これをどうしろと
ラスティ、攻略対象者としてはちょと弱いですかね。
蛇に睨まれた蛙。
そう表現するのがぴったりですよ、今の状況。
え? 誰が蛙かって?
それは、もちろん。
「な…何だよお前ら、何なんだよ!」
……ラスティ・グランフォードが、ですがな。
あれからどうなったかと言うとですね。
パパさんが「とりあえず今日は子供達だけで親睦を深めるように」と言い置いて、にこにこ笑顔のままのグランフォード侯爵の首根っこ捕まえて引きずるようにして部屋を出て行きましたですよ。
グランフォード侯爵は引きずられながら、わたしに手を振ってたです。
あのお人はどういった方なんでしょうかね。
後に残されたのは、酸欠で気を失ったラスティ。
これを、どうしろと。
わたし、同じ年の男の子なんて運べんですよ。
だからとりあえず、呼んでみたです。
「おーい、大丈夫なのですか。目を覚ますのです。起きるのですよ」
「エレナ、そんなクズに優しい言葉なんか不要だよ」
「そうです、姉様。こんな奴いっそこのまま目を覚まさなければいい……永遠に」
……いつの間にやら隣室から出てきたニールとジェレミーがそばに立ってました。
てゆーか、ジェレミーの言ってること何気に怖いですがな。
「そーゆーわけにもいかないのですよ」
だってわたしはこれを高飛車・傲慢にやっつけるお仕事があるのです。
ついでに性格矯正の教育的指導もこなさなければいけないのですからね。
「エレナ……、エレナはかわいいだけではなく何て優しい子なんだ」
「姉様の優しさはこいつにはもったいないよ。だからさっさと起こせばいい。これで十分」
バシャア!
と、いきなりジェレミーは近くの花瓶を手に取るとその中身をそのままラスティの顔めがけてぶちまけました。……もちろん花ごと。
ジェレミー……? お義姉ちゃんはあなたがよくわからなくなってきましたよ?
「!? な、なんだ!? なにごとだ!? は!? なんで水……!? つかこの花なんだ!?」
これにはさすがのラスティも目が覚めた様子です。
身を起こすと、現状に理解が追い付かないのかパニックをおこしてるですよ。
「目が覚めたですね」
「は!? あ、お前! お前の仕業かこれは! はっ、最悪だな、顔だけじゃなくて性格までも最低だなん……」
ヒュン……ガチャン!
ラスティの悪態が途中で止まりました。
ジェレミーの投げた花瓶が、ラスティの顔のすぐ横を抜けて割れたですよ。
つか、ラスティがあのタイミングで首を振らなければあのコース、ラスティの顔面直撃コースだったですよね……?
「あ……?」
ラスティもそのことに気がついたのか、サーと顔が青ざめました。
「な、何しやがる! 俺様が誰だかわかってんのか!」
はうっ!
素で自分のことを俺様と言う奴が存在するなんて!
やっぱりこいつ超・残念なのです!
「もちろんわかっている。ラスティ・グランフォード」
あ、ツンドラニール降臨。
「わたしはニール・エルハラン。わが従姉妹への侮辱の数々、エレナが許してもわたし達は許しはしないよ。覚悟はできているんだろうな、ラスティ・グランフォード」
ツンドラニールのブリザードな凍てつくような眼差し。
ジェレミーの憎悪を滾らせた眼差し。
「な…何だよお前ら、何なんだよ!」
はい、ここで冒頭の状態に戻るわけですね。
激おこ状態のニールとジェレミー。
そんな二人の様子にビビるラスティ。
いったいこれをわたしに、どうしろと。
どっちかってーと三下の小者っぽい。




