第十六章:光と影の共闘と隠された文献
Ⅰ. ヤンデレ騎士の警戒網
怪我が治ったアルティスは、セレネアの手を引き、森を抜けて古代の街道へと進んでいた。彼の藍色の瞳は常に警戒に満ち、影の魔力を街道の影や木の葉の裏にまで張り巡らせていた。
「セレネア。決して、私から三歩以上離れないでください」アルティスは、低い声で命じた。
「わかっています、アルティス」セレネアは、彼の過保護な態度を、もう愛おしく思っていた。
「私の影の魔力は、半径十メートルの全てを感知します。この範囲から出れば、ユリウス王子の光の追跡魔術に捕捉される危険があります」
(三歩以上離れたら、君の温もりが感じられない。君の安全は、私の魔力の範囲内に存在する。そして、私の目と腕の中に)
Ⅱ. 光と影の連携
その時、遠くの地平線に、王家の騎士団が放った光の魔力が微かに見えた。ユリウス王子率いる追跡隊が、二人の居場所を絞り込みつつあった。
「追手が来ます!アルティス」
「セレネア。準備を」
アルティスは、即座に影の魔力で周囲の地形を認識し、最適な逃走経路を選んだ。
アルティスは、街道に沿って影の結界を連続的に展開し、追跡隊の視界と聴覚を奪った。彼の月魔法は、セレネアの太陽の魔力と融合しているため、以前より遥かに強力で安定していた。
セレネアは、覚醒し始めた太陽の魔力を使い、街道の脇の小さな花々を咲かせた。その微かな光は、アルティスの影の結界に隠された安全な逃走経路を、彼自身に示す道標となった。
二人の魔力は、影と光という相反する性質を持ちながらも、愛の絆によって完璧に協調し、追跡隊の包囲網を蜘蛛の糸を断ち切るように突破した。
「完璧です、私の太陽。君の光は、常に私を最善の道へと導いてくれる」アルティスは、安堵と共に、深く、甘い言葉をセレネアに贈った。
Ⅲ. 隠された真実と核心情報
追跡をかわし、二人は古い交易都市の隠れた文献庫へと潜入した。アルティスは、ノクス家の情報網から、この文献庫に「双律の誓約」の始祖時代の文献が保管されていることを知っていた。
【隠された文献と創世の制約】
Ⅰ. 影と光の文献探索
追跡をかわし、アルティスとセレネアは、古い交易都市の隠れた文献庫に身を潜めていた。アルティスは、影の魔力で文献庫全体を光の追跡から遮断し、セレネアと共に、「双律の誓約」の真実に迫る資料を探していた。
「この文献庫の奥に、王家が太古に廃棄したとされる、始祖時代の記録が残っているはずです。私だけでは読解が難しい古代文字もある。君の光の知識が必要です、私の太陽」
アルティスは、セレネアに古びた巻物を手渡した。
「ええ、わたくしに任せて。貴方の影と、わたくしの光で、必ず真実を暴きましょう」
二人は、机を挟んで身を寄せ合い、緊迫した状況にも関わらず、愛に満ちた静かな時間を共有していた。アルティスの過保護な視線は、文献を読むセレネアの横顔から、一瞬たりとも離れなかった。
Ⅱ. 発見:真の「双律の誓約」
数時間後、セレネアの金色の瞳が、煤けた一冊の羊皮紙に記された、「双律」の文字を捉えた。
「アルティス!これよ、見て!『光と影の創世制約』とあるわ!」
二人は、身を寄せ合ってその古文書を読み始めた。それは、王家が長年隠蔽してきた、王国の起源と、二人の愛の宿命を語る、創世神話だった。
【古文書の記述:創世神話】
(1)太古の混沌と二人の始祖
太古、世界は太陽の始祖セレスの強すぎる光と、月の始祖ノックスの深すぎる闇によって、破壊の瀬戸際にあった。
互いの力の大きさがゆえに、二人は永遠に交わることのできない対立者とされていた。
(2)制約の始まり:影の献身
ある時、セレスの光が制御を失い、世界を焼き尽くす「破滅の奔流」となった。
ノックスは、その光の炎の中へ、自身の身を盾にして飛び込んだ。
ノックスの影の力は、セレスの暴走する光を受け止め、冷却し、安定させた。ノックスはその熱により深い傷を負い、その影の魔力に「光の熱を永遠に求め続ける渇望」という制約を刻まれた。
(3)真の「双律の誓約」
セレスは、世界と自身を救ったノックスの愛に報い、永遠の誓約を交わした。
【光の約束:セレスからノックスへ】
「わたくしの光は、貴方の影を永遠に祝福し、温め、導く。貴方は、わたくしの半歩後ろに立ち、二度と孤独にさせない」
【影の制約:ノックスからセレスへ】
「わたくしの影は、貴女の光を永遠に守り、支え、安定させる。貴女が真に愛を誓うまで、わたくしは冷徹な仮面を被り、貴女の光を脅かす存在から、貴女を守り抜く」
(4)制約の歪曲
この誓約こそが、「真の愛によって力を融合させ、王国を永遠に導く」ためのものであった。
しかし、二人の力を恐れた第三の勢力(王家)は、この誓約を「光と影は均衡を保つべきであり、愛し合えば世界を破壊する」という偽りの教義に変え、愛のない『お飾りの婚約者』という制度を創設し、誓約の真の成就を阻止し続けた。
Ⅲ. 運命の確信と愛の誓約
古文書を読み終えた二人は、激しい運命の奔流に飲み込まれたかのような感覚に襲われた。
セレネアの金色の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アルティス……貴方の冷たい態度は……この誓約の制約だったのね。貴方は、太古の始祖の時代から、わたくしを命懸けで守り続けていた……」
アルティスもまた、自身の孤独が「不吉な呪い」ではなく、「愛の制約」であったことを知り、長年の心の重荷から解放された。
彼は、涙を流すセレネアを優しく抱きしめた。彼の過保護な愛は、今や太古の誓約によって、絶対的な正義となった。
「ええ、私の太陽。この影の渇望は、君の光を求め続ける永遠の愛の証だった。我々は、逃避行の中で、太古の制約を、真の愛によって成就させてしまったのです」
アルティスは、セレネアの涙をそっと拭い、愛の責任を果たすように、深く口付けた。
「聖地の鍵は、愛の成就によって、私たちの中にあります。君の愛こそが、王国の真実を照らす光だ」
二人は、運命の愛を確信し、聖地への扉を開く決意を新たにした。背後には、ユリウス王子の追跡が、容赦なく迫っていた。




