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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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67.日々平穏なんて俺の辞書には書かれない:高洲湊が思うこと。


 以前より、一日が素直に終われなくなっているのは気のせいだろうか。普通に朝起きて、適当飯を口にして制服に着替えて登校する。学校は可も無く不可もなく、誰と話すわけでもなく自由気ままに放課後まで。その後は平凡なバイトをして家に帰って、寝て翌日。

 

 これが俺の一日の流れだった。友達とどこかへ行くだとか、ましてや女子と話をするだとかそんなのはまるで無かった。何と言っても非モテである。中学に比べると、声の関係で多少は女子からの反応が出てくるようになったものの、誰かと話すなんてことにはならなかった。浅海は見た目が美少女だが男だ。男だけど、プライベートで気軽に誘うなんてことは出来ず、ごくまれに、外で出会うくらいだった。一緒にどこかへ遊びに行っていたのは、中学の時に浅海と知り合って直後くらいだろう。高校に上がったら格段に美少女になってしまったので、迂闊に近づいてはいけないという俺の警告アラームが、どこかで鳴ってしまった。それが今や、学園一の美少女たちが、俺に接近してさらには好意を示すようになっていた。ただし、彼女ではない。


「ねえねえ、湊」

「あん?」

「どうして土日ではなく、学校がある平日にバイトをしているの?」

「暇だから」

「土日の方が暇なのでは無くて?」

「遊びたいだろ。そこは!」

「……残念な男の子なのね。それは確かにおバカさんにもなるわ。あなたにはしっかりとした家庭教師が必要すぎるわ。わ、わたくしならしっかりと教えることが出来るわよ?」

「あー……無理しなくていいぞ。別に焦る学年じゃないんだし、成績が上位だからって学費免除にもならないし、非モテがモテに変わるわけでもないしな」

 単に面倒なだけだ。そして今は非モテかというとどうだろうか。幼馴染でもなければ、彼女でもないのに、朝はお隣さんが一緒に登校するようになったし、教室でも何故か充実な奴として勝手に認定されているし、担任からも目を付けられるようになった。サガンだけに。


「いいえ、わたくしが湊を正しき勉学の道へ進ませるわ! あなたがそうじゃないと、苦労することが目に見えてしまうもの」

「俺だけ苦労してればいいんじゃねえの?」

「嫌よ、そんなの! いいこと? あなたには苦労なんてさせないわ! これも良妻の務めなの」

「リョウサイ? なんだそりゃ、美味しいのか?」

「はぁ……残念過ぎるわ。と、とにかく、バイトが無い日はわたくしの家に来なさい。いいわね?」

「飯はどうすんだよ? お前――さよりは作れねえだろうが」

「姫がいるわ。わたくしも少しずつ上達する予定ですもの。まさしく、湊の成績とシンクロするように……」

「へーオムネさんは全くそんな兆しが見えないのに? ブラジャーマニアは言うことが違うな」

「――あ?」

「あー……っと、遅刻しそうだ! 先に行くぞ」

「待てやゴラァ!」

 とまぁ、朝から疲れるようになった。いや、憑かれるようになった……か? 以前は俺が彼女に残念というタブーな言葉を使用して、それはそれは暴力性豊かな女へと変化していたのだが、今は逆になった。彼女が俺に対して残念を使用することになったのだ。それを言われたところで俺は何も思わない。昔から言われ慣れているからだ。そして今はブラジャーネタでキレられるようになった。本当の所、女子にそんなことを言ってはいけないし、ネタにもしてはいけないのだが、事実だしオムネさんの成長を願ってやまない。


 教室に着く前に、さよりは必ず距離を取って別々に歩き出す。今さらなんじゃないのかと言ったこともあるが、「勘違いしないでくれるかしら」などとツンツンしていたので、俺も「デスヨネー」と言ってそのままにした。勘違いも何も、朝の登校を一緒にするだけで何をどう誤解されるのかを説明して欲しい。登校程度で誤解されてしまうなら、男女で登校しただけでみんなカレカノ関係になってしまうじゃないか。


「おっす」

「高洲か。おは」

 俺にはいつからか、3人くらいのダチ候補が出来ていた。たまに話す蟹沢と、割と話す貝塚。そして、そこそこ話す上福岡かみふくおかくん。今朝は上福岡くんが声をかけてきた。彼は一応、礼儀正しい。そして情報を持っているし、何だかんだで中学の時にハマっていたアニメの話なんかも出来る唯一の男だ。


「そういや、聞いたか?」

「ん?」

「転校生の話」

「二人の美少女か?」

「それだ! 二人ともウチのクラスに来る予定だったんだが、どういうわけかBとDのクラスに分けられたらしいんだよ」

「BとD? 欠員でも出たのか?」

 Bは確か浮間がいて、Dは舟渡だったか。


「それな! 浮間って奴と舟渡って奴はしばらく旅行に行くらしいぞ。全くブルジョアめ。イケメンは金もありやがる」

「へぇ~そうなんか。じゃあウチには入らないのか? 二人の空き枠があるぞ?」

「そこは察しろ! フルネームではないだろうけど、女子が入って来るらしい。まぁ、どうせすぐに浅海の取り巻き女子と化しそうだけどな」

「浅海のか。それならいいや」

 なるほど。イケメンは金があるからいつでも旅行とか留学と称して、海外へ行けるんだな。羨ましくないが、色んな意味で羨ましいぞ。磯貝しずと海野ほたる……良かった、ばらけてくれた。ただでさえ、さよりとバトったしずだ。あんな姉御っぽい女がウチのクラスに来たら、それに影響されてさよりが再び暴力性の女に戻るかもしれん。さらにいうと、俺のことを何故か「高洲様」とか呼ぶロリッ子。あんなのが同じ空間にいるだけで、沈静化してきたモブ男子どもが戦闘状態になってもおかしくない。


「さよ……池谷は話せる女子が出来たのか?」

「らしいな。綺麗な奴は綺麗なモノに惹かれるんじゃね? 知らんけど」

「じゃあ、鮫浜は?」

「鮫浜は……俺も良く分からんけど、見えない壁があるから話しかけてはいけないみたいだ。高洲だけが許されてるわけだし、好かれてるんじゃねえの? 羨ましい……かどうかは何とも言えんけど」

「あーうん……」

 それは確かにそうだな。鮫浜は初期に比べたら、俺の声には反応するようになったし話しかけても、冷たくあしらうことは無くなった気がする。何度かキスしてるのに、それでもさよりに比べたら仲が良くなったとか、親しくなったとか、そんな感じにはなっていない。最近は不法侵入も無くなった。べ、別に不法侵入して欲しいだなんて思ってなどない! ただ、寂しい感じは受けているだけだ。


 極上な美少女でもあるさよりと一緒にいる時間が増えた。それだけでも、他の男どもから妬まれそうだが、オムネさんが以下略なのは俺以外の野郎もすでに知っている。それだけにそうはなっていないから、男というのは自分も含めてつくづく、美少女に完璧を求めすぎているということになるのだろう。だけど、さよりは実際の所、オムネさんを省いてもやはり綺麗であり、そして可愛いのだ。最近は本当にそれを感じるようになっていた。ほぼ、毎日話をしているのに毎回違う顔を見せてくるから魅力ありすぎなのだろう。


「なぁ、ただの友達なのに何で俺を家に入れてくれるんだ?」

「何を言うかと思えば、そんなくだらないことを言うなんて本当に残念な男の子なのね……」

「くっ……残念を使いすぎるなっての!」

「そっくり返すわ」

「あーうん……ごめんなさい」

「隣の家なのに何を遠慮するの? そ、それにあなたとは勝手知ったる仲なのではなくて? あなたが望むサイズではないけれど、わたくしのムネに触れたのだから責任は生じているのよ?」

「せ、責任?」

「うふふっ、そうよ。だから、湊がわたくしの家に来ることを、疑問に思う意味が分からないわ」

 あぁ、ちくしょう。可愛いな。好きになってしまったのか。だけど、彼女じゃない。何だかなぁ……。

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