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私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。  作者: 橘ハルシ
最終章 イザベル 後編

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47、街でデート1


 「あ、」

 

 城下の街の入り口で馬車を降り、当たり前のようにパットと手を繋ぎそうになって止まる。

 

 彼はもう迷子になる子供ではない。大人二人が街を歩くのに手を繋ぐ必要はないのでは?

 

 「繋がないの?」

 

 手を宙に浮かせたまま固まっている私の顔色を伺うようにパットが尋ねてきた。

 

 街に行くために貴族とわからない服に着替えて来たはずなのに、彼はどうしてこんなに目立ってるのかしら。周りの人達がチラチラと見てくる。

 

 肩を過ぎるくらいまで伸びた淡い金の髪を緩く一つに結んで、スラリとした体躯に白いシャツ茶系のスラックス。昔はかわいらしかった顔も今は男らしくなってしまっている。どこからどう見ても好青年。

 

 その顔を見上げれば灰色の目が寂しそうにこちらを見ていた。

 

 ダメよ、イザベル。絆されてはいけないわ。よく見て、彼はこんなに大きくなったのよ。

 

 私は目を逸らしつつ、自分の考えを述べてみた。

 

 「私達はもう子供じゃないわよね。」

 「そうだね。」

 「ということは勝手に何処かへ行ったり、迷子になる可能性はないわけで、手を繋ぐ必要はないと思うの。」

 「恋人同士だからって言うのは?・・・うん、まだなしで、ハイ。」

 

 私の表情を読んでしゅんとなったパットに少し気持ちが揺らいだけれど、私は手を繋がなかった。

 

 だって、恋人同士なんて恥ずかしいじゃない!ただでさえこの大きくなったパットは注目を集めるのに、手なんか繋いでいたら何を言われることか。

 

 脳裏で騒ぐ感情を振り切って私はパットの前へ出た。

 

 「最初は本屋、次は種苗店よ。サクサク片付けましょう。」

 「了解!」

 

 勢いよく声を掛ければパットも元気に返事をしてついてきた。

 

 

 この店でしか扱っていない専門書、クラリッサの愛読書の新刊、気になった本とパットの手の上にどんどん積み上げていく。

 彼は結構重いはずのそれを片手で軽々と持ち、空いた手で自分の興味のあるものを手にとって眺めている。

 

 うーん、私も筋力はある方だと思うのだけど、彼には敵わない。

 

 本当に強く大きくなってとしみじみ振り返って彼を見ていたら、近くの女の子達がこちらを窺っていることに気がついた。

 

 私達を見て何か言ってる?

 

 その途端、今まで気にしていなかった周囲のお喋りが耳に入ってきた。

 

 「あの人格好良いね。」

 「・・・あれ見て。あんなにたくさん持たされてかわいそう。」

 「似てないけど、あの人はお姉さんかな。」

 「声かけてみる?」

 

 ど、どうしよう!私がパットをこき使う意地悪な姉になってる。

 この後、パットの所に魔法使いが来て、彼はドレスアップして王子に会いに舞踏会へ行くの?!

 

 いや、落ち着け私。パットと王子が踊るなんてことは起こらないから。見てみたい気もするけど。

 いや、それよりパットが女の子達に声を掛けられて何を言うかわからない。そっちを止めないと!

 

 「え、君達とお茶?ごめんね、俺は今婚約者とデート中だから出来ないんだ。」

 「ええっ?!お姉さんでも恋人でもなくて婚約者なんですか?!うそー!」

 「あっ、お家の事情で無理やり決められたとか・・・?それで荷物持ちをさせられているんですね?」

 「えっ、そうなんですか?!かわいそう!」

 「じゃあ、明日とか他の日なら行けます?」

 

 遅かった!既に接触した後だった・・・。しかも、パットってば私のこと婚約者ってバラしちゃってるし。当然ながらあの女の子達は納得してないし。そうよね、こんな年上の大したことない女じゃあ釣り合ってないわよね。

 

 私はパットに向かって伸ばしかけた手をそっと下げた。

 

 このまま消えちゃおうかな。そうすればパットはあの子達とお茶をするかな。ああでも、あの本をなんとかしなくちゃ。

 

 どうしようかと考えていたらパットと目が合った。

 

 「イザベル、選び終わった?」

 

 彼が優しく微笑んで私へ尋ね、それを見た女の子達のみならず周囲の女性陣がぽうっとなった。

 

 「え、ええ・・・それで全部よ。」

 「じゃ、会計しよう。」

 「あのっ、空いている日はありませんか?是非一緒にお茶を・・・」

 

 女の子達がこの機会を逃さないとばかりに彼の袖を掴み、約束を取り付けようとした。彼は即座にその手を外し、満開の笑顔で断った。

 

 「ごめんね、空いてる日は全て彼女と一緒にいたいから、君達とお茶は一生出来ない。」

 「あ、そうなんですか・・・」

 

 あまりな台詞に女の子達は目が点になり、私はいたたまれなくなった。

 

 「行くわよ。」

 

 私は一言告げてパットの腕を掴み、会計へ突き進んだ。後ろから女の子達が私へ何か言葉を投げかけた気がしたが、彼が同時に耳元でささやいてきたので全く聞こえなかった。

 

 「イザベル、顔が怖いよ?もしかして嫉妬してくれた?」

 「してない!してない!してない!」

 「そう?残念。」

 

 私は最高速度で支払いを済ませ、購入した物は待っている馬車まで届けておいてもらうよう手続きする。

 

 それから本屋を飛び出して息を整え、くるっと振り返って涼しい顔をしているパットに詰め寄った。

 

 「パット!なんであの女の子達に私が婚約者だって言っちゃうの?それにあの断り方はどうかと思うわ。」

 

 言われた彼はキョトンとした顔で私を見下ろしてきた。

 

 「イザベルは俺の婚約者だよね?どうして言っちゃダメなの?」

 「だって、パットと私じゃ釣り合わないって思われるし・・・」

 「俺はそんなこと全く思ってないよ。だからイザベル、そんなこと言わないで。他人が俺達のことをどう思おうが関係ない。大事なのは貴方が俺の婚約者だという事実だけ。」

 

 きっぱり言われて私はぐっと押し黙った。でも、納得してないということが顔に出ていたのだろう、彼は真面目な顔で話を続けた。

 

 「それに俺があの人達と話していた時、イザベルの顔はとても不安そうだった。俺は誰を傷つけても、貴方だけにはあんな表情をさせたくないんだ。」

 

 「私、そんな顔してた・・・?」

 「俺の気のせいならいいのだけど。」

 

 そう言って彼は心配そうに私の顔へ手を伸ばそうとし、ハッとなって止めた。

 

 「勝手に触っちゃダメなんだった・・・。」

 

 無念そうにこちらを見ながら呟いた彼の顔には大きく『許可して!』と書いてある。

 私は半眼になって首を振った。

 

 「さ、次は種を買いに行くわよ。今度は誰かに話しかけられても婚約者だって言わないでね。」

 「嫌だよ。イザベルは俺の婚約者で、それは揺るがない事実なんだから。」

 

 ムッとして言い返してきた彼を、私は振り返って睨んだ。

 

 小さい頃なら素直に聞いてくれたのに。

 

 「私はパットの婚約者ってバレて目立ちたくないの。」

 「俺はイザベルが婚約者だって世界中に知らせたい。」

 「もう、何を言ってるのよ!」

 

 言い合いをしながら直ぐ近くの小さな種苗店に入る。ここは馴染みの店なので店員達は私達のことを知っている。

 

 「いらっしゃいませ。まあ、お嬢様!お久しぶりです。お元気でしたか?」

 「ええ、ありがとう。こないだ戻ってきたの。アレ、届いてる?」

 「はい、こちらに。」

 

 店側には私の目的が分かっているので、スムーズに話が進む。私はカウンターにズラリと並べられた箱の中から、事前に知らせておいた条件に合う種の説明を受けて領地で試験栽培するものをいくつか選びだした。

 

 うちの領地では綿織物が盛んで、その原料となる綿花の栽培も行っている。ただ、年によって病害虫の被害にあって収穫量が一定しない。隣の領地からも仕入れてはいるが近いので、そちらも同じ被害に遭うことが多い。

 それでいろんな種類を栽培して常に一定の収穫量を確保したいと思っているのだ。

 

 「・・・じゃ、これらをフルダ村の館宛送っておいてください。」

 「かしこまりました。」

 

 これで今日の用事は終わり、と店内を見渡せば、パットの姿がない。さっきまで他の店員とお喋りしながら商品を眺めてなかった?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


周囲の声が気になって萎縮するイザベルと、イザベルのことしか気にならないパット。

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