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35話:最後の日

12月31日、いよいよこの日がやってきた。

キラとテルは夕方に落ち合い、ニューイヤーに備える。


「ニューイヤー、どうやって現れるんだろう」


ケセランとパサランは結局詳しい事を言わずに帰ってしまい、対策はあまり練れないまま当日を迎えてしまった。

結局、県の中で最も人が集まる都市で待ち構えることにした。

キラとテル、アキラとクラン、フウヤとユカリの三チームに別れて対抗する作戦だ。


「どれだけ被害が出るのか分からないわ、気を引き締めましょう」


「うん」


キラはテルの後ろを付いていく。

キラは思わず笑みを零した。テルは不思議に思ってキラに尋ねる。


「どうしたの?」


「何だか最初の頃を思い出して」


確かに二人が出会った当初はキラがテルの後を追い掛けてばかりだった。

ただ、テルは今は違うと言おうとしていたことに気付かないまま、キラはテルの前へ出てしまった。


(今の私は、ただ貴女に付き纏っているだけなの……貴女が私の知らない所で死ぬのが嫌だから。ずっと私のく


テルが自分に依存していることに、キラはまだ気付かない。






その頃、アキラはクランと一緒に街を歩いて回っていた。ニューイヤーの現れるポイントを探るためだ。


「………」


クランは何も口にせず、ただ辺りを警戒していた。別に仲良くなるつもりは毛頭ないので会話が無いのは構わないが、何も話さずただ沈黙が続くのは気分が悪い。

気は進まないが、仕方なく話し掛けてみる。


「お前、どうして私とチームを組んだ」


「あら、そんなに五階堂フウヤと一緒になりたかったの?」


「はあ!?」


どうしてそんなことになるのか分からず、アキラはクランに掴み掛かる。

クランはクスクス笑いながら軽くアキラの手をほどく。


「冗談よ。そんなに怒らないで」


まだ腑に落ちないが、アキラは怒りを鎮めることにした。

アキラが落ち着くと同時に、クランはアキラの問いに答えた。


「別に深い意味はないわ、たまたまよ。二宮テルはキラさんと一緒でないと納得しないだろうし、九留実ユカリも似たようなものね」


「……どちらかと言えばキラの方がテルと組みたがると思うがな」


アキラからすればキラの方が甘えたがりに思えたため、クランの言い分は間違っているように思えた。

クランはそんなものかと話を切った。



「私も、出来るならキラさんと組みたかったわよ。あれさえいなかったら」


クランはアキラに聞こえない小さな声で愚痴った。独り言に気付かず、ただ辺りを警戒するアキラの姿を見て、クランは退屈そうな溜め息を漏らした。





「ねえフウヤくん、フウヤくんは人を殺した時、気持ち良かった?」


ユカリが先日、フウヤがマリスを殺したことを知っているとは思えないが、あまりにタイムリーな話題にフウヤは若干動揺した。

ユカリは一般人に見付かると通報されるため、二人はビルなどの高い場所からの偵察を任された。


「……別に、何ともなかった」


人を殺して何とも思わないはずがない。

しかし、フウヤは本当に何とも思わなかったのだ。それはそれだけ世界から災害をなくしたいからなのか。もしくは、ユカリと同じで自分がイカれているからか。


フウヤは何だかどうでもよくなり、少しだけ笑ってしまった。


「まぁ、犯罪者同士仲良くしようぜ」


ユカリと比べて自分は常識人だと思っていたが、こうなると立場は同じだ。

だからか、そんなことを口走ってしまった。


「? よく分かんないけどいいよ!」


ユカリはフウヤに抱き着いた。

フウヤは、自分の発言を少しだけ後悔した。






そして、いよいよその時が来た。

人々が行き交う中央交差点、その地面が一瞬光ったかと思うと地中から植物の根のような物が現れ、人々を叩き潰していく。


そして、街の中央にそびえ立つビルが崩壊し、中から宝石で出来た巨大な植物が現れた。

まるで亡霊のような禍々しいオーラを纏い、頂上には紫色の宝石で出来た蕾がある。

逃げ惑う人々を、何本もの数えきれない根を触手のように操って潰す。


突如暗雲立ち込める曇った空に、ニューイヤーの奇声のような笑い声が響き渡った。





「何あれ……」


テルは現れたニューイヤーを見て、途方に暮れた。あの怪物は何なんだ。

どうしてジュエルワールドでなく現実世界で暴れるのか。


いくつもの疑問が同時に頭を巡り、訳が分からなくなってしまう。

呆然とするテルの肩をポンと叩き、キラが冷や汗を流しながら告げる。


「とにかく、変身して戦わないと。そうでないと誰も助けられない!」


キラの言葉で目が覚めたテルは、頷いてニューイヤーを見つめる。

そして、ジュエラー全員が変身し、ニューイヤーに立ち向かう。


「変身!!」






ジュエルワールドの片隅で、ケセランとパサランが宙に浮かぶ水晶玉を通してニューイヤーの様子を伺っていた。


「ニューイヤー……ジュエルワールドに籠る必要なく、出現するだけで周囲を強力な結界で囲うことが出来る」


パサランの言う通り、ニューイヤーの周囲数百キロメートルは空間が乱れて孤立していた。

ジュエルワールドと現実世界との境が無くなりつつあるのだ。


「まぁ、そんなこたぁどうでもいぃ。ニューイヤーなんざただの整理役だぁ……なぁ?」


ケセランはニヤニヤ笑いながら流し目で一人の少女を見つめた。

少女はニコニコ笑いながら頷く。





《ウイングキラー》


クランの背中に翼が生え、空中を縦横無尽に飛び回る。襲い来る根をかわしながらニューイヤーを観察する。

ニューイヤーの体から砲台が生えたかと思うと、人魂のような物が悲鳴をあげながら発射される。


クランは翼をはためかせて人魂を撃ち落としていく。

アキラは地上にいるため思うように近付けずまごついていた。


「人選ミスかしらね……」


クランは一言ぼやくと、ニューイヤーの根をかわした。


《スラッシュキラー》


一緒にいるのがキラならサモンキラーで空中戦をするなり、フラッシュキラーで援護して貰うなりで戦えただろうに。

純白の剣で迫り来る根を切り裂きながら柄にもなく愚痴ってしまう。


《バーストキラー》


クランは、今自分がどうしてキラのことを考えているのか分からなかった。強いからだろうか、それならテルでもいいはずだ。

それを考えた瞬間、クランは頭を振った。


「あの子と組むのはごめんね」


《ブリリアントキラー》


クランの体からまばゆい閃光が放たれ、間近まで迫っていた根を全て焼き払う。間髪入れず迫り来る人魂を切り刻みながら、頂上を目指す。


クランはテルが嫌いだった。

何故だか分からないが、一目見て嫌悪感をいだいたのだ。


今までそんなことはなかった。

自分は平等に人を扱っていたが、テルだけは駄目だった。



大分ニューイヤーの頂点まで近づくことが出来た。上空へ近付くに連れてニューイヤーの攻撃は激しくなるが構っていられない。


《ファイナルキラー》


ラピスラズリフェニックスが空間を裂いて現れ、クランに迫る攻撃を消し飛ばす。

そして、クランの体の中に入り、クランの体が強力な白銀の輝きを放つ。

フェニックスのオーラを纏いながら、クランは頂点の蕾に激突した。




「しぶといわね」


激突の衝撃で生まれた閃光が晴れると、中からクランが飛び出した。

ニューイヤーの頂点の蕾はヒビが入り、あと少しで壊れそうだ。


その瞬間、ものすごい速度で黒色の触手がクランをぶち飛ばした。

何とか受け身を取ったクランは唇から垂れる血を拭いて舌打ちをする。


続けて襲い掛かる触手を、巨大なダイヤモンドが薙ぎ倒した。

見ると、キラとテルがそれぞれの契約モンスターに乗って援護に来ていた。


「ナイスアシスト」


援護に来たキラの姿を見た瞬間、何故かクランは自分の心が踊っているのを感じていた。


《サモンキラー》


クランは再度ラピスラズリフェニックスを召喚し、攻撃を再開する。

三体のモンスターの攻撃が、次々とニューイヤーを傷付ける。


もう少しで勝てる。

そう思った瞬間、ニューイヤーが突然の行動に出た。




「ー〆〔≧°%&∇⊆≧★★◎○▼〒#♀[〆‐仝βΩροιληαηκ!!!!!!!!」


ニューイヤーが奇声をあげると、キラ達の契約モンスターが動きを止めた。

ニューイヤーの中にいるモンスターの魂が、契約モンスターに呼び掛けたのだ。人を喰らう本能を思い出せと。

それとジュエラーとの契約がせめぎ合い、モンスターの動きを止めてしまったのだ。


そして、契約モンスターは主を振り落とし、暴れ始めた。



キラはダイヤドラゴンが最後まで葛藤したからか、振り落とされるタイミングが一番最後だった。


「テル!」


近くにいるテルへ手を伸ばし掴もうとして、テルはその手を掴んだ。



その光景を見た瞬間、何故かクランの動きが止まった。何故かは分からないが、クランは胸が焼け焦がれそうな痛みに襲われた。

そして、動きの止まったクランを巨大な人魂が奇声をあげながら飲み込んだ。

追い討ちを掛けるように、無数の触手がクランを襲う。




漸く分かった。

あれ程完璧と平和を望んだ自分が、これ程らしくない事をしてしまったのかが。


私は、あの儚げで、今にも壊れてしまいそうな、芯の強いあの少女に。

確かに恋い焦がれていた。

だからテルが嫌いだったのだ。それほど単純な話だったのだ。


呆れた。

結局はクラン自身も、自分が嫌う好き嫌いだけで人を区別する低俗な人間だったのだ。



「…ンさん、クランさん!」


微かにキラの声が聞こえた気がした。

どうせ望んだ完璧な世界を作るに相応しい崇高な人間ではなかったのだ。

だったらこれでいい。


恋い焦がれた彼女の側で死ねるなら、もうそれでいい。




クランがそう考えていたことなど、キラは知らない。

正気に戻ったダイヤドラゴンに乗って、クランの死体があるであろう場所へ行ったキラ達は愕然とした。


無惨に焼け焦がれ、体を適当に引き千切られた死体は、二目と見れない有り様だった。

ふらふらと死体に近寄るキラは、上から何かが降って来ていることに気が付いた。


キラは降って来たものを受け止め、それがクランの頭であることに気が付いた。


「っああああああああああああ!!!!」




キラは嘆いた。

また死んでしまった。また救えなかった。


「クランさん!クランさん!」


キラは必死に呼び掛けたが、クランが応えるはずがなかった。

キラには分からなかった。どうしてこんなにたくさんの人が死ななければならないのか。


どうしてクランの顔が安らかに微笑んでいるのか、分からなかった。

田目クラン CV.生天目仁美



ラピスラズリ

デッキ構成


スラッシュキラー

ウイングキラー

ブリリアントキラー×1

バーストキラー

オーラキラー×1

オフェンスキラー×3

ディフェンスキラー×2

サモンキラー×1

ファイナルキラー×2

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