とある侍女視点
大変お待たせ致しました。また引き続きよろしくお願い致します。
わたくしはフィフィルティール・フィッツグラットフェルト侯爵令嬢に仕えている侍女でございます。
栄えあるフィッツグラットフェルト侯爵家にお仕えできるだけでも光栄の極み、その上将来は王子妃にと呼び声高いお嬢様のお傍にいられること、非常に望外の喜びと感じている次第でございます。
初めてお嬢様にお会いした日のことを今でも覚えております。
まだ年かさもない幼いお嬢様。
しかしその物腰はもう立派なレディでございました。
他を圧倒するその、上に立つ方独特の空気もさすがでございます。
少々お顔をきつく整えられていらっしゃるところはございましたが、真実そのお心はお優しいものであることも一番お傍にいるわたくしは誰よりも存じ上げております。
それを理解しない者達に、お嬢様が悪く言われること、悔しくてしょうがありません。
そんなわたくしにお嬢様は「言いたい人には言わせておけばよろしいのよ」「人が何を思おうと、それはその方の自由。権威を笠に着てそれを止めることはしては決していけないわ」と気高くおっしゃられる。
ああ、なんて素晴らしいお嬢様なのでしょう……!
とてもお美しくお優しいお嬢様、人に誤解を受けやすいわたくしの大切なお嬢様……、そんなお嬢様に最近友人がお出来になりました。
一人はエレナ・クラウン伯爵令嬢様。
とても素直な、可愛らしいお嬢様。
もう一方はアニー・カーティス伯爵令嬢様。
こちらはとても聡明でお美しいお嬢様。
本日もこのお二人を招いてお食事会を開かれるとのことでしたが……。
「それはエレナの為にはなりませんわ。少しは頭をお冷やしになってはいかが」
「お言葉ですけど、エレナの為にはこちらの方が間違いありません。その頑固な古臭い考え方を改められたほうが今後の為になるかと思いますが」
さきほどから、どちらがエレナ様の為になるか活発に意見を交わされているお嬢様とアニー様。
あのお嬢様が喧嘩ができるほどに親しいお友達をおつくりになれるなんて……、思わずわたくし、感動の涙を零してしまいそうです。
そして何より、そのお二人が大事にされているエレナ様……。
会話に置いてけぼりにされて、寂しそうに俯いていらっしゃいます。
ああ、お二人とも、早くエレナ様の状態に気がついてあげて下さいませ。
エレナ様はわたくしに助けを求めるように、涙目でこちらを見上げますが、侍女の身で主の行動に水を差すような真似はできないのです。
申し訳ない気持ちで首を振るわたくしにしゅん、と項垂れるエレナ様。
ああ、なんでしょうこの庇護欲を掻き立てられる湧き上がる衝動は……。
おもわずお菓子や果物でも差し出して与えたくなるこの気持ち……。
抱っこして頬ずりして膝の上で思う存分甘やかしてしまいたくなるこの感覚は……!
わたくしが自らのうちより湧き上がる思いを抑えている間に、お嬢様とアニー様はエレナ様の状態に気がつかれ、慰めてらっしゃいました。
笑顔になられたお三方にわたくしもほっと致します。
わたくしの大事なお嬢様フィフィルティール様、お嬢様と対等な意見を交わせる貴重なご友人アニー様、そしてお嬢様の癒しになられるエレナ様。
あなた様方の笑顔を守るため、わたくしはこれからもわたくしのできることを果たしてまいりたいと思う次第なのでございます。
それがわたくしの幸せ。
それを壊そうとするものは、どなた様でも容赦はいたしません。
次回は5月4日更新です。




