覚悟を決めた人
「やっと夏休みだあああああ!!」
「荒ぶってんな……」
「だって長い休みだぜ? 何でもできそうじゃん」
「とか言って夏休みの宿題ため込むなよ? 最後の方に泣きついてきても手伝わないからな?」
七月に入ってから意外と夏休みが来るのは早いもので、たった今終業式と夏休みに関するホームルームが終わったところだ。
優斗がテンションが上がっているのも分からないでもないが、もうちょっと声のボリュームを下げてもらいたい。
「萎えること言うなよ……ちゃんとやる予定ではあるし」
「ならいいさ、思う存分遊べることに変わりはないしな」
「だろ? もちろん誠も一緒に遊ぼうぜ」
「もちろんだとも、後で相談して決めようか」
俺と優斗が話しているように、テスト勉強をした時以来柊さんと詩織も時々二人で話すようになった。
今も何か二人で話をしているところを見ると、結構仲良くなっているのだろう。
四人で相談した結果、夏休み中にある花火大会に一緒に行くことになったのだが、何故か優斗は神妙な面持ちだった。
後で聞いてほしいことがあるとも言っていたし、その謎は直ぐに解けることだろう。
「それで? 聞いてほしいことってなんだよ」
申し訳ないが、先に詩織と柊さんには先に帰ってもらい、俺と優斗は教室に残った。
他のクラスの人も、早く夏休みを満喫したかったのか、教室には二人しか残っていない。
「誠ほどではないけど、俺って案外ヘタレなんだよ」
「……おう、とりあえずサラッと貶されたことは後で話すことにしといてやるけど、それで?」
「だから俺がこの覚悟から逃げないように覚えておいて欲しいんだ」
わざわざ呼び出してまで言うのだからよっぽどなのだろう。
まあ、柊さん達には聞かせられないと言っていたところを考えると何となく何が言いたいのか予想はつくのだが……。
「言ってた花火大会の日までに、陽彩に想いを伝えようと思う」
「花火大会の日ではないんだ?」
「最初の質問そこか? てか思ってたより驚かないんだな」
「まあ、何となくさっきので察しはついてたし」
変に緊張して損したぜ、と優斗が肩をすくめる。
「んで、どうして花火大会前なのかって話だったな。俺も最初は花火大会の日にって考えたんだけどな、なんかベタすぎるっていうのもあるし、それに、できれば恋人になって楽しみたいじゃん」
「なるほどな?」
「まあ付き合えないと意味ないから、振られたら花火大会の日は行けないけどな」
そんなことにならないといいけど、とからから笑っているが、顔が笑ってない。
「今から緊張してどうするんだよ」
「……それもそうだな、当たって砕けろ精神で行くよ」
「それ砕けちゃダメだろ……」
「確かにな、でも聞いてもらえてなんか気が楽になったよ」
「それならよかった」
なんとなくだが成功する気はしている、二人の時とか結構いい感じな気がしてるし。
「それはそうとして、誠はどうなんだ?」
「俺?」
「ああ、一条さんとはどうなんだよ」
「詩織とはそんなんじゃないよ、……多分向こうも俺のこと保護者って感じだと思うし」
「あー、俺よりも相当重症な感じか……」
やれやれ、と優斗が首を振りながらかわいそうな目でこちらを見てくるが、非常にやめて欲しい。
確かに詩織のことを好きか嫌いかで聞かれると100対0で好きだと答える自信はあるが、それとこれとは話が違う。
そもそも詩織は俺のことをそういう対象として見ていないと思うし……。
「でも嫌いじゃないんだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「傍から見ててもいい感じだと思うけど?」
「だとしても、急にそんなことできるわけないんだよ」
優斗たちは付き合いが長いかもしれないが、俺たちはまだ出会って四か月しか経っていないのだ。
というか、この気持ちが果たして恋愛感情なのかもあいまいなのに、告白だなんてできる訳もない。
「まあ、俺も急かす気はないけどさ、少なくとも一条さんがあんなに懐いてるのは、誠だけだと思うけどな」
「……俺の話は今はいいよ、とりあえず優斗頑張れよ」
「逃げたな」
「悪いかよ」
「いんや? 俺も人の事言えないからな、でも、チャンスはいつ無くなるか分からないんだから、気を付けないといつか取り返しがつかなくなるぞ」
しばらくの間、優斗のその言葉が妙に頭にこびりついて離れなかった。




