やるなら本気で
「こんなにガチでやるのか……」
「やるからには本気よ」
「……だからって、メイクしてもらうこともないんじゃないか? かつらを使ってほぼ顔隠すんだし」
「そこから真っ白い肌が見えた方が臨場感あるでしょ?」
何故かこういうことに関しては、詩織は手を抜かないのだが、是非とも自分の生活力にも手を抜かないでほしいものである。
「でもそれなら詩織までメイクすることもないんじゃないか? 元から肌はすごく白くて綺麗だし正直メイクした後も、そんなに変わったようには見えないんだけど」
「そ、そう。でもそういう誠はいつもと全然違うわ、別人みたいね」
「俺もそんなに外に出る方ではないから、他の人と比べると肌は白い方ではあるけど、詩織ほどではないさ、手入れとかも全くしてないし」
まあ詩織の場合は日焼けすると後がひどいタイプらしく、その対処はきちんとやっているため、とても綺麗な白い肌が保たれているらしい。
とりあえずメイクも終わったらしいので、さっさと服も着替えて肝試しの出口付近の木の陰に隠れに行くために外に出る。
「普段は街の中にいたから気付かなかったけど、月明かりってこんなに明るいんだな」
「星もいっぱい見えるわ」
「確かに――えっと、あれが北斗七星だから、あっちが北極星かな?」
「どれ?」
そう言って詩織が俺に肩がぶつかりそうなくらい近づいてくる。
「あっちの方のやつだよ」
指を指して教えるのだが、いまいちピンとこなかったのか、少し背伸びをして顔が近づけてきて詩織の頭が俺の頬にトンと当たる。
当たってきた本人は思ったより星に夢中になっているのか、気づいている様子はないのだが、俺は星どころではない。
風でふわっと舞い上がった髪の毛が鼻をくすぐると共に、ミルクのような甘い匂いがする。
同じシャンプーを使っているというのに、何故こんなにもいい匂いがするのだろうか……
俺がボーっとしていると、詩織が腕を掴んで話しかけてくる。
「誠、見つけたわ!」
「……お、おう。良かったな」
「ん? どうしたの?」
「いや、何でもないよ、そろそろスタートする時間だし、持ち場に行こうか」
俺の様子が変な事に気がついているのか、首を少しかしげていたが、俺は誤魔化してそそくさと歩いて木の下まで行く。
「やっぱり変よ、体調が悪いのなら帰ろ?」
「体調は何も問題ないから大丈夫だって」
「でもボーっとしてるし、目も合わせてくれないわ」
「えっと、それは……」
明かりが月明りだけで良かったなと思う、だってきっと俺の顔は赤くなっていただろうから。
「っと、生徒の声も聞こえてきたし詩織もさっさと隠れないとバレるぞ」
「……ほんとうに体調は大丈夫なのね?」
「そう言ってるだろ? ほら、早く隠れるぞ」
「むぅ……これが終わっても変だったら、お医者さんを呼ぶわ」
別に体に異常があるわけでもないのに、それで医者を呼ばれてしまっては申し訳ないし恥ずかしいので、何とか頑張って平常心に戻す。
それから少しして、最初の組だと思われる人達が俺らの前を素通りしていく。
どうやらもうないと思っているらしく、こちらに気づく素振りもないまま旅館の入り口まで戻っていったようだ。
「見つからなかったわ」
「まあそんなもんだろ、わざわざ見つかりにくいようにいるんだからな」
「ほんとうに見つかるのかしら」
「そのうち一組くらいには見つかるんじゃないか? 案外こういうのが苦手な人とかの方が見つけてくれたりするもんだ」
とは言ったものの、その後も十組近く人が通って行ったが、ここが目立たなさすぎるのか誰にも見つかることはなかった。
「暖かくなってきたとは言え、流石に夜だし寒くなってきたからあと少ししたら戻るか。風邪ひいてもいけないしな」
「誰かに見つかるまで戻りたくないわ」
「って言ってもなあ、詩織も少し寒そうにしてるだろ? 仮病使って抜け出してるのに、それが本当になったらシャレにならないから――」
「くしゅんっ」
「ほら言わんこっちゃない」
そんなやり取りをしているときに、くしゃみしなかった? という声が少し離れた所から聞こえる。
「バレるかもな」
「チャンスね」
「楽しそうで何よりだよ……」




