97.某お嬢様の日常すぎる日常 SS⑨
わたくしを呼び出した男はどこのどいつかしらなんて思って、廊下に出てみたらどこかで見たことのある男がニヤつきながら、わたくしに手を振っているじゃない。確か湊と同じファミレスにいた男ね。
「池谷さん。キミに話があるんだよ。少しだけでいいから中庭で話をして欲しいんだよね。いいかな?」
「構わないわ。どうせ大した話ではないのでしょう?」
「まぁね」
何だか態度が気に入らない。さっさと終わらせて、湊が待つカフェに急ぎたいのにも拘らず、呑気に前を歩いている。あまりにのんびりと歩いていることもあって、急かす為に声をかけようとすると突然振り向いて、妙なことを言い出した。
「あんた、お嬢様なのか? 本当は違うんだろ? 確かに極上すぎる美少女ってのは認めるけどさ、ハッタリで転校して来た。だろ? 池谷さより……」
「何を言い出すかと思えば下らないわね。わたくしは間違いなく池谷の娘にして、長女よ。あなたの言うお嬢様とは、どれくらいの財閥のことを指すというのかしらね? 少なくとも、あなた程度の財力ではわたくしに口ごたえをするほどでは無いと思うのだけれど」
「へぇ……? だったらなぜ付き人とか、護衛とかいないんだ? この学園の女子たちは一人くらい、そういうのがいるって聞いてるぜ? 特に鮫浜は相当な財力って話だけどな。あんた、教室でも一人らしいし付き従う奴もいないらしいじゃん。実は見せかけのお嬢様で、偽物なんじゃねえの?」
「失礼ね! 悪いけれど、わたくしはあなたの下らなさ過ぎるお話に付き合うほど暇ではないの。お昼休みを一緒に過ごす殿方がいるわ。彼を待たせたくないし、これで失礼するわ」
この男はわたくしのことをどこまで調べているというの? それにこんな個人のことを言うのも聞くのも、学園においては規則違反のはず。こんな見た目だけの男にけしかけた奴がいるんだわ。もしかしてあの女子なのかしら。そうだとすれば、こんな奴に構うことなんて無いわね。
「待ちなって。その待たせている殿方ってのは、下僕先輩だろ? 高洲湊。あいつにはあんたの秘密を話していないんだろ? いいのか? 好きな男に秘密を隠したままで付き合うとか……可哀想にな」
なんてムカつく野郎なの。湊、遅いのに気づいて、ここに来てくれないかしら。こんな輩に好き勝手言われていること自体が腹が立つわ。湊が来てくれたら、わたくしへの気持ちをハッキリと言ってくれるはずだもの。もしそうでないのなら、悲しすぎるわ。
「ふざけないでくれるかしら? いいこと? 湊はあなたが思っているような男ではないの。わたくしの将来の夫となる男なの。彼の気持ちを聞いてごらんなさい! それでハッキリ分かるはずだわ」
「ほー? 大した自信だね。じゃあ、ここで待ってなよ。俺が下僕先輩を連れて来てやるよ。どうせトイレに行ってそうだしな。あんたのこと待ちきれなくてトイレで泣いてるかもな」
「ふんっ! 勝手に言ってなさいよ。行くならさっさと行ってくればいいわ」
もし湊が曖昧な態度を取ったその時は、彼に気づいてもらうためにも、わたしは彼を一番初めに印象付けた言葉遣いで、戦ってやるわ。頼むわよ、湊。わたしはあなたを信じているわ。




