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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第六章:美少女と日常

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85.A.S……お前もか? いえ、お前だなんてイワナイヨー。 中編


「ご注文ありがとうございます」


 接客の仕事が初めてとは思えないほど、彼女は呑み込みが早く手際もいい。そしてすでに彼女の微笑みと魅力にやられてしまった男の客たちで店内は満員である。その気持ちは分かる。小さくても色気を感じさせるほどのオムネさんと、支えてあげないとダメなくらいの華奢な腰。漆黒すぎる短い髪の鮫浜は、思わず撫でたくなるほど反則的で愛らしい笑顔をたまに見せてくる。


「センパイ、オーダーお願いしますね」

「は、はい。喜んで」

「ふふっ」


 天使だ。俺の為だけに微笑んでくれているという錯覚さえ覚える。初日にして、すでに野郎どものハートをがっちりと掴みまくっている鮫浜である。逆にしずを始めとした女子のスタッフはどういうわけか、とても恐れていた。男には見えない闇のオーラでも放たれていたのだろうか。


「お、お疲れさま。あゆちゃん」

「お疲れです! それと、湊センパイだけは私のことを『あゆ』と呼び捨てにしてくださいね? 約束ですよ?」

「え、えと、それを言うなら俺のこともセンパイじゃなくて、呼び捨てで構わないよ。だって、俺とキミは……」

「ソレはナイショ……ですよ? それにここではキミがセンパイ。そうでしょ?」

「ハイ」


 くーー。何その何その、上目遣い。俺を萌え死なす気ですか? 鮫浜可愛すぎるぞ。こんな一面もあったなんて、好きになってしまったらどうする! いや、いいのか。好意は元々持っていた。ただそれは何となくもやもやしていて、抜け道の無い霧の中をひたすら進んでいるような感覚。いつまでも闇から脱出出来なかったに過ぎない。その闇から彼女自身が俺を光ある方へ誘導してくれているんだ。好きにならないでどうするよ俺!


「湊、ちょっとこっちへ来いよ」


「ん? しず?」


「いいですよ、ここは私一人で出来ます」


「じゃ、じゃあ、よろしく。あゆ」


「はぁい」


 まるで別人すぎるじゃないか。もしやこれこそが真の姿とかなのか? だとしたら鮫浜好きすぎる。俺の好きだった某アニメの女の子そのものだ。彼女から目を離したくない。いや、離したら駄目な気さえする。


「で、何?」


「アレはあゆだよな? 偽物じゃないよな? あたしのイトコの鮫浜あゆ……のはずだけど、アレは誰?」


「あゆちゃんだろ? どこからどう見ても……」


「何でバイトに来ているのかがあたしには理解出来ない。働いたことが無いって、そんな、そんなこと……」


「週に二日だけみたいだし、少しでも仕事をしてみたかったんじゃないのか? でも初日にあんな動きとか接客とか出来てるからやっぱり、鮫浜はすごいな」


「そりゃそうだろうが! あゆは――」


 そう言いかけた所で、急に青ざめたような顔になったしず。またしても石化のように動きが止まったみたいだが、俺の背後に何か見えたのだろうか?


「わ、悪ぃ。わたしはホール戻るよ。湊はゆっくりでいいから戻れよ。じゃ、じゃあ」


「ん? あぁ、すぐ戻る」


 何か焦っていたがマジで俺の背後に何か闇でも見えたかな? 振り返っても誰もいなかったし、鮫浜はきちんと接客していたけどな。イトコの関係でも、鮫浜の別な一面を見て驚いているに違いない。そう思いながら、振り返った首を正面に戻したその時……俺の真下というと極端だが、上目遣いで下から眺めている鮫浜がそこに立っていた。ナニソレ、可愛すぎるぞ。


「……ねえ、彼女と何を話していたの?」

「しず? 鮫浜のイトコだし、割と話してる。別人のように動いててすごいよなってことを言ってたんだよ」

「へぇ……呼び捨てですか。それは不公平ですね……それなら私のこともあゆと呼んでくれますか? くれますよね?」

「え、あ……はい」

「それと今後は鮫浜とは呼ばないで頂けますか? 頂けますよね……?」

「そ、そうします」


 おおぅ、寒気がものすごく全力疾走してるぞ。さっきまでの愛らしい鮫浜はどこへ? この微弱な電流を体中に流れまくる感じは何だろうか。もしやこれが衝撃的過ぎる一目惚れか?


「湊さん、今良くないことを思いませんでしたか?」


「えっ?」


「仄かに感じましたよ? キミの心の中から……」


「ご、ごめんなさ――」

「ふふっ、いいですよ? じゃあ、口づけで許します」

「こ、ここで?」

「誰も見てないですから」

「じゃ、じゃあ……」

「――」


 俺から彼女の唇を奪うとか初めてなんじゃないだろうか。でもしなければ呪われそうな雰囲気だった。鮫浜は、突然別人格に変わるみたいだけど、それでもそれが彼女らしいといえば彼女らしい。そんな彼女をもっと知りたいと思ってしまう。それくらいの魅力がある。明日教室でも今と同じように話しかけて、そのまま一緒にバイトに来るのも悪くないよな。


「じゃあ、戻りますねセンパイ!」


「う、うん。が、頑張って、あゆ」


「はぁい!」


 も、萌え死ぬ。これが素の彼女だとしたら好きから抜け出せなくなりそうだ。鮫浜あゆ、恐ろしく可愛い子だ。さよりとはまるで違う魅力がありすぎる。もっと知りたい、知りたくなるじゃないか。

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