68.某お嬢様の日常すぎる日常 SS④
「嫌いじゃない」
「そ、そうね。それはわたくしも同じだわ。じゃあ、あゆも彼のことを好きという感じにはならないのね?」
「……分からない」
分からないのはわたしも同じ。だけれど、これってわたしたちの勝手な言い分なのよね。彼は、本当はちゃんとお付き合いをしたい、好きと言い合いたい。きっとそれが本音なのだと感じているわ。あゆは分からないけれど、わたしは彼の優しさに甘えてしまっている。だから曖昧な関係のままで、近づいているんだわ。
「手、手に触れただけで妊娠してしまうじゃない! あなた、わたくしをどうするつもり? 責任を取るつもりがあるのかしら」
「お前なあ……どこ情報だよ。どこの世界に手が触れただけで、子供が出来るって言うんだ?」
「た、確かアニメの……い、いえ、何でもないわ」
アニメは架空のお話。そんなのは分かっているわ。それでも、今までわたしに直に触れてきた男の子なんていなかった。驚くに決まっている。
許嫁なんていない。けれども、新しく越した場所で出会う男の子が、わたしの将来に関わるかもしれない。そうお父様から聞かされて、それを信じてきた。幼き頃から、 わたしを映すカメラと、大人たちに囲まれて育ってきた。これは当然ね。可愛い女の子を映すのは大人の義務よ。
そうして、高校に上がるとますます注目を浴びるようにはなったけれど、婚約の話が出てくるようになった。これはおかしいことだわ。 わたしはお父様の為に応じているだけに過ぎない。それなのに、見知らぬ男たちは関係の無いお誘いをしてくる。男って面倒だわ。大人の男なんてみんな同じ。わたしは、同い年の子がいい。だから、引っ越しした先で出会う男の子を夫にしたい。
いつも彼の近くにいる。それだけで、彼のことを知ることが出来るはずだわ。好きになれたら好きになりたい。それだけで、わたしはいい。わたしの想いは、わたしだけのものだから。




