75.とある闇天使さんの日常 SS⑥
彼は私に気づき始めたかもしれない。そう思ったのは、浅海と彼を救った時に一瞬だけ見られていたから。高洲君は成績こそ悪くて、おバカな男の子だけど常識は正しく持っていて、そして私なんかに比べたらとても純粋な男の子。そんな彼だからこそ、放っておけないし守ってあげたくなったかもしれない。
「さ、鮫浜……? な、何を」
「後は任せていい。君はゆっくり眠る。いい?」
「う……ん――」
高洲君を眠らせるのはとても簡単なこと。私は色んな植物を育てているし、少しだけ薬の調合にも手を出しているから。それとも、優しくていい子だから素直に眠ってしまうのかもしれない。ひねくれすぎた私ではあんなに簡単には眠ることすら出来ないはず。だから離したくない。彼は私が傍にいないと間違って池谷の所に向かってしまう。それは認めない。鮫浜家が池谷家なんかに劣ってたまるものか。
「さよちゃん、邪魔」
「ご、ごめんなさ――」
教室の中だからって悪いことをしているとは思えない。それなら、外で堂々とキスをしている人たちは許されるもの? 場所と立場と常識というなら、そんなのは私が壊す。高洲君と口づけをすることで、私は私を保てられる。だけれど、さすがに全てを監視することは出来ない。たとえ、見えない所でさよちゃんが彼にキスをしていたとしても、そんなことくらいで彼がさよちゃんに行くとは思えない。だからそこまでは見ない。
「好きなだけキスしていい?」
「ほ、ほどほどにお願いします……一応、学園内で体育祭の一環で……うぐー」
「んん……」
時間にしたら3分くらい。そこそこ。それだと満足できるわけがないけど、さよりなんかに負けるわけには行かない。私は彼を自分のモノにしたい。ただ、それだけのことだから。




