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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第六章:美少女と日常

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79.残念すぎた常連さんは俺をご指名らしい。


「湊くん、生きてる?」

「ハ、ハイ……若干意識失いそうですよ?」


 せっかく鮫浜が入って来たのに、何てことでしょう。さよりのことが言えないくらいに、俺も残念な男だったという事実に、思わず目から汗が流れ出してきたよ?


「う~……くらくらする」

「そこで横になってるといい。私は体を洗ってくるから、その間に休んでて」

「……あゆちゃん、優しいな」

「そうでもない」


 優しい言葉と優しい態度。あれが鮫浜の本当の姿なのかもしれないな。それはともかくとして、情けないことにすっかりのぼせ上った。温くもない湯船にずっと浸かっていればのぼせて当然だろう。そこに鮫浜が入って来たわけだが、予想に反して水着姿だった。まぁ、そうでしょうね。いくら彼女がちょっとえっちっぽい女子でも、そこまでさらけ出すとかそれは流石にないでしょう。


 しばらく頭がクラクラしっぱなしだったので、横になって休んでいると風呂から上がったらしい鮫浜が姿を見せた。そしてそのまま3度目の膝枕である。しかも今度は水着です。らしいと言えばらしいのか、鮫浜は可愛らしいフリルの水着を着ている。小柄な彼女だが、さよりとは比較にならないオムネさんなので、フワっとさせた水着を着ているのかもしれない。


「水着で膝枕はさすがにやばいのでは?」

「黙って横になる」

「ハイ」

「湊くんは本当に弟みたいで可愛いね……頭も撫で甲斐があるし。キミが傍にいれば私も少しは晴れてくるのかもしれない……」

「――え」

「ゆっくり休む。いい?」

「ワ、ワカッタ」


 エロいことを考える余裕はなく、心地の良い膝枕と不思議と優しい鮫浜の手で、俺はそのまま目を閉じた。考えてみれば、鮫浜のその姿を見るよりも前にすでに触ったりしているような気がする。見ていないだけで、すでに済ませているといえば変だけど。しかし何とも不思議だった。どうしてこんなにも、鮫浜は俺に優しいのか。普段とはまるで違う。普段は闇を見せているだけに、ギャップで萌えそうだ。


 鮫浜の親もそうだが、兄弟とかに関しても何も知らないままだ。俺を兄にしたり弟にしたりしていたが、本当の所はどうなのだろうか。それも全て知る関係になる為の必要材料なのかもしれないな。


「湊くん……湊……キミは私のモノ――」


 気づいたらやはりというか、鮫浜の膝の上ではなく俺の部屋のベッドに寝ていた。あの海は一体どこで、どんな力が動いていたのかなんて、俺には探りようもない。そして日曜かと思っていたら月曜の早朝だったから、もの凄く悲しい気分になった。結局さよりに会うことなく家に戻って来ていた。学校で会う……というより、朝の登校で会うことになるのでそれは問題が無いだろう。


 そのまま朝まで目を覚ましたまま時間を過ごし、予定通りにさよりは迎えに来ていた。ああだこうだとうるさかったが、いつものように教室に入る手前で別れ、教室に入った。そこに鮫浜の姿は無くて、浅海だけが相変わらず女子たちに囲まれていた。俺に気づいてすぐに囲みを抜けてきたけど。


「湊、おはよう!」

「お、おはよ。あ、あの、鮫浜は?」

「あぁ、今日は休み。手続きがあるとかで忙しいってさ」

「手続き?」

「それについては俺は言えないな。もちろん、悪い意味じゃない。きっと、湊の為にしていることだよ」

「そ、そうか。ありがとな、浅海」

「おう」


 何ていい娘。いや、良い奴ダナー。鮫浜の情報源になるとは思わなんだ。鮫浜と言えば、これももしかしたら見えない力が関係しているかもしれないが、学園の先生たちは鮫浜を気にしていない。いや、見えていないようにしている気がした。触れてはいけないのか、あるいはそう言われているのか分からないことだけど。色々探ると俺にも何かのペナルティが課せられるかもしれないので、今は気にしないことにする。


 放課後になった。鮫浜がいない……いても、毎日何かが起こっているわけでもなかったが、何事もなく過ごした。その流れで俺はバイトに向かった。さよりはというと、すぐにいなくなっていた。あいつは俺を意識しだしているのか、鮫浜以上に教室でも声をかけてこなくなった。外とはまるで違う。


「お疲れっす」

「あ、高洲君。キミに指名来てるよ? 嬉しそうに岬さんが新しい台本を作ってたから、声をかけておいてね」

「は、はぁ……台本? というか、指名ですか?」

「イケメンは不在だけど、イケボは健在だからね。裏メニューの指名は出来るみたいだね」


 バイトに来た俺にすぐ声をかけて来たのは、イケメンには何の関係も無いホールの女性だ。落ち着いた感じの年齢で、話しやすいのでよくしてもらっている。それはともかく、指名制とか台本とかマジですか?


「あ、高洲君~! おはよ」

「お、おはようございます……」

「そうそう、新しいホールの美少女さんは近々入るよ。けど、週に一か、二くらいだって。本人希望だから仕方ないけど、それくらいなら君も磯貝さんも平気だよね?」

「はぁ、まぁ……あの、台本って?」


 ニヤニヤしながら俺に刷り上がったばかりの台本を手渡してきた岬先輩。中身は後で見よう。どうせソレのセリフが羅列しているだろうし、それ目当てで指名して来ているんだからな。


「あ、そうそう。キミに指名入ってるよ! すごい美少女! でね、週一って伝えたらものすごいガッカリしてたけど、それだったらその曜日を固定にしてくれって言われたけど、いつがいい?」


「ただでさえやりたくないんで、月曜でいいですか? さっさと終わらせたいので……その裏メニューだって、一般のお客様よりも学園生を優先ですよね? だったら月曜のがいいです」


「おっけ! 伝えとくよ。てかね、キミが来るよりも先にすでに来ていたんだよね。すごいよね、高洲君ならきっとそうなるって思ってたけど、固定でファンが付くなんてさすがだね! 見込んだだけのことはあるよ」


「あんま、嬉しくないです」


「とにかく、ソレ読んで覚えてからその人の席に顔を出して接客してね。よろしくー」


 健全なファミレスなのに、どうしてこうなった。イケボの無駄遣いもいいところだ。そうして俺は、覚えたくもないセリフを暗記した所で、指名したお客様の席へ向かった。すぐに引き返そうとしたが、彼女の声と姿は店内においては、あまりに目立ち過ぎていた。


「あっ! 湊~! こっちだよっ!」


 あーうん。そうだと思ったよ。こういうのお前しかいないしな。そうか、お前か……さより。

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