ごちそうさまでした
朝食もバイキング形式かと思いきや、何種類もの定食があるらしく好きなものを注文する形式らしい。
「詩織はどうする? 俺はBセットにするつもりだけど」
「迷いどころね、Bセットのミニハンバーグも美味しそうだし、Dセットのうどんも捨てがたいわ」
「……そんなに食べたいなら、半分こするか?」
「いいの?」
「俺もうどん食べたいなって思ってたし、両方食べれるから二人とも嬉しいだろ?」
実際、俺もBセットにするかDセットにするか迷っていたので、どちらも損しないこの案を出した訳だ。
「じゃあ私はDセットにするから、誠がBセットね」
「分かったよ、ついでに取り皿も二つ貰っとくか」
そうして注文をすると、一分もしないうちに美味しそうな料理が出てきたので、それを受け取ってさっさと優斗たちの場所に戻る。
「お、ミニハンバーグか。俺もそれにしたけどかなり美味しいぞ」
「そりゃあよかった、まあ外れがあるとは思えないけどな」
「ははっ、確かにそうだ」
優斗と会話をしつつ、先に食べ始める前に二つあるハンバーグのうちの一つを、貰ってきた取り皿に分けてスプーンでソースをかけてから、詩織に渡す。
詩織も黙々とうどんを取り分けてくれていたようで、最後にスープを貰ってきたどんぶりに入れてくれてから、渡してくれる。
「……お前らやっぱ仲いいよな」
「ん?」
「いや、なんでもないさ。さっさと食べないと冷えるぞ」
「おう」
優斗の言う通り、取り分けまでしてるので特にうどんは冷えるのが速そうだし、のびてしまってはいけないので、さっさと食べ始めることにする。
「「いただきます」」
さっそくうどんを口に運ぶと、まるで有名なうどん屋で食べているかのようなこしと、美味しさがくる。
「美味いな、まるで手打ちしたてみたいな感じが……まさか、これ手打ちうどんなのか?」
「よく気付いたわね、私はうどんを頼んでも気付かなかったんだけど、後から聞いた感じそうらしいわよ」
「マジか、朝から大変だなあ」
「そうね、プロはやっぱりすごいわ」
朝から手打ちうどんを提供してくれるし、何人頼むかも分からないのに準備してあるなんて、柊さんと同じで雑な感想にはなってしまうが、凄いなあと思う。
正直、市販の冷凍うどんを出されても誰も文句なんて言わないと思うし、分からないと思う。
半分こした分、すぐにうどんを食べ終えたので、次はハンバーグに手を付ける。
横で美味しそうな表情で黙々と食べている人がいるので、味は間違いなく美味しいだろう。
一口サイズに切り分けると、肉汁が少し垂れてきたのだが、このサイズのハンバーグでも肉汁って出るものなんだなと思いながら、食べる。
「……うんま」
「な、この大きさでこれだけの満足感を得られるんだからやばいよな」
「分かる、俺もこのくらい美味しいハンバーグ作れるようになりたいわ」
「作れたら是非試食するときには俺を呼んでくれ」
「できたら、な」
「楽しみにしてるぜっ」
流石に相手は超一流のシェフなので、敵うとは思っていないが、それでも毎日食べてくれる人がいる以上、もう少し料理の腕前を上げたいなと思う。
せっかく気に入って食べてくれているのだから、もっと喜ばせてあげたいという気持ちが大きい。
「……あっ」
「ん、どうかしたか?」
俺が最後の一切れを食べようとしたときに、横から声が聞こえたのでどうしたのか聞くと、少し羨ましそうに俺のハンバーグを見つめている詩織がいた。
「……食べるか?」
「いいの?」
「そんなに食べたいならあげるよ、ほら口開けて――」
とそこまで言って気がつく。
これはいわゆる、あーんというやつではないだろうか? そして更には間接キスではないか? ……と。
だが遅かった、もうとっくに詩織はスタンバイを完了して横で口を開いて、今か今かと待っている。
やっぱりダメなんて、そんなことを言えるような、そんな状況ではなくなってしまったのだ。
ここは、覚悟を決めるしかないだろう。
箸で掴んでいるハンバーグを、詩織の口のほうへと運ぶと、そのハンバーグにパクっと食いつき、そのまま幸せそうな表情でモグモグと食べる。
しっかり箸ごといっていたが、もう気にしたら負けだと思う。
「……ごちそうさまでした」
「ん? 優斗はとっくに食べ終えてるだろ?」
「いや、なんて言うか……ねえ?」
と柊さんに同意を求めるように優斗が顔を向けると、まったくだと言わんばかりに頷かれてしまった……




