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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第六章:美少女と日常

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81.さよりさんは今日も悶えている。


 そもそも裏メニューを開始したのは改装オープン初日からだったわけだが、そこから指名を入れられるほど知名度も高いわけでもなく、まして一般客にはその存在すら知られていない。その日のうちに、岬先輩に泣きついて週一だけにしてもらったこともあり、次の週に注文を受けることは無かった。


 それというのもイケメンである浮間が、どこかに豪遊しに行くとかでいなくなったことが関係している。イケボだけでは成立しないという欠点ありまくりな裏メニューをわざわざ頼む学園生なんているわけが無かった。それがまさかご指名を受けるなんて、岬先輩も予想していなかったのではないだろうか。


 体育祭以後から俺の声に反応するようになったさよりは、普段こそあまり意識をしないようだが、近距離からの声には素を出しまくるくらいに、可愛くなってしまった。もっとも初日のあの日、浮間に何か怖い目に遭わされたらしいので、アイツがいたら指名そのものをしなかったと思う。


「お前なぁ、一応裏メニューなんだぞ? そうやって目立つような呼び方はやめろよ」


「また! またお前って言った! 頭が可哀想な湊だから許してあげるけれど、わたしのことは名前で呼んでって言ってるでしょ?」


「さよりん」

「ダメ」

「池谷さん」

「殴るよ?」


「――さより」


「はわぁぁ……」


 とまぁ、ちょろい娘となっていた。かなりの重症……いや、演技だった体育祭の俺様セリフにハマってしまったのだろう。学園内でもコイツに向かってそんなセリフを吐く奴なんてまず、いない。告白こそたまにされているらしいが、デフォルトなお嬢様言葉で瞬殺しているとかなんとか。


「湊、みなとっ、きょ、今日のセリフを言って」


 嫌だ、嫌すぎる。ハッキリ言って、周りの席は一般客がほとんどだ。それなのに、イケメンでもない俺が、とてつもない美少女にそんなセリフを吐くこと自体が間違っている。コップの水をかけられてもおかしくないくらい、場の空気を読むことが出来ない。それが隠されたメニューでもある。


「……お前は俺のモノなんだから、名前を呼ばせるなんざ、俺が決めることだ。そうだろ? さより……」


「はふぅぅぅ……そ、そうです。わたしはあなたのモノなの」


 筋書き通りであって、決して俺の本心じゃない。私のモノとかってセリフに関しては、つい最近まで鮫浜に言われていただけに、何だか照れくさい。決して俺なんぞがさよりに言ってはいけないことだと理解してしまう。このセリフは一応、さよりの耳元で囁いている。しかし、さよりはすぐに反応してしまう為に周りの客はおろか、他の事情を知るスタッフも失笑するという事態になっているのである。中には舌打ちする女性客もいるので、心は常に泣いている。


 指名はいいんだけど、客が少ないときとかいない時間帯にして欲しい。何で夕方の忙しい時にコイツは来るのか。そして頼むのか、理解に苦しむ。さよりと相性が最悪なしずは、絡んでくることは無くなったが俺に対してもさよりに対しても、蔑んだ視線を送って来ているのが分かる。しずとは、いわゆるSMSでやり取りをしている仲になっているが、その内容は大抵が俺のダメだしである。


「これを言えば商売にもならないかもだけど、わざわざ金出して注文しなくても、お前の部屋に言って聞かせられることだって出来るんだぞ? 何で店に来て俺を指名するんだ?」


「愚問ね。それなら逆に聞くけれど、わたくしのお部屋に来たら今みたいなセリフを言い放ってくれるの? 仕事だからこそ渋々でもしているのではなくって? そ、それに、これがまがい物の言葉だとしても、他の見知らぬ女に聞かせたくないわ。あなた、湊はわたくし専用の相手になるべきなの!」


「専用って……何か卑猥に聞こえなくもないぞ。それこそさよりがさんざん俺に言ってきた言葉な」


「あ、あなた……わたくしの部屋で、そ、その卑猥な言葉責めをしてどうするつもりがあるのかしら?」


「どうもしないっての! そういうこと言うから行きたくなくなるわけだが、自覚あるか?」


「あぅぅ……い、言わない。言わないから許して」


 と言ったことをいつものように繰り返していると、傍目から見たらいじめに見えるらしく……俺は店内にいるほとんどの女性客を敵に回してしまったらしい。一部客は指名を検討するくらいに、背筋に電気が走ったとからしいが、それはただのマニアだろう。


 さすがに公開いじめをするつもりは無いので、さよりについては特別に無料で声のサービスをするかどうかを検討中だ。さよりの家であんなセリフやそんなセリフを放ったら、姫ちゃんの冷たすぎる視線と同時に、鮫浜にすぐ連絡が行きそうで怖い。しかし今のままでは、ファミレスの客も減少しそうで別の意味で怖い。


「はぅぅ……」

「わ、分かったから、その……さよりには後で褒美をやるから、だからそんな悲しむな」


「ほんとにホント? ゆ、許してくれる?」

「お、おぉ」


 コレハ何のプレイかな? くそう、そしてコイツ、可愛すぎるぞ。ますます好きになってしまう。

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