第71話 SS 第52話戦闘と第53話日本の間 テイバー視点
日本に二人を移動させ、まずは菜々の手当てをするテイバー。
ウィルはその辺に放置です(男だし、無傷だし、自分だし)。
頭の中がぐらぐらと揺れる。体が引きちぎれそうに痛い。
ネアーガが外に出ようとしてるのだろうか。
今日は封印が安定しない。
「菜々……」
タオルを水で濡らし、丁寧に彼女の血をぬぐっていく。
見る見るうちにレシュールにやられた傷はふさがっていくが、それでもかなりの出血で顔が青白い。
タオルを何度も洗い直し、丁寧に傷をキレイに拭っていく。
「ごめんな。すぐに助けられなくて」
体の痛みより、胸の痛みが強い。
菜々の顔にまで傷がついている。
僕はその傷に口づけ、額に口づけ、最後に唇に口づけ、もう一度彼女の名前を呼んだ。
穏やかに眠っている顔が、少し幼くてかわいらしい。
「僕を見て」
彼女は僕を見ることが出来ない。この気持ちを自覚して以来、一度だって彼女が僕の姿を見たことはない。でもウィルをこちらに連れてくることが出来た今なら、多分……
「うっ!」
一瞬タキに戻り、もう一度テイバーに戻る。
荒く息をついたあと、深呼吸をした。
この子を守ること以外では、僕は人の手で菜々に触れることはほぼできないのだ。
「ウィル」
側に倒れたままの半身、ウィルフレッドに呼びかけたが、全く反応がない。
日本のほうが暑いから、上着を脱がせて健人のベッドに寝かせ、エアコンをつけた。
ウィルにも僕にも傷一つないのは、ナナが僕らの盾になったからだ。ちくしょう!
もう一人の自分とはいえ、今日はこいつに腹が立ってる。
やっと、やっと想いが通じそうなのに、今朝はなんてことをしやがったんだ。
菜々を泣かせるなんて、一番したくないことなのに!
ウィルを覆う呪いの力は、今はない。
もしあのまま菜々に助けてもらえなかったら、ウィルは消えていたかもしれない。
そう思うと、無事でよかったこと、でも菜々が犠牲になったこと、そんな諸々のことが頭の中をぐるぐると渦巻く。でも今は、自分の体が不安定で考えがまとまらない。
気を抜くとあっという間に猫の姿になる。
体が砕け散りそうだ。
もうすぐ美鈴が来てくれる。
そしたら、僕のことは適当にごまかしてもらって向こうで休もう。
明日。
そう。明日になったらきっと何もかも打ち明けられるはずだ。
「菜々。愛してるよ」
もう人の手で君に触れられないことも、僕の言葉を伝えられないことも、全てが限界を超えてるんだ。僕を見て、菜々。
明日にはきっと、君に直接言えることを信じてる。
二年ぶりにナナの前で人の姿に戻れ、その手で彼女に触れることが叶ったテイバー。
想いが強すぎて、限界ギリギリでした。
次は62話の裏、二人でワンピースを買いに行った時の若君視点です。




