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距離感



 目が覚めると知らない天井だったので一瞬戸惑ったが、そういえば林間学校で旅館に泊まりに来ていたことを思い出して、ホッとする。

 それと同時に、昨日あった出来事も思い出す。


 あんなことがあったのに、俺はよくぐっすり眠れたなと思いつつ、そういえば背中に布団とは違う温かさがくっついているということは昨日の寝る前と同じ状況だという訳で、おそるおそる顔だけそちらに向けると、案の定詩織が俺に抱きついてスヤスヤと寝ていた。


 相変わらずの美少女っぷりだなあと、無防備な寝顔を眺めながら感じていると、俺が動いて手が離れてしまったのか、行き場を失った手をさまよわせる。


「……おいてかないで」


 やはり昨日のことがあって心が不安定なのだろうか。悪夢にうなされているのか、少し苦し気な表情で、そんな言葉を発する。

 

「……俺はいるからな」


 詩織の手をそっと握ってあげると、安心してくれたのか、少しして柔らかい表情に戻る。

 その後も、しばらく起きそうもないし、まだ起床時間まで余裕もあったので、詩織の寝顔を眺めながら朝の時間をのんびりと過ごす。





 しばらくそのままになっていて、完全に油断していたので無意識だったのだが、気づいたら詩織の頭を撫でていた。

 許可もなしにマズいと思った矢先、詩織の頭から手を離す前に詩織の目が開いてしまった。


「……」


 流石にこれはドン引きされるなと、急いで手を引っ込めて覚悟を決め、言葉を待っていると、詩織が首をかしげる。


「もっと撫でて?」

「……へっ?」


 てっきり引かれるとばかり思っていたので、素っ頓狂な声が出る。

 

「……嫌じゃないのか?」

「どうして?」

「どうしてって……やった俺が言うのもあれだけど、許可もなしに男に頭触られてら嫌だろ?」

「じゃあ許可するわ、だからもっと撫でて?」


 そういう問題ではない気がするのだが、そんなにも撫でて欲しいと言われるのであれば、俺は撫でるという選択肢しかない。

 そっと詩織の頭に手をのせて、サラサラな髪の毛の上でゆっくり優しく手を動かすと、リラックスしきった顔で俺の胸のあたりに頬ずりをしてくる。


 かなりドキッとしたが、そのまま撫で続けると、詩織が目を閉じてそのまま寝ようとし始めるので、もうすぐ起床時間も迫ってきていることもあり、手を頭から離す。


「あっ……」

「もう起きないとだからまた今度な」

「絶対よ?」

「分かったよ、また今度だからな」

「ん」


 また撫でるという約束を取り付けられてしまったが、こちらとしてもサラサラな髪を撫でて喜ばれるというのは案外嬉しいもので、いわゆるウィンウィンの関係ということで、二人の時にでも撫でさせてもらう事にしよう。





 二人ともの着替えを済ませた後、離れを出て本館の食堂に向かうともうそこそこの人数が朝食を食べ始めていた。奥の方まで見渡すと優斗と柊さんが一緒に食べ始めているのを見つけたので、昨日の謝罪をするためにそちらに向かう。


 そちらの方に近づいて行くと、気づいたのか少し心配そうな表情で手を振ってくれるので、急いで横まで向かう。


「体調は大丈夫なのか?」

「心配かけて悪かったな、寝たら治ったから大丈夫だよ」

「ならよかったよ、山頂まで行ってからいつまで経っても誠たちが来ないから、何かあったのかと思って先生に聞いたら体調不良で先に旅館に戻ってるって言われて、それから今まで顔も見れなかったんだからな。まあ顔色もいつも通りっぽいし安心したよ」


 実は仮病を使ってたんです……なんて今更言えないよなあ。

 こんなに心配してくれるなんていい友達を持ったなと思いつつ、罪悪感で胃がキリキリする。


「一言かけてから行くべきだったよ、ごめん」

「次からはそうしてくれよ? マジで心配したんだからな。ああ、それとさ、気のせいかもしれないけど、なんか二人の距離がいつにも増して近くないか?」

「え?」

「私も思った、いつもよりくっついてる気がするわ」


 自分では全く気が付かなかったし、いつも通りだと思っていたのだが、よくよく見れば詩織とは肩がぶつかりそうなくらい近い位置に立っている。


「……まさか――」

「お前が想像しているような事はないぞ?」

「ほんとか? まあ隠したいならそれでもいいけどよ」

「ほんとだってば」


 優斗たちにあらぬ誤解を生んでしまったのだが、そっとこぶし一個分くらい詩織から離れようとすると、その分詩織が近づいてくるので、自分ではどうしようもないようだ……


「とりあえず誠達も朝食取って来いよ、俺達の横開けとくから向こうで選んでな」

「助かるよ、じゃあ行くか」

「ん」








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