89.某お嬢様の日常すぎる日常 SS⑦
どうしてこんなにも彼のことを気にするようになったのだろう。家が隣で、出会い方が衝撃的だっただけのことなのに。
「はぁ……残念過ぎる」
「あ?」
何に対して言われているのかなんてすぐに分かった。男の子は、無いよりはある方がいいって中学時代に言われていた。制服……特に夏服は薄い生地になるし、薄着にもなるから好きではない。そうは言っても、それはわたしのせいじゃない。
「地平線が見えた」
「バカッ! 湊のバカ野郎」
彼はわたしの胸には触れていないと断言していた。けれど、確かに彼の手はわたしに触れていた。責任取ってもらわないと困る。見た目はまあまあ、背中は逞しい。そして卑猥過ぎる声。
「あなたの声から犯罪の臭いがするわ」
「うるせーな」
今思えばあれは言い過ぎた。けれど、彼はわたしに暴力的な言葉や態度を見せてくることはなかった。湊は優しさで溢れている男の子。控えめで少しばかりおバカだけれど、湊にならわたしの身を委ねてもいいかもしれない。
結婚よりも前に、わたしとお付き合いしませんか? と。 わたしをあなた……湊の彼女にして欲しい。そんな決心をして、今日は朝から腕を組もう。教室の中まででも離さずにくっついていたい。
「あなたがバイトをしている姿をじっくり見ていたいの。行ってもいい?」
「お、おぉ……いいですとも」
何故か焦っていたけれど、わたしは彼のバイト先に行って彼と一緒に帰りながら、わたしの気持ちを伝えるんだ。
な、何故、あゆが湊の家で待っているの? いつもはいないのに、どうして? まさかあゆも彼に本気なの? 負けたくない、負けないわ。今日はわたしにとっても大事な日。
あゆには負けないわ。湊はわたし、わたしの彼氏にするんだもん。




