絶品ハンバーグ
材料を買って帰っている途中で、迷子の子供を交番に送り届けていたら少し遅れてしまった。
日向さんをこれ以上待たせるのは申し訳ないのでダッシュで家まで向かう。
そのくらいのことで怒るような人ではないと分かってはいるが、急がないよりは急いだほうがいいだろう。
家に戻ってくると、少しニヤニヤとした表情の日向さんがからかってくるので、何か変な事を詩織が言ってないか心配になったが、俺は特にやましいことはしてないはずなので、何が漏れても問題はないはずだ……多分。
「もうすぐ出来上がるので、机の上片づけてもらっていいですか?」
「はいはーい、って言っても特に上には何も置いてないから、台拭きだけもらうね」
「手伝わせてしまって申し訳ないです」
「いいよー、ハンバーグ楽しみだし早く食べるためだもんね」
日向さんが机を拭いてくれているので、その間に盛り付け終わったお皿を詩織と一緒に運ぶ。
「おー、これは思ってた以上に美味しそうだね」
「お姉ちゃん、それは当たり前だから早く食べよ」
俺の料理が好きでそれを褒めてくれるのは嬉しいのだが、凄く恥ずかしくなってくるのでそのくらいでやめて欲しい。
「「「いただきます」」」
いつもならそのまま料理を口に運ぶのだが、日向さんの反応が気になってしまうので、自分は手を付けずに反応があるまで動けない。
詩織がいつも通り美味しそうにハンバーグを頬張っているのを見て一安心した後に、日向さんの方に目を向けると少し驚いた顔をしているので、もしかして口に合わなかったのではないかと心配になる。
「どう、ですか?」
「……しい」
「へ?」
「おいしいよ! 詩織がちょっと大げさに言ってるだけかと思ったけど、すっごいおいしいね、なんていうかめちゃめちゃ好みの味って感じがする」
急に手放しで褒められるのでびっくりする。どうやら日向さんのお眼鏡にかなったらしい。
きっとこの姉妹で味の好みが似ているのだろう、詩織の味の好みに合わせて作るようになった結果、日向さんにも合うような料理になったというわけだ。
「それは良かったです、正直ちょっと不安だったので、口にあったようでなによりです」
「毎日家にご飯作りに来ない? ちゃんと報酬は相場の五倍くらい払うからさ」
「え、流石にそれは――」
「ダメよ」
プロの料理人が毎日料理を出している家に、俺が呼ばれて作りに行くというのはどう考えても嫌だなあと思っていたのだが、食い気味に詩織に拒否される。
「えー、いいじゃん別に誠君はみんなのものでしょ?」
「いや、俺は誰のものでも――」
「私のだからダメ」
「ケチだなあ、ちょっと借りるくらいいいじゃん」
「ていうか、そもそも俺は物じゃな――」
「――ダメよ」
「なら一週間に一回とかならどう?」
……誰も俺の話を聞いてくれないようなので、大人しく二人の会話が終わるまで黙々とハンバーグを食べておくことにする。
俺の料理の話をしてるはずなんだけどなあ……。
結局姉妹で話し合った結果、俺が作りに行くということにはならなかったが、その代わりに時々日向さんが遊びに来るということになった。
「次は夏休み頃に来ようかな」
「思ってたより遅めにするんですね?」
「だってそろそろ期末テストとかあるでしょ? それを邪魔しちゃうのは悪いからね」
そんなことを考えてくれているなんてちょっと意外である。
こちらとしては助かるのだが、週一なんて言ってた割に次に来るのはもうしばらく先になりそうだ。
「何でそんなに意外そうな顔をしてるのかな? って言ってもそんなことを考えてくれてるなんて意外だなあ、って思ってたんでしょ」
「……正解ですけど、どうしてそれが?」
「あはは、だって誠君は凄く顔に出てるんだもん」
またしても顔に出てると言われてしまった……。
俺が出会った人が表情を読むのに長けているのか、それとも本当に俺の考えていることが表情に出やすいのか……。
少なくとも前までは前者だと思っていたが、最近は後者なのではと思い出してきた……。
「じゃあ、私はお邪魔虫だからさっさと帰ろうかな」
「もう帰るんですか?」
「もっと居ていいの? なら誠君の部屋にお泊りして帰るけど」
「……お断りします」
みんなご飯も食べ終わり、ひと段落ついたところで日向さんは帰ることにしたようだ。
「振られちゃったか、まあ誠君にはしおりんがいるから仕方ないよね」
「それにお姉ちゃんは婚約者いるから浮気はダメよ」
「誠君は弟みたいなものだからセーフだよ、まさ君もきっと許してくれるし」
……え? この人婚約者なんていたの……?




