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レニー・カーティス視点

気分をかえてレニー視点です。

 空から姉が降ってきた。




 僕の双子の姉のアニーは、小さい頃はどちらかと言うと大人しい子供だったように思う。


 子供心に、男である自分が守らなければ、と思っていた。


 それが、気がついた時には既にああなっていた。


 僕よりも頭が良く。


 剣術や武術の腕も上で。


 機転も利き。


 領地経営の才もある。


 まるで超人だ。


 なまじ容姿がそっくりで外見の差は男女のそれによる身長の高低と髪の長さくらいのものだったから、中身の差が際立った。


 陰で男女が別であったらと囁かれていることも知っている。


 爵位と家は基本男児が継ぐ。


 女児が継ぐのは後継の男児がいない場合と決められているからだ。


 カーティス家の為にはアニーが家を継いだ方が遥かに都合が良いことは、誰がみても一目瞭然だった。


 その為に僕がどこかへ養子や婿養子に出されても仕方がないと納得できるほどに。


 しかしアニーなら、カーティスの伯爵位を継ぐよりも、もっと上を目指せるとも思う。


 この辺りについては両親は何も言わない。


 というか、僕と同じで言えないのかもしれない。


 姉のやることに間違いはない。


 しかし姉の意図は僕らには読めない。


 結果が出て初めて、ああそうだったのかと納得できるのだから。

 

 姉は自分へもとても厳しい人だと思うが、他者へも妥協しない。 

 

『なせば成る。なさねば成らぬ。だからやれ』


 それが、姉の信条だそうだ。


 ……それ、命令形なんだけど、それって暗に僕に対して言ってるんじゃないのか。


 それが、僕の双子の姉。


 それが、アニー・カーティス。


 そんな姉が。


 空から降ってきた。


 いや、正確に言うと、空から降ってきたのではないが。


 それは、僕が屋敷の外に出ていた時、頭上から音がした。


 見上げると、姉が窓を開けていた。


 姉の髪が陽射しを反射して、その眩しさに一瞬目を細めたその瞬間、身体のバランスを崩した姉が投げ出されるように窓から落ちてきた。




 咄嗟のことに、僕は何も出来なかった。

 

 意識は凍りつき、身体は動かなかった。


 姉のいる場所は三階。


 落ちればただではすまない。


 目だけがただ、姉の姿をとらえていた。


 その、尋常でない姉の、尋常でない行動を。




 宙に身を投げ出された姉は、そのまま屋敷の壁を蹴り、その勢いで少し距離のあった前の木の枝を掴んだ。


 そして今度はその枝から手を離し、その下にあった枝に掴まり直すと、木の幹を蹴ってくるりと宙を一回転して地面に着地した。


 そこまでは何か完璧なパフォーマンスを見ているかのようだった。


 が。


「あ」


 姉はそう言うと、ガクッと横へ倒れ込んだ。


 高所からの勢いがついた着地に高さのあるヒールでは耐久性に乏しかったらしく、ポキリとヒールの部分が折れたらしい。


 そしてそのついでに姉の足もポキリといった。




 後に姉は語る。


「やっぱりヒールは駄目ね」


 僕は思った。


 そういう問題じゃない。


 やはり、姉は化け物だった。



次回はまたアニー視点へ戻ります。

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