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【連載版/完結】三流悪役令嬢の受難〜お払い箱になった悪役令嬢は、なぜか厄介な激重キャラに執着される〜  作者: スズイチ
―第二章―

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三流悪役令嬢の災難 12


 大きな影がぐわんと竜巻のような風を纏うと、ぱんっと弾ける。


 中から出て来たのは、淡い金色の波打つ髪の毛に作り物のような真っ白な肌……そして、大きく胸の開いた美しいドレスを纏った絶世の美女であった。


「(だ、誰っ!?)」

 

 美女は何度か瞬きをすると、辺りを見回してから大声を上げる。


『きゃー! やったわー! 大成功よぉ~!!』


 大きく万歳をする美女。

 我々は付いて行けずに、彼女を呆然と見つめる。


『やーっと、この暗くて陰気で窮屈な指輪の中から抜け出せたわ! あなた達のお陰よ! ありがとう!!』


 手を取られて、ぶんぶんと上下に振られる。ずいぶんと元気のいい美女だ。


『すごいわ、すごいわぁ! あなた達に女神の祝福を〜!』


 ぱあぁと頭上に花が舞う。


「あ、あの……あなたは、いったい……?」


 困惑した私の声に美女が、あらっと声を漏らす。


『自己紹介が遅れちゃったわね。私は女神シトリン』

「め、女神!?」


 いや、確かに女神のような美しさだけども……。


『ごめんなさいねぇ。もともと、この石に加護を与えたのは私だったの。けど、たくさんの人に悪用されてしまって……。それで、放っておくわけにはいかないから破壊しようとしたんだけど、悪用された際に膨大な量の悪意を吸い込んじゃったみたいで……。結局、私もその凄まじさに負けて、石の中に吸いこまれてしまったのよ』


 悪意に負けるなんて、女神失格よね……と、しょんぼり肩を落とす女神シトリン。


『身動きが取れなくて困っていたんだけど、石を通じて私の言葉や映像を送ることなんかは出来たのね。だから、真実ほんものの愛という最高位のプラスエネルギーで、この指輪の悪意を吹っ飛ばしてもらうことを思いついたの!』


 うふふと笑う女神が、またもや万歳をする。

 

『それが、今やっと達成されたのよ〜! あなたたちのお陰だわ。やっぱり愛の力は偉大ね! 愛は全てに勝るのよ! 愛をエネルギーを貰ったことで、私の完全復活よ〜!』


 大はしゃぎする女神に、私は疑問を投げかけてみる。


「え、えっと、じゃあ何で毒針で死ぬなんて……」

『それは、悪意を吸っちゃった指輪のせいね。私の持つ善性と指輪の持つ悪性が〝呪いの指輪〟を作り出してしまったの。成功すれば、今みたいに破壊されてハッピーエンドって形になるんだけどね!』


 えーっと、つまり運命の相手と結ばれるっていうのが善性の部分で毒針に刺されて死ぬっていうのが悪性の部分……ってこと?

 なんか、よく分かんないけど……。


『今までの人達も、愛を示してくれることはあったんだけど、利己的だったり、一方的だったり、打算があったりで、真実の愛とはいえないものばかりだったわ。だからこそ〝運命の相手〟って伝えていたのにね。運命の相手には、そんな余計な感情は持ち込まないでしょう?』

「……な、なるほど……?」


 でも、この女神さまも閉じ込められてたんだよね? サルファーくんは気づかなかったのかな? 私がサルファーくんに視線を移すと、彼がむっとした表情になる。


『……なんだよ』

「……いえ。サルファーくんも、指輪に閉じ込められていたのですよね? 女神さまの存在には気付かれなかったのですか?」


 私の疑問にサルファーくんが答えるよりも先に、クライス様が口を開く。

 

「――そういえば、彼は誰なの?」


 その疑問に、クライス様はサルファーくんが大きくなったことを、知らないのだと気付く。


「そ、そうでしたわね! 彼は指輪の中に居た精霊です。先日、不便だからだと私が名前を付けたらこの様な姿になって……」

「……へぇ」


 私の言葉に、クライス様が目を細めてサルファーくんを見つめる。


『…………』

「……ふぅん。まあ、いいか。指輪も壊れたし、特に害にはならないでしょ」

『……』


 何だか不穏な空気を感じて、私は先ほどの問いについて、もう一度サルファーくんに聞いてみた。


『……なんとなく、何かいる気配は感じてた

。けど指輪そのものの気配だと思って、気にしたことなんて無かったんだよ。悪かったな』

「いえ。そうだったんですね、教えてくれてありがとうございます」

『……ふん』

 

『彼は、表層に閉じ込められていただけなのよ』


私たちの会話を聞いていた女神が、笑顔で詳しく説明してくれる。

  

『その精霊ちゃんは表層に、私は深層に閉じ込められていたの。だから、お互いの気配は感じるけど会話や対面することは出来なかったのよ』


 でもね、と続ける女神が頬を膨らませると、話を続ける。

 

『この子が入ってきたお陰で、私の言葉や映像を伝えることができなくなって、すっごく困ったの! 私の送ったものを、この子がキャッチしちゃってね……。本当に迷惑していたのだけど、この子、とっても意地悪な性格でね。そのお陰で、指輪を嵌めた人に対して煽るように必要条件を喋ってくれていたの。そういう意味では、この子の性格が歪んでいて助かったわぁ〜!』


 手を大きく広げて、喜びを表現する女神に苦笑いする。


「……あはは」

『うるせぇな。なんだよ、この女神。なめてんのか?』


 女神シトリンが悪態をつくサルファーくんに視線を移すと、にんまりと笑う。


『――それと、あなたの愛も悪くなかったわよ。惜しかったわね!』


 その言葉に、顔を赤くするサルファーくん。

 

『うるせぇよ、バカ女神!!』


 彼女は何を言われようと、うふふと笑って受け流す。


「――まあ、結局のところ〝呪いの指輪〟は粉々に砕け散り、アルメリアが死ぬことはもうない……ってことでいい? 女神さま」


 クライス様の問いに、女神がぱっと顔を輝かせた。

 

『ええ、ええ! そうよ! そして二人は運命の相手よ! 打算もエゴもなく、献身的に相手のことを思う一途さ健気さ! これが運命じゃなくて何だというの!? もう、もうっ! 私、すっごく感動したんだからっ!!』


 テンションの上がった女神さまは、またもや私たちの頭上に花を降らすのだった。



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