?」
と言いながら詩織が差し出してきたのは、大きめのフリルが付いた緑色のビキニと、少し露出を抑えた水色のワンピースタイプの水着だった。
「……ワンピースの方が似合うと思う」
「じゃあとりあえず試着してみるわ」
俺としては、極力露出は控える方向で行ってほしいので、ワンピースタイプの方を選んだわけなのだが、正直なところ、詩織なら何でも似合うと思うので、正解はあっても不正解はないと思う。
少しして試着室のカーテンが開くと、普段の服の詩織がいた。
「着なかったのか?」
「着たけど見るのは明日のお楽しみよ」
楽しみにしててねとはにかみながらそう言ってくるので、すこしドキリとしてしまう。
「でもよかったのか? 俺が選んだ奴で」
「誠が似合うって言ってくれたから、これがいいの」
「……そっか」
二人分の水着を買い終えて、俺たちはさっさと家に戻ってきた。
なんだかんだ海に行くのは結構久しぶりなので、明日が楽しみになってきた。プライベートビーチというのだからなおさらだろう。
だが、二人だけでプライベートビーチに行くことになるのだろうか……
そういえばよく詩織は大事なことを言わなかったような……
「なあ、もしかしてだけど何か明日海に行く事で伝え忘れてることないか? 例えば明日、日向さんも来るとかさ」
「あっ……」
「あるんだな?」
事前に聞いておいて正解だった。聞いていなければ、明日になってまたしてもびっくりするところだっただろう。
「えっと、パパとママとお姉ちゃんも一緒に行くって言ってたわ」
「それ俺本当に行っていいのか? 家族水入らずで楽しんだ方がいいと思うんだけど……」
というか、家族で行っているのに、一人だけ違う人が行くというのも居づらいというかなんというか……
「……いや?」
「嫌って訳じゃないけど」
「なら問題ないわ、私は気にしないもの」
俺が気にするんだよなあ……とも思うが、せっかく義さん達からもオーケーを貰えてるのだし、せっかくなので行かせてもらうことにしよう。
「明日が楽しみね」
「そうだな」
昨日から、少しずつ最初の話から改稿しております。
基本的に誤字や、言葉のおかしいところを直していますので、お話の流れが変わることはないですが、少しだけ会話文が変わっている事はあるかもしれません。




