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閑話 私の妹

今回は日向さんの視点のお話です。

もし、主人公以外の視点が嫌だという方は読み飛ばしてもらっても、多分問題ないと思います。



 私はこの一条財閥の長女として生まれて、その立場に合う生き方をしてきた。

 人前での礼儀作法は人一倍気を付けたし、家族以外に会うときは顔に張り付けた笑みを絶やさないようにしていた。


 自分で言うのもあれなのだが、ちゃんと優等生として頑張れていたと思う。

 両親も、私のしたいことを優先させてくれたし、無理強いをさせてくることなんて今までなかった。まあ、少し過保護な部分もあったが……。



 私が丁度五歳になる時に、妹ができた。

 

 その妹は、なんでも一度やれば人並み以上にできてしまうような、そんな天才児で、私とは違って才能にあふれている子だった。

 日に日に才能を見せつけてくる妹を見て、私はこの家に必要ないのではないか、なんて思う日も何度もあった。


 ただ、私の両親も妹も優しかった。

 詩織だけを特別扱いすることなどなく、平等に接してくれたし、詩織も私のことをお姉ちゃんと慕ってくれた。だから、少し嫉妬することはあっても、仲のいい家庭でいられたのだと思う。


 そんな可愛い妹だったのだが、どうも他の人と話すのが苦手らしく、なかなか家族以外に仲良くできる人を見つけることが出来なかった。

 一条家のお嬢様ということもあり、運悪く下心ありきの人ばかりが寄ってきてしまったため、中学生になるころには家族以外に心を開くこともなくなってしまった。


 心が不安定な中で、高校生になる前に一人暮らしを始めたいだなんて言うものだから、私も家族も猛反対したのだが、結局押し切られてしまい、ダメそうなら直ぐに辞めさせることを条件に詩織の一人暮らしが始まった。



 どうせ一週間もしない間に破綻してしまうだろうと思って、その後のメンタルを心配していたのだが、現実はそうはならなかった。

 新しくお世話係になった男の子と仲良くなったと両親に聞いた時には、その事実を信じられなかったし、詩織の身の安全が心配で気が気じゃなかった。


 この前家に来た時には、見定めてやろうとお父さんにお願いして一緒に夕飯を食べられるようにしてもらった。

 だが、意外にもその男の子はしっかりとしていて、最低限の礼儀はわきまえているし、気遣いもできれば、詩織からの話で特にやましいこともしていないことが分かった。


 一緒にお風呂に入っているのはずるいと思ったが……。


 今日二人のもとに訪問しに来たのも、純粋に詩織が絶賛している料理を食べてみたいという気持ちもあったが、それ以外に詩織の気持ちを聞きたかったというのが本音だった。


 そのために、家に材料がなさそうなものをチョイスして、わざと買い物に一人で出てもらったというわけだ。


さて、昔話もここら辺にしておいて、早速本題を切り出すことにしようか。




「ねえ詩織、今の生活は楽しい?」

「ん? 楽しいわ、だって誠といると毎日色んなことがあるし、ご飯だって美味しいのよ」

「ふーん、そっか。逆に不満なこととかないの? 例えば妙にベタベタしてくるとかさ」


 少し露骨に聞きすぎたかな、とも思ったが私の友人との会話なんて、もっと踏み込んだことだって聞くのだからこのくらいは普通だろう。


「うーん、逆に誠は洗濯物くらい自分で畳めるようになってくれ、とかお風呂にも一人で入れるようになってくれ、とか言って私一人でさせようとしてくるのよ、それに――」

「ああ、そう……」


 どうやら、本当に何もなさそうでホッとするのだが、それ以上になぜ私は惚気話を実の妹に聞かされているんだろうと、苦笑いする。

 つまり、誠君は生粋の紳士だったというわけだ。



「じゃあ、そんな誠君を詩織はどう思ってるの?」


 ここで思い切って踏み込んでみる。前見た時よりも、二人の距離感は明らかに近くなっているし、付き合ってはないにしても空気感はそれに近しいようなものになっていると思う。


「……分からないわ」

「分からない、か」


 それもそうだと思った。何しろ今までこんなに仲良くできる他人に出会った事がないわけなのだから、相手に対する感情というものを図りかねているのだろう。

 しかし、それは決して悪いものではないと思う。


「じゃあ、好きか嫌いかで言うと?」

「もちろん好きよ」

「そっかそっか、じゃあ誠君が大好きな詩織にいいことを一つ教えてあげよう――」




 それから少しすると、息を切らせた誠君が帰ってきた。

 どうやら走って買いに行ってきてくれたようで、額には少し汗が流れていた。


「すみません、少し遅くなりました。直ぐに作り始めるのでもうちょっとだけ待って下さい」

「いいよいいよ、お姉さんはもう少ししおりんから誠君のお話を聞いとくから、ゆっくりでも大丈夫だよ」

「……詩織に変なこと言ってないですよね」

「さて、どうかな?」


 フフッと笑って誠君をからかうのだが、案外これが楽しい。

 弟がいたらこんな感覚なのかな? と思いつつ、これからはもしかしたら? なんて考えながら、ハンバーグの完成をのんびりと待つことにした。






次回からは誠君の視点に戻ります。

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