林間学校についてお話をしようか 前編
班を決めてからはあっという間に時間も過ぎて、もう林間学校に行く前日の夕方になっていた。
……なのだが、今俺は自分の家にはいない。 なぜかって? それは詩織の家に呼び出されたからである。
事の経緯を簡単に話すと、学校が終わり詩織とともに家に帰ってくるとマンションの下で豊さんが待っており、詩織のお父さんである義さんが二人ともを呼んでいるとのことで、そのまま高級車に乗ってお屋敷に来たというわけだ。
「いったいなんだろうな、まあ普通に考えて明日からの林間学校についてだとは思うけど。特にやらかしてはないと思うし……多分」
「誠が解雇されることなんてないと思うわ」
「そんなことにはならないといいんだけどな」
最近、というより初日以来ここには来ていなかったのでまたしてもここの広さに驚きつつ、二人で義さんが呼んでくれるのを待つ。
十五分くらい待っていると、少しやつれた義さんが部屋に現れた。
「待たせてしまってすまないね」
「いえ、こちらは大丈夫ですよ。それより義さんは大丈夫なんですか?」
「仕事が少し立て込んでてね、たった今それを片付けてきたところなんだよ」
「それは、お疲れ様です。……それで、話というのは?」
「そうだったね、明日からある林間学校についての話だよ」
一応予想通りではあったが、クビ宣告ではなかったことにホッとする。
「ああそれと、この話とは関係ないんだけど詩織の母、つまり僕の妻が君に会いたいと言っているから呼んでもいいかい? まあダメと言われても僕にはどうしようもないんだけどね」
「え? ダメなわけないですよ」
「それは助かるよ。じゃあ呼んできてもらっていいかな」
と横にいた執事の人に話しかける。
詩織のお母さんか、やっぱりおしとやかな感じの人が来るのかな? それとも詩織と同じ不思議ちゃんみたいな感じなのだろうか。
どんな感じなのか想像しながら、部屋のドアが開くのを待つ。
三十秒も待たないうちにパタパタと足音が聞こえたので、そちらに視線を移すとそこには詩織をそのまま大人にしたような人がやって来た。
「久しぶりね詩織、元気にしてた?」
「うん」
「そしてあなたが噂の誠君ね! 詩織が自分で選んで懐いた人なんて今までいなかったからすごく気になってたのよ! 是非お話をしましょう」
……あれ? なんか思ってたのと違うぞ???
「はぁ、美緒さん、初対面でいきなりそんなぐいぐい行ったら誠君も絶対困惑するって言ったばかりだろう……確かに今までの詩織との生活について色々と聞きたいところではあるけどとりあえず落ち着いてくれ」
「それもそうね、ごめんなさい私すごく気になってて抑えられなかったの」
「大丈夫ですよ、確かにちょっとびっくりはしましたけど」
コホンッと義さんが一度咳払いをして話を戻す。
「美緒さんの話は後でということにして、先ずは明日からの林間学校についての話をしようか」
「はい、ご存知かもしれませんが、一応俺と詩織は一緒の班にはなれました」
「そうか、なら話は早いな。基本的には今までと同じようにお世話をしてもらう、料理に関しては林間学校の食堂にシェフを行かせたから大丈夫だろう、後は朝なんだが流石に泊まる部屋班ごとで男女別だから起こしに行ってもらって支度をするのは無理だ」
「そうですね」
そこが問題なのは俺らでも分かっていたし、少し考えてはいたのだが結論は出ていなかった。
朝が弱いと柊さんに話して起こしてもらい、手伝ってもらうというのが一番安牌だというのが今のところの考えてではある。
「ところで誠君、もちろんだが詩織に手を出してはいないだろうね?」
「当り前じゃないですか!」
「……ならば、という訳でもないのだが苦肉の策として誠君と詩織には一緒の部屋に泊まるというのを、今こちら側で考えている」
「は、はあ!?」
「僕だってね? そんなの嫌だよ、可愛い娘が男と一緒の部屋に泊まるなんて……」
ちなみにどうやって俺と詩織が同じ部屋に、ということだが詩織はお嬢様なので一人部屋に泊まるというのは全く問題はない。
そして肝心の俺は担任の先生は一条財閥の人なので、仮病でもつかって他の部屋にでも移るということにして、詩織と同じ部屋に行くという戦法だ。
幸い林間学校は一泊なので朝になって体調が戻ったといえばなんとかしのげるだろうとのことだった。
「俺はいいですけど、詩織はどうなんだ? 同じ部屋で寝るのが嫌ならちゃんと言ってくれ」
「嬉しい」
「へっ?」
「だっていつも一緒にお風呂から出たらそのまま誠は帰るでしょ? でも一緒に寝れるなら私は嬉しいわ」
お、おおう。こんなにストレートに嬉しいって言われるとこっちまで嬉しい。
でもね、爆弾発言をするのはよくないと思うんだ、ほら、義さんがすごい顔でこっちを見てるじゃないか……




