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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第六章:美少女と日常

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78.彼女いや、彼とは健全な付き合いである。


 お風呂を沸かしてくる。うん、この言葉には何のエロい想像も湧かないよ? 普通のことであって、何もやましいことなんてない。彼女なりに気を使ってくれたのだろう。何せ眠らされた挙句、海に運ばれて着の身着のままである。体も多少は冷えた。だからであって、そこには緊張するような要素は無いのである。


「湊くん、沸いた。服脱いでいい」

「こ、ここで?」

「そうしたいならそれでもいい」

「そんなわけがないヨネー。サンキュ、行って来る。あゆちゃんも入る……の?」

「……入るけどすぐじゃない」

「お、おぉぉ……デスヨネ。じゃあ、お言葉に甘えて」


 残念な気持ちになんてなってない。何を想像したというのか。さすがに意識しすぎだし、俺の緊張はさすがにバレバレすぎて、彼女も首を横に振っていた。いくら普段から俺にそういうことをしてくる彼女でも、お風呂でどうこうとかそんなことはしないってことだろう。そこは普通っぽくて安心した。


 風呂場は何てことのない風呂場だった。何かの仕掛け、あるいはカメラが無いかと一応探ってみたが、そもそも男の……それも俺なんかの裸なんぞを撮る意味がない。そんなわけで、安心して湯船に浸かることが出来た。普段はほぼほぼ、シャワーで済ませている生活なだけに、風呂は割と長めに入ることが多い。それもあって、浴室は気づけば湯気が辺り一面に立ち込めていて、今のままではどこか見知らぬ奴が入って来ても分からない。


「誰か入ってる? 入りますね」


 えっ? 確かここには鮫浜と俺しかいないはず。それなのに誰が入って来たというのか。湯気の中のシルエットはどう見ても細身の女子っぽいが、そんなわけがない。鮫浜にしては背がそこそこあるし、髪も長い。


「だ、誰でしょう? 入ってますけど……」

「んー? 俺だよ、俺。この姿を見せるのって初めてだっけ? 水着姿も見せたけど、裸の付き合いは無かったかな。興奮するのか?」

「浅海……か? こ、興奮はそりゃあ、しますとも」

「そか、湊ならそう言うと思った。いいぜ、湊にならいくら見られてもいい。でも、下半身は見ないでくれよな。恥ずかしいからさ」


 なにこの男の娘。恥じらうんですか? 襲っていいんですか? 襲わないけど。それはもう裸って時点で危険な道へまっしぐらである。何だかホッとしたような、そうでないような。本当の姿である男姿を見ることのない浅海を、まさかこんな形で見ることになるとは思わなかった。嬉しいような切ないような、何とも言えない気持ちなのはおかしいことだろうな。


「帰ったんじゃなかったんだな?」

「帰るつもりしてたよ。でも、俺は鮫浜の護衛役だから。それはさすがにな」

「浅海は鮫浜の護衛。それは間違いなんかじゃないんだ? 隠しもしないことか」

「まぁね。俺のこの姿はさ、湊個人を満足させるためだけのものじゃないんだ。敵を欺くっていうか、油断させるためでもあるからね。もちろん、俺自身が美少女姿でい続けることは好きだし、湊にも見て欲しいぜ? だけど、これの方が動きやすいんだ。守るためにはね」


 中学の時にはすでに美少女姿だった浅海だったが、その時には複数の女子に囲まれて動けなくなっていた。それを俺が助けてしまっての出会いだったわけで、実はその時からそうだったのね。


「浅海の家と鮫浜はそういう関係って認識で合ってる?」

「うん。それは隠さないよ」

「それはあの、組織的な……?」

「ぷっ、あははっ! 湊、面白いね。もしかしてそれであゆさんをびびってるの?」

「闇の……」

「違うよ。そう考えてしまうだろうけど、それじゃない。彼女も俺も肌に何かを彫るとか、痛みを伴うことはしたくないしね。湊にもそうだよ? 彼女は湊を傷つけたくないんだ。やろうと思えばいくらでも出来るけど、湊をどこかに縛り付けるのは彼女の本位じゃない。心はどこかに縛られているからね……」


 深いな。コイツ、浅海自身のことは分かったけど、やはり簡単には教えてくれないのか。うう、それにしても浅海に俺の貧相な体つきを見られたくないぞ。背中だけはアレだが、マッチョじゃないし。


「湊はあゆさんが好き? 池谷さんも好きなんだろ? 本音を言うと、あゆさんと一緒になって欲しい。もちろん、俺自身が湊も守りたいってのもあるよ。だけど、池谷さんの方を選ぶならそれでもいいんだ。そしたら、近くにいられなくなるかもってだけの話だから。湊のことが好きなのは俺もだからね。友達だし」


「あ、浅海……俺も友達として好きだぞ!」


「サンキュ! じゃあ、俺は行くよ。湊はせっかくだし、ゆっくりしていきなよ。俺はあゆさんが見えない所で守るだけだよ。もっとも、彼女は俺に気づいているだろうけどね。じゃあ、学校で会おうな!」


「お、おー……」


 助かった……のか? かなりのぼせて来たんだが。それにしてもいい男すぎるぞ。見た目も性格もイケメンそのものだ。惚れない方がおかしい。普段の美少女姿で見知らぬ男から声をかけられてもおかしくない。それくらい見惚れる。友達で正解だ。そのまま好きになりそうだしな。


 そして予想はついていたが、上がろうとしたら入って来たヨ? 彼女が――。

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