70.とある闇天使さんの日常 SS⑤
私が望むもの。それは、お金でもなければ人でもない。そんなのは欲しいと願う物じゃないから。欲しいのは、高洲湊。彼を一目見た時から傍にいて欲しいと思った。それはどんなことをしてでも。だから作りたくもない友達を作って、彼の動きを追うことにした。
幸いにして、池谷さよりの家の者は私が望むモノを生産している側。そういう意味では池谷の力も捨てたものじゃない。さよりは私の敵じゃないけど、油断はしない。私を捨てて、池谷さよりと仲良しを演じる。それが彼に近づく道なのだから……。
「さよちゃん、高洲君のことは?」
「湊のことは嫌いじゃないわ。けれど、何だかあの声がとても響くの……どうしてかしら? 体育祭のあのセリフがいつまでもわたしの中にこだましているの。これってもしかしなくても――」
「さよちゃんが思うのならそうかもしれないね」
「そ、そうよね! きっとそうに違いないわ。ありがと、あゆ」
「……いいよ。想うのは自由だから――」
高洲君の声は何の特色のない女子ならすぐに骨抜きにする魅力がある。さよりのように、見た目から入った女には、後から侵すほどの力がある。だからさよりはあっさりと落ちたんだ。でもね、彼はさよちゃんを選ばないよ……彼は危険を望む傾向にあるから。だからきっと、自然と私を求めるようになる……きっと、きっとね。
「そういえば、鮫浜は俺の声には何も反応しないんだな?」
「身悶えて欲しいならそうする」
「いやいやいや、結構です!」
「じゃあ、濡らしても?」
「キコエナーい」
どこを? なんてとこまでは言っていない。バカっぽい彼は、とてもピュア。さよりの方がずっと汚れている。だからある程度までは許せても、彼をさより側へは向かわせない。彼を操作出来るのは私だけだ。
「湊くん、私はキミのモノだよ。どうする?」
「ど、どうしろと?」
「そのうちキミは、彼女よりも私を求めるよ。だから今は答えなくていいからね……」
「お、おぉ。よく分からんが、ありがとう?」
「どういたしまして……クスッ」
「天使の微笑、頂きました」
色々名付けてくれているみたいだけど、どれでもいい。今はまだ、私を保てているからね……。
誤字を修正しました。




