仲のいい二人
「なるほどな、それでいつも一緒に登校して、同じ弁当だったわけか」
「……まあな」
結局優斗だけ教えないという訳にもいかないので、流れ的にも二人ともに俺と詩織がお隣さんだということがバレてしまった。
今まで関わってきて、人に言いふらすような人ではないというのは分かっているのでそこは心配していないのだが、しばらくはからかわれることになりそうだ……
「誰にも言うなよ?」
「それは分かってるよ、にしても家が近いのは何となく分かってたけどまさかお隣だとはな」
今は一度勉強を中断して、みんなでさっき焼いてくれたクッキーを食べながら話している訳なのだが、非常にやりずらい。
「ていうか上崎君よく詩織の方の部屋行ってるでしょ?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「だってキッチン使わせてもらったときにかなり調理器具が揃ってたんだもの、詩織に聞いても料理はしないって言ってたし、てことは上崎君が作りに行ってるって事でしょう?」
そこまで推理されるとはマジで迂闊だったな……。
「まあ、そうだな」
「やっぱりね、そうだと思ったのよ」
「ていうか聞き違いかもしれないけど、詩織の呼び方変えたか?」
「あら、もう気づいたの?」
さっきの会話で何か違和感を感じたのはこれだったか。
「さっきの間に仲良くなったの、嫉妬しちゃった?」
「そんなんじゃないよ、ただ詩織と仲良くしてくれる人が増えて嬉しいなと思って」
「まさかの保護者の感覚なのね……」
詩織の方に目を向けると頷いてくれたので、仲良くなったのは本当だろう。
この調子で少しずつ仲良くできる同性を増やしていって欲しいものだ。
「なるほど、確かにこの感じじゃ嫉妬する必要もないのも納得ね」
「……そうだな」
最近俺と詩織が会話しているときに、まるで子供の成長を見守るような視線を二人から感じることがあるのだが、なぜこんな目を向けられなければならないのだろうか……
「そんなことよりも勉強再開しなくても大丈夫なのか? もうちょっとやっといた方がいいと思うんだが?」
「話をそらしたな(わね)」
「……冷やかすならとっとと帰ってくれ」
「悪かったって、誠だけが希望なんだ。どうか教えてくれ、いや教えてください先生」
まったく、調子のいい奴である……。
優斗と柊さんに教えるばかりで、自分のテスト勉強がおろそかになるのではないかと少し心配だったが、意外にも人に教えるというのは難しいもので、教えていくうちに自分の復習にもなった。
他の教科は、残りの日数は少ないがその間に詰め込んでやるしかないだろうが……。
結局意外と長い間教えていたので、勉強会が終わったのは一八時を過ぎたくらいになってしまった。
「今から凝ったものを作ってたらちょっと遅くなるな」
「なら外食しに行かないか? 教えてくれたお礼に奢るからさ」
「俺はいいけど――詩織はどうだ?」
「私もオーケーよ」
という訳で外食をしに行くことになった訳だが、こっちに引っ越してきてからは久しぶりに外食である。
まさか一人暮らしでも毎日自炊をすることになるとは思ってもいなかったからな。
「……おい、このお店かなり高そうな感じだけど大丈夫なのか?」
優斗に連れられてやってきたのは、かなり高そうな中華の店だった。
「あ、二人ともアレルギーとかあるか? もしあれだったら店変えるけど」
「アレルギーは特にないけど……」
「なら問題ないな――四人です」
優斗がアレルギーに問題ないことを確認すると、さっさと受付を済ませて俺たちは店員さんに案内されてしまう。
「ほんとにいいのか?」
「もちろんだとも、それに誠は忘れてるかもだけど俺だって一応お坊ちゃんなんだから、お小遣いは普通よりは多いんだ。勉強教えてくれたお礼なんだからこのくらいはさせてくれ」
「……分かった、ならありがたくごちそうさせてもらう事にするよ」
ここまで来てしまったのだし断る方が失礼というものだろう、せっかくなのでここはごちそうさせてもらう事にして、久しぶりの外食を楽しんだ。
「結構新鮮な味で美味しかったよ」
「そりゃよかった、なかなか家で作らなさそうなところを選んで正解だったな」
「今度は俺ん家でなにかごちそうさせてくれ」
「今回はこれでチャラだから、それは無しな?」
まさかお会計の時に四人合わせて五桁に乗るとは思っていなかったし、俺だけじゃなくて詩織の分まで払ってくれたのだから何かお返しをしたいと思うのは当然だと思ったのだが……。
「っと、意外と遅い時間までご飯楽しんじゃったし今日はこれでお開きということで、俺と陽彩はこっちだからまた学校でな。勉強会マジで助かったよ」
「……ああ、じゃあまた学校で」
結局押し切られてしまった訳だが、今回はこの厚意をありがたく受け取っておくことにしよう。
まあ、今度何かしら返そうと考えてはいるのだが……。




