表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お飾りにされた方、お飾りの婚約者をお待ちしております  作者: ましろゆきな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

第九章:崩壊した仮面と愛の誓約

 Ⅰ. 破られた「お達し」


 王宮から、王命が下された。


 アルティス・ノクスは、「公女の心身の安寧を乱した」という名目で、セレネア・ルーメンとの「お飾りの婚約者」の職務を、正式に解任された。


 その夜。セレネアは、離宮の自室で、白金の髪を乱し、涙に暮れていた。彼を失うという悲痛な事実は、彼女を「聖女」の殻から完全に引きずり出した。


 扉が開き、アルティスが入室した。彼は、王命を受けたためか、先日までの激情が嘘のように、冷徹で静かな装いに戻っていた。彼の藍色の瞳は、決別の意を固めたかのように、何も映していなかった。


「セレネア様」アルティスの声は、感情を排した「職務」そのものだった。 「私は、これをもって貴女の『お飾りの婚約者』の職務を終えます。今後、貴女の護衛と均衡は……」


 Ⅱ. 魂の懇願


 セレネアは、彼の「冷たさ」に耐えられなかった。もう、彼の偽りの優しさを疑う必要も、聖女の矜持を保つ必要もない。彼女は椅子から飛び出し、アルティスの黒い軍服に、崩れるようにすがりついた。


「行かないで!アルティス公!」セレネアの涙が、彼の胸元を濡らした。「もう、職務だなんて言わないで!わたくしは……貴方との、この絆を失うことに耐えられません!」


 彼女の太陽の魔力が、アルティスの月魔法に泣き叫ぶように流れ込む。その切実な魔力は、彼が必死に保っていた鋼鉄の仮面に、亀裂を入れた。


 アルティスは、腕の中にいる震える太陽を前に、もはや冷静でいることができなかった。


「……絆、ですか」


 彼の藍色の瞳が、激しい熱を帯び始めた。


 Ⅲ. 崩壊と愛の責任


 アルティスの腕が、硬い鋼のようにセレネアの背中に回された。彼の声は、抑えきれない情熱で震えていた。


「貴女のその強い光に、この私、月を操る者が、焦れずにいられましょうか!」


 彼は、もう「公」でも「職務」でもなかった。一人の男として、彼女の魂の叫びに応えていた。


「貴女のせいで、せっかくの私の冷徹な仮面も、ユリウス殿下の御前ですっかり壊れてしまいました」


 アルティスは、セレネアの顔を優しく持ち上げ、その熱に濡れた金色を見つめた。彼の表情は、愛と激情に歪んでいた。


「セレネア様。この責任を、貴女に取っていただいても、よろしいでしょうか?」


 甘い言葉と裏腹に、彼はセレネアを激しく掻き抱いた。


 Ⅳ. 魂の融合


 二人の体が触れ合った瞬間、双律の誓約の共鳴が大爆発した。


 それは、魔力的な融合であり、精神的な交流だった。


 セレネアの熱い太陽の魔力が、アルティスの冷たい月魔法に、激しく絡みつく。アルティスは、彼の全てで彼女を受け止めると、その震える唇を、セレネアの切実な唇に深く重ねた。


 その口付けは、理性の鎖を断ち切るように深く、互いの魂を入れ替えるように情熱的だった。アルティスの手は、白金の髪の中に深く潜り込み、彼は、セレネアのうなじへと口付けを落とす。


 セレネアは、彼の唇から流れ込む清涼な魔力によって、彼の孤独と、裏での献身的な護衛の記憶を、全て知覚した。


(ああ、アルティス。貴方は、ずっと、こんなにも孤独で、私を……!)


 アルティスは、彼女の口付けを通して、「お飾り」の殻の下に隠されていた、純粋な恋慕の感情を、全て受け取った。


 彼らの魔力は、光と影の粒となって部屋中を舞い、愛の誓約を交わしていた。


 アルティスは、激情に駆られ、彼女の細い腰に手を添え、体を密着させる。


「セレネア……君は、私の命だ」


 彼は、肉体的な限界の淵に立っていた。しかし、鋼鉄の理性の最後の残滓が、彼を押しとどめた。この愛は、真の自由を得てから、彼女の意思のもとで成就させるべきものだと知っていたからだ。


 アルティスは、荒い息を吐き出しながら、愛する唇から、かろうじて離れた。


「……これが、貴女に取っていただく責任の、始まりです」


 セレネアの耳に熱の篭った囁きが届く。彼の藍色の瞳は、まだ激情の炎に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ