油断してると
「まあ、誠が普通か普通じゃないかで言うと、満場一致で普通じゃないになるからそこは置いといて、例えば二人で一緒に帰った後何してるのか、とか色々あるだろ?」
「そこ置いとかないでくれよ……そうだなあ、まあ俺は大抵晩御飯を作ってるな」
「すげぇな、親とかは仕事で帰りが遅いのか?」
「いや、俺が一人暮らしを始めたから自炊してるってだけだよ」
……本当に一人暮らしと言っていいか怪しいくらいには、一緒にいるやつがいるのだが。
「高校生から一人暮らしか、なかなか凄いな。親御さんは反対とかなかったのか?」
「確かにかなり心配されて、セキュリティがめっちゃ万全のところに引っ越すことと、長期休みの時はなるべく帰ってくるように、っていう条件付きで了承を得たな」
「だとしてもそんなにやる親がよく一人暮らしを許してくれたな」
「まあ中学の頃にちょっとあったってのもあるけどな」
「それは聞いてもいいやつか?」
「んー、話したくないって程でもないけど、自ら話したいかどうかで言われると、そんないい話じゃないかな」
「じゃあもし話したくなったらその時に聞くことにするわ」
こういうところが、優斗のいいところだろう。入学式の時みたいにぐいぐいと仲を縮めてきたかと思えば、相手が本当に嫌なことや聞かれたくないようなことは絶対にしない。からかってくる所はもう少し直してほしいところではあるが……
「あれ? ってことはいつも持ってきてるお弁当も自分で作ってきているの?」
「まあ一応、ていうか見られてたんだ」
「チラッと見えただけよ、それにしても毎日お弁当だなんて凄いわね、早起きとかしんどくないの?」
「そりゃ初めの頃はしんどかったけど、慣れたよ。それに晩ご飯の残り物とかも結構入れてるし」
「それでついでに一条さんのも作ってきてると」
「ん、誠のご飯は絶品」
「そんなに絶賛するなんて、気になるわね」
おっと? 話がなんだかおかしな方向に行きそうな気がするぞ?
「一人暮らししてるなら今度遊びに行ってもいいか? 勿論ダメならいいけど」
「ダメってことはないけど……」
「なら次の休みにでも遊びに行ってもいいか? ちょっと誠の料理が気になってきた」
「私もいいかしら、今私料理の練習をしてるから参考にしたいの」
「……次の休みになら、まあ」
別に優斗達が家に来て部屋を物色、なんてことをするとは思えないし、隣に詩織が住んでいることさえバレなければ、別にみられて困る物とかもないので、断る理由もなかった。
「さっすが誠! 楽しみになってきたな」
「上崎君の料理が楽しみなのは私もそうだけど、まずはこれから行く林間学校でしょ?」
「おっと、そうだったな、ちなみにみんなは何が楽しみなんだ? 俺は夜にある肝試しかな」
「私は出てくる料理が気になるわね、どうやら一流のシェフが作ってくれるらしいし」
そう言ってこちらの方をチラッと見てくるので、苦笑いをする。
ええそうです、こちらのお嬢様の父親が用意してくれているそうなんです……
「んー、俺は登山という名のハイキングが気になるな、今まで山に登ったことないし、頂上からいい景色を眺めたい、今日は天気がいいからな。詩織はどうだ?」
「私は寝るのが楽しみね」
「ア、ウンソウダネ」
「一条さんはそんなに寝るのが好きなんですか?」
「そうだけど、特に今日は――」
これはこのままとんでもないことを、そのまま言ってしまいそうだったので、急いで詩織の口を手でふさいで小声で、それは言っちゃダメなやつだと伝えると、忘れていたような顔をした。
ほんと、頼むよ? こんな事聞かれたらマジでとんでもないことになるんだから……
「上崎君どうしたの? 急に一条さんの口をふさいで」
「いや、顔に虫が止まっていた気がしたんだけど、気のせいだったみたいだなアハハ」
「だからって一条さんは女の子なんだから、一言言ってから触れるべきよ」
「今度からは気を付けるよ」
「ええ、分かったならいいのよ」
あ、あぶねーなんとか乗り切ったかな?
そんなこんなその後も、優斗達と雑談を色々としているともうすぐ目的地に到着しそうなところまで来ていた。
少し酔わないか心配だったのだが、楽しく雑談できていたためか、そちらに気が回らなかったため、全く問題なかった。




