ドレスの打ち合わせが進むのです
お待たせいたしました。
滔々とわたしのドレス案の駄目だしをしていたレニーでしたが、わたしが涙目になってきたのに気づき、「あ、ええと、そういうのじゃなくて」と途端に慌てはじめました。
ぐずんっ。
泣きませんよっ。
泣かないのです!
泣きそうであっても泣かなければ負けじゃないのです……。
涙目になっても涙を零さなければセーフ、セーフなのですよ!
「気にしなくていいのです。それより改善点を言って欲しいのですよ」
そうです。
そうでなくては先に進めないのですから。
レニーはちょっとほっとしたように息を吐くと、頭をぽりぽりとかきながら「改善っていうか白紙からのが……」などブツブツ何か言ってるようでした。
おもむろにスケッチブックをパラパラと捲っていると、ふとあるページで手が止まりました。
「あれ、このページ……」
「あ、それはニール兄様が新しいドレスを用意してくれると言った時にこんなのがいいのですとおねだりするのに描いたものですよ。実際買ってくれたのは全然別のデザインのドレスだったですけど」
それはリボンこてこてフリルふりふりの、わたし作のドレス画が描いてありました。
こんな色がいいと指定したので、淡い水色も塗ってあります。
ただその結果出来上がってきたのは淡いピンクだったので、結局ツンドラニールにはデザインから色からオールスルーされてましたがねっ。
ぷんぷん。
「ふうん……、でもまあ、さっきのよりだいぶマシ……」
と言いながら、レニーは赤ペンでサカサカ描き加えていきます。
おおう。
人のデザイン画に赤ペン入れるなら、そこは一言欲しいですよレニー君……。
「このリボンとって、のフリルも外して、この布少し長くして……」
レニーはブツブツ言いながら手を加えていきます。
つか既に最初のとかけ離れてきたのでそれこと白紙に書き出せばよかったのでは!? な感じに出来上がっていきます。
「……っとこんな感じで、どう?」
スッと差し出されたデザイン画は、やはりすでにわたしのものとは言えないものでしたが、イイ感じに仕上がっています。
淡い水色は映えそうな、すっきりと、それでいて可愛らしさもあるデザイン……。
「おおっ、これはいいです。いいですよ!」
「うん。予算もドレスの布本体にかけた方がいいと思うんだ。このタイプのドレスのレースだったら安いものでも十分いけると思うし……」
先ほどまでわたしの駄目出しに終始していたレニーの口から、ぽんぽんドレスの仕立てや予算などの案が飛び出てきます。
デザインに詳しいだけなら、デザイナーにでもなりたいのですかと聞くところですが、それぞれの素材や価格、どこの産地でその産地の特徴は、まで次々出てきます。
わたしはほうーっと感心しながら聞いてました。
「よく知ってるですね、レニー。すごいのです」
褒めるわたしに、レニーははっとしたように口を覆うと急に黙り込んでしまいました。
「別に……。こんなの、たいしたことじゃない……」
いやー、ずいぶんたいしたことのように思えるんですがねー。
「お洋服、好きなんですか?」
わたしの質問に、さらにレニーの顔が暗く翳りました。
「別に、好きなんかじゃない。ただ姉に、アニーに……」
んん? アニーですか?
「アニーに商売の基本はどれだけその基礎知識や情報を押さえているかだって言われて覚えさせられただけだから……」
商売の基本?
アニーは商人にでもなりたいのですかね?
美少女やり手大商人……、うむ、それもなかなかありですな!
腹でかぽんぽんの海千山千のヒヒジジ商人と渡りあい、見事に勝利して勝ち誇るアニー……。
ううん、ぜひ見たいのです!
ん?
……およ?
およよよよ、それよりなんだか空気がどんよりどよどよ重くなってきてやしませんか。
わたしは、はっとレニーを見やりました。
この重い空気はまぎれもなくレニーの方から漂ってきているものに違いありません。
はうっ。
どうやら面倒なのでスルーしようと思ってたレニーのお悩み事を自らつついて御開帳してしまったようなのです!
わたしはどよよんレニーを前に、どうしたもんかと頭を悩ませるのでした。
次回もお願いいたします。




