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ジェレミー・クラウン視点

ジェレミーとニールは意外と仲良しです。

「ニール兄様、いいですか」


「ああ、入りなさい」


 コンコンと扉を軽くノックをするとすぐに返事が返ってきた。


 部屋の中に入ると、重厚な執務机で何やら書面に書き込みをしているニール兄様の姿があった。


「ごめんね、ニール兄様。忙しいところ」


「いや、かまわない。すぐに終わるから少し待っててくれ」


 ニール兄様に言われ、僕はその場に立ったままぐるりと室内を見渡した。


 ……いつ来てもきちんと整理整頓されているというか、余計なものが一切ないというか、殺風景というか……。


 今度観葉植物でも持ってきて置いてみるかな、など思っているうちに、ニール兄様の書類仕事は終了したようだった。


「すまないな、ジェレミー。終わったから、もういいぞ」


「あ、うん。ニール兄様。お疲れ様。お茶でも淹れる?」


「いや、いい。それよりいつまでも立ってないでそこに座りなさい」


「うん、ありがとう」


 促されるまま、僕はソファに腰を下ろした。


 ……さすが公爵家嫡男の為用意されたソファ。


 座り心地がはんぱなく良い。


「どうだ、ジェレミー。何か困ったことなどはないか」


 ニール兄様は冷たいの無表情のままそう尋ねてきた。


 だいぶ慣れたけど、昔はこの無表情怖かったこともあるなー、としみじみ思う。姉様のおまけとはいえ、だいぶ優遇されたはずだったんだけど。


 だけど、今はきちんとニール兄様は本当は優しくて頼りになるってわかっているから、どんな表情してたって怖くはないけどね。


「うん、僕はね」


「そうか。何かあればいつでも相談するように」


「はい、もちろん。……でね、ニール兄様、さっそく今日の相談事なんだけど」


「エレナのことだな」


 そう返され、頷く。


 わざわざ確認されなくても、僕とニール兄様の間で姉様以外の話題が出たことはないんだけどね。まあ、前振りはニール兄様の気遣いというところかな。


「何かあったか」


「うーん、あったというかなんというか。ほら、ニール兄様もよく姉様から、わたしのヒロインが~って話聞いてたでしょう?」


「ああ」


「話をするわりにはいつまでたっても実物を拝めないので姉様の妄想の産物かと思ってたんだけど、僕。

今朝姉様が興奮した様子で言ってきたんだよね。やっと会えた。わたしのヒロインにって」


 そう言いながら、僕は今日の姉様の様子を思い返していた。


 頬を上気させ、嬉しそうに語るその様子は非常に可愛らしかった。


『ジェレミー、ジェレミー! 聞いてくださいなのです。ついに! わたしのヒロインに出会えたのです! この喜びをジェレミーも共有して欲しいのですよ。しかも、ヒロインもわたしと同じだったのです。これぞ、運命なのです! え? 何が同じって? むふー、それは乙女(ゲーム)の、ヒ・ミ・ツ! なのですよ~』


「……という感じで。何が乙女の秘密かは何度聞いても教えてくれなかったけど」


「その相手の名は? 聞いたか?」


「ええと、アニー・カーティスだって」


「……事故で入学が遅れていたカーティス伯爵家の傑物だな」


 ニール兄様は思案するように顎に手をあてた。


「傑物?」


「没落寸前のカーティス家を復興させた影の立役者として耳にしている」


「僕、初耳だけど。さすがニール兄様だね」


 褒める僕に、ニール兄様は「情報は重要なものだからな」と当然のように答える。


 やはり、ニール兄様はさすがだ。


 ラスティならうっかり褒めると有頂天になってすぐ天狗になることだろう。


 まあその場合はそののびきった鼻っ柱叩き追ってやるだけだけど。

 

「怪我が治って先日入寮したばかりだ。すぐに学校にも顔を出すだろう」


「うん、わかった。何かあればすぐまたニール兄様へ相談する」


 必然的に学年が違うニール兄様より僕の方が接点多くなるわけだし。


「ああ、頼む」


「はい、ニール兄様」


 僕は頷き、その場を退席する挨拶をした。


 そして部屋を出て行こうとした時。


「ああ、ジェレミー」


「はい?」


「飴、食べるか?」


「………………いえ、いいです」


 ニール兄様?


 僕、姉様じゃないからね?



ジェレミーとラスティの関係はそのままその父親に当てはまる(ただしジェレミー義父のがちょっと乱暴+ラスティ父のがかなりゆるい)図式です。

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